『差別化』ではなく『差異化』を目指す
[要旨]
ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、「ポジショニング=差別化」という認識でいる限り、競合との“価値”競争になってしまい、その価値が価値として感じ取れなくなった時点で、“価格”競争というラットレースに変わるということです。そこで、「ポジショニング=差異化」、すなわち、ブランドは、同質化されない、あるいは、同質化できないまったく性質の異なる自社独自の価値を見つける必要があるということだそうです。
[本文]
今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、ブランドづくりのためにミッション等を初めて策定した会社では、従業員が辞めていく可能性がありますが、多くの経営者は、それでもブランドづくりを進めようとし、その理由は、自社ブランドの価値観にどうしても合わせられない従業員がいたままでは、ミッションやビジョンを実現することは困難だということを、直感的に理解できているからだということについて説明しました。
これに続いて、渡部さんは、ポジショニングは差別化ではなく差異化であるということについて述べておられます。「『ポジショニング=差別化』という認識でいる限り、競合との“価値”競争になってしまい、その価値が価値として感じ取れなくなった時点で、“価格”競争というラットレースに変わるのです。そうならないために、ポジショニングでは、次のことを意識してください。
それは、『ポジショニング=差異化』という認識を持つことです。差異化の定義は、『まったく性質の異なるものとして区別すること』、つまり、ブランドは、同質化されない、あるいは、同質化できないまったく性質の異なる自社独自の価値を見つける必要があるということです。ここで、アメリカの『ザッポス』という企業の例をあげましょう。ザッポスは、靴を中心としたアパレル関連の通販小売店を運営している企業ですが、他に例のないカスタマーサポートで、他社との差異化に成功しました。
その特徴を、一部、ご紹介します。(1)24時間365日対応の顧客サービス。(2)可能な限り翌日配送。(3)送料や返品は無料。(4)購入から365日以内であれば、何度でも返品が可能。(5)在庫にない靴に関して問い合わせがあった場合には、少なくとも他社サイトを3社調べ、その情報を顧客に伝える。他社の商品情報を自社の顧客に伝えるなど、短期的に見れば売上につながらないどころか、マイナスです。
しかし、ザッポスでは、顧客からの問い合わせに対して誠実に対応することで、顧客にとって代わりのきかないブランドとして認知されています。つまり、差異化です。ザッポスは、お客様と電話越しに接点を持てることを、『この上ないブランディングの機会』と捉えるだけでなく、それを実践し続けたことで、多額の費用をかけることなく、口コミで売上を増やしていくことに成功しました。
例えば、ザッポスの競合が先のことを知ったところで、すぐに真似をできるでしょうか?顧客満足を第一に考え、さらに、そのサービスを徹底して提供できるよう、社員教育も並行して行っていることを考えると、容易に真似することはできないでしょう。そのような真似のできないザッポス独自の価値こそが、差異化が成功した要因と言えるでしょう。その価値をつくるために必要なのが、ペルソナ(お客様の視点)です。
自分たちが考える独自性でポジショニングをするのではなく、ペルソナが感じる独自性のある価値をいくつも考え、それらの価値を有機的につなげることで、お客様から見て競合とはまったく性質の異なるブランドとして認知されます。競合との優劣だけにフォーカスし、お客様を置き去りにするのではなく、『ペルソナ(お客様)なら、何に対して価値を感じるのか?』という部分に焦点を当てることこそがポジショニングの要なのです」(203ページ)
渡部さんの、「ブランドは、同質化されない、あるいは、同質化できないまったく性質の異なる自社独自の価値を見つける必要がある」というご指摘は、まったくその通りだと思いますが、私は別の観点からも、その重要性を感じています。というのは、現在は、コト消費、イミ消費、顧客体験価値が重視される時代です。そうであれば、商品を提供する側は、「何を提供するのか」ではなく、「どのように提供するのか」に注力しなければなりません。
渡部さんは、「ザッポスは、お客様と電話越しに接点を持てることを、『この上ないブランディングの機会』と捉えるだけでなく、それを実践し続けたことで、多額の費用をかけることなく、口コミで売上を増やしていくことに成功した」と述べておられますが、同社では、商品そのものではなく、顧客が安心して買い物をできる経験を提供しています。
したがって、同社は販売している商品ではなく、その販売方法によって、会社そのものが評価され、売上を増加させたと言えます。すなわち、ザッポスの顧客は、ザッポスを利用したとき、その経験に対する評価を「ブランド」として記憶していったのでしょう。そこで、こういった「顧客体験価値」は、有形の商品ではないので、他社には真似されにくい「差異化」を図ることができるのだと思います。
ただし、ザッポスの例からも分かるように、顧客体験価値の提供は、難易度が高いということも事実だと思います。しかし、有形の商品だけで「差別化」をしようとすれば、渡部さんがご指摘してられるように、価格競争に陥ることになるでしょう。このような現在の経営環境は、経営者の方にとっては厳しい面がありますが、事業の優劣は、顧客体験価値を提供できる能力によって決まると言えます。したがって、今後、事業改善を図ろうとする経営者の方は、顧客体験価値による「差異化」に力を注がなければなりません。
2024/7/15 No.2770
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