顧客の満足をつくる『ひと』をつくる
[要旨]
大阪市の三和建設では、2001年に業績不振からリストラを行なったことを教訓にして、「つくるひとをつくる」を経営理念にしました。これは、人づくりによって、企業の継続性・永続性を担保するためのもので、そのことによって顧客満足も実現できるという考えによるものです。
[本文]
大阪府大阪市に本社のある三和建設の社長をお務めの、森本尚孝さんのご著書、「人に困らない経営-すごい中小建設会社の理念改革-」を拝読しました。三和建設は、1947年創業の総合建設会社で、2001年の不況の際、リストラを行なったそうです。同年、森本さんは同社に入社し、2008年に、父親の前社長から経営を引き継ぎ、4代目社長に就任しました。そして、森本さんは、同社が再びリストラを行うようなことにならないよう、「つくるひとをつくる」という経営理念を掲げたそうです。
「この、『つくるひとをつくる』という経営理念は、内向きでお客さまの方を向いていないのではないかという指摘を受けることがある。しかし、お客さまの満足をつくるのも、やはり『ひと』である。私たちは、お客さまの満足をつくる『ひと』をつくっている。実は、このような『ひと』依存の考え方は、ゼネコンという業態を考えれば当然のことでもある。お客さまにとって、建設発注は、これから建てるものへの投資であり、契約したから無事に出来上がる保証などないのである。
万一、建設会社が倒産したり、仕事を放り出したりしたら、すべて終わりである。失った時間も、その建物の稼働を前提にしたビジネスチャンスの喪失も、取り返しがつかない。もちろん、多くの善良なる建設会社は、このような事態を発生させず、約束をきちんと果たしている。しかし、任せるゼネコンの選定については、本当に信頼できるかどうか、慎重を期すべきである。加えて言うならば、ゼネコンは建てて終わりではなく、引き渡し後も、メンテナンスなど、お客さまの目的が達成されるように寄り添う必要がある。本当のお客さまの満足を得るためには、企業の永続が前提になる。
『つくるひとをつくる』という経営理念は、人づくりによって、企業の継続性・永続性を担保するためのものなので、この意味でも、お客さまの満足に直結している。かつて、松下幸之助翁は言った。『松下電器とは、人を育てるためにある会社である、そして、そのついでに電器製品をつくっている』と。家電も建物も、決して、『ついでに』つくることができるほど、簡単なものではないが、私たちの精神も同じところに宿っている。建設発注は、その会社にいる、『ひと』にかけることでもある。だからこそ、建物をつくる前に、『ひと』をつくらなければならないのである」
私は、顧客満足を高めるには、まず、従業員満足を高めなければならないと考えていました。このような簡単から、従業員満足を高める活動は重要であると考えていました。しかし、現在は、製品そのものの優劣はほとんどなくなってきていることから、製品に付帯する無形のサービスなどで優劣がつく時代になってきていると考えることができます。そこで、無形の部分での優劣は、従業員の方の能力で差がつくということになります。ですから、建設会社のような業種であっても、品質の高い建物を建てることができることは当然であり、さらに、従業員の能力も顧客の評価の対象になっているということです。
これは、従業員そのものが商品になっていると言えると思います。そういう観点からは、森本さんの掲げた、「つくるひとをつくる」という経営理念は、建設会社は建物の前に、まず、優秀な従業員を育成しなければならないということを示しており、正鵠を得る考え方だと思います。とはいえ、一朝一夕ではひとづくりをすることはできないということも現実ですが、「顧客から評価される従業員を育成できなければ、これからは、業績を高めることはできない」と考え、従業員育成に注力していかなければならないということに間違いはないと言えるでしょう。
2024/1/26 No.2599
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