顧客さえ気づかないニーズを提供する
[要旨]
松江市にある島根電工の社長を務める荒木恭司さんは、リッツカールトンホテルでは、顧客を満足させるだけでは足らず、顧客さえ気づかないニーズをつかんで提供することで感動を生み出すことを目指しているという事例を参考に、自社でも顧客を感動させることをスローガンにし、それを実践する組織である「おたすけ隊」をつくったそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、島根電工の社長の荒木恭司さんのご著書、「『不思議な会社』に不思議なんてない」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、荒木さんが、スカンジナビア航空が、運輸業からサービス業にドメインチェンジを行なった事例を参考に、自社もドメインチェンジを行う必要があると考え、また、これにより、設備工事の需要がなくなっても、快適な環境を提供するサービス業として生き残りができると考えているということについて説明しました。
これに続いて、荒木さんは、スカンジナビア航空の他に、リッツ・カールトンからも大きな影響を受けたと述べておられます。「私が最も感動した、リッツ・カールトンのエピソードを紹介します。それは、営繕係がとった行動と、それに対してホテルオーナーがつぶやいたひと言についての話です。ある客が、リッツのロビーに座っていました。(中略)そのロビーに脚立を持った営繕係が、蛍光灯の交換にやってきました。
すると、プールサイドから2人の子どもを連れていた若いご婦人がやってくるのが見えました。婦人は。廊下に続くドアを開けようとしたのですが、両手は荷物と子どもだちの手を握っていてふさがっています。営繕係は、すぐさま飛んで行ってドアを開け、子どもたちに、『どう?プール楽しかった?』と、優しく話しかけました。そして、彼らをエレベーターまで案内すると、ちゃんと行き先の階のボタンまで押しあげていたのです。客はたいそう感動しました。
客は戻ってきた営繕係を呼び止めて聞いてみました。『今のは君の仕事じゃないだろう?なぜ、フロントか客室係にやらせようとしなかったんだ?』と。営繕係はにっこり微笑んで、こう言いました。『私の仕事はゲストがリッツにきてよかった、と思ってお帰りいただくことです』客は、ますます感動しました。『だからリッツはリピート率が90%なんだ』と思ったそうです。後日、その客は、リッツのオーナーと会う機会がありました。早速、先日の営繕係のエピソードを伝えたそうです。
ところが、リッツのオーナーは大きなタメ息をつきながら言いました。『だから、うちはダメなんだ』と。客は思わず耳を疑いました。『うちはすごいでしょう』ではなく、『だから、うちはダメんだんだ』とはどういうことなのでしょうか。リッツのオーナーはこう言いました。『お客さまがドアのところに行く前に気がついて、ドアを開けて待っていなくてはいけないんですよ。お客さまでさえ気づかないニーズをつかんで提供しなければ、感動は起きないんです。
お客さまが“えっ、そこまでやってくれるの”と思ってしまうようなサービスでなければ、感動を生むことはできません』これがリッツのサービスの神髄です。単に、期待に応えるだけでは満足はしても感動は生まれません。『満足』と『感動』は違うのです。例えば、美味しいと評判のレストランに行って、期待通りに美味しい料理が出てきたら、どうでしょう。私たちは満足しますが、感動まではいきません。『やっぱり美味しかったね』と満足して終わりです。『期待を超える感動』が必要なのです」(22ページ)
荒木さんがご紹介しておられお話からは、いくつかの学びがあると思います。1つめは、営繕係の方は、営繕係に所属していますが、所属にこだわることなく顧客に満足してもらう役割を積極的に担おうとしていることです。2つめは、オーナーが、顧客に満足を感じてもらうだけでは足らず、「お客さまでさえ気づかないニーズをつかんで提供しなければ、感動は起きない」と、ホテルのオーナーが指摘していることです。ちなみに、荒木さんも、島根電工のスローガンを、「期待を超える感動を!」に変えたそうです。
そして、顧客に感動を与えることができるようになれば、会社の競争力が高まり、収益も増加するでしょう。しかしながら、顧客に感動してもらうだけでなく、満足を与えることも、決して容易なことではありません。だからこそ、自社が顧客に感動してもらえるようになれば、ブルーオーシャンに近い事業展開をできるようになるでしょう。実際に、島根電工では、「期待を超える感動」を生み出すために、「おたすけ隊」という組織をつくり、業績向上に成功しているようです。
したがって、自社の競争力を高めるためには、単に、ドメインチェンジだけでなく、さらに「感動」を生み出すことを目指すことが鍵になると思います。繰り返しになりますが、感動を生み出せる会社を実現することは難易度が高いことは事実ですが、価格競争の繰り広げられているレッドオーシャンから抜け出し、ブルーオーシャンで事業展開をできるようにするためにも、感動を生み出す会社を目指すことは、21世紀の会社らしい経営戦略ではないでしょうか?
2024/2/28 No.2632
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?