哀しみと喜びと、絶望と希望と~サミュエル・バーバー「弦楽のためのアダージョ」
先日、映画「プラトーン」を見た。戦争映画の傑作である。
戦場のリアル、人間の善悪と葛藤を描いていて、凄惨な場面も多いのだが、全体的に覆うのは静謐さだと感じた。
それをより効果的にしているのが音楽であろう。
たとえばこの、中盤で主人公の上官が見殺しにあう場面。プラトーンと言えばこのポーズが頭に浮かぶが実はこれはこの上官の最後を描いている。
そして、エンディング。主人公が負傷により戦場を離れるシーン。
戦場を離れることは兵士にとってこれ以上ない喜び。しかしそこに漂う感情はどことなく哀しみに包まれている。
この二つの場面で流れている音楽、それがサミュエル・バーバー作曲の「弦楽のためのアダージョ」である。
知ってはいたのだが、この映画を観て改めてその素晴らしさに気づかされた。
元々は特に意識されてはいなかったが、今では追悼の場に使われることが多い(バーバー自身は不本意だったらしい)。日本でも昭和天皇崩御に際して、どこかで演奏されたようだ。
哀しみ、絶望、諦めだけではなく、歓び、希望、克己、をも両義的に表現しているようで、とても奥深い。人間のあらゆる感情が封じ込められているかのよう。
聴きどころは、中ほどで向かえるクライマックスからのカタルシス。これはもちろんだが、静かに迎えるエンディングも聞き逃せない。ここで心はどう感じているかを見つめると、新たな自分を発見できそうな気がする。