3分で読めるエッセイ|『森を大切に思えば、争いはなくなる』
森が好きだ。北の森が。
北の森の生き物たちがもっとも輝くのは、やはり夏至の直前だ。
この季節に森に行くのが、大好きだ。
良く晴れた夏至前の朝の森ほどこの世で美しい場所はない、とすら思う。
まず、植物たちの色味が全然違う。色でいうと、うっすらと青色の光のヴェールがかかったような。さあっと風が吹いたとき、木々が葉を揺らす音も違う。軽やかだ。さらに、光自体もこの時期が一番透明で、輝きに満ちている。
森にはきっと妖精が住んでいる。夏至の日には、妖精たちのダンスが聞こえるのだ。
以下に、私が思う『妖精たちのダンス』のイメージと極めて近い演奏をご紹介する。
白樺の木が恋しくて、仕事を変えた。
朝の森に通うために、森の近くに引っ越した。
本気で歩くので、足元は奮発して買ったトレッキングシューズ、首にはタオル、温度調節するためTシャツの上にパーカーという装備で森に向かう。
森は美しい。
皆でワイワイ、というよりは一人で森に入るのが好きだ。森の入り口で、『来ました』と呟く。森に一歩足を踏み入れた時から、空気が変わる。木々や草花の青緑の匂いが鼻をくすぐる。
ここで、深呼吸。下界で染みついたいらないものを吐き出し、森の息吹で肺を満たす。
本当に、心地いい。
木々の葉のささやきを横目に、足元の可憐な草花を愛でる。いつも出迎えてくれる老木が、古くからの友人のように感じる。行きかう人々は皆礼儀正しく、「こんにちは」と互いに声を掛けあい、キツツキやリスがいれば「ほら、あそこですよ」と教えあう。
森に通い始めて二週間くらい経ったころだろうか。いつも凝り固まっていた頭の芯がほぐれ、気持ちが静かになるのを感じた。仕事はストレスフルだが、森に出かけると、木々や草花たちがどんどんストレスを中和してくれる。
植物たちや、風や雨とさえも友達になる感覚。
人ごみにいるときは孤独を感じるが、森にたった一人で入っても孤独を感じない。
人は自然と結びつくことで、こんなにも静かな心に戻ることが出来るのだ。
私にとって森は必要不可欠な存在である。働くために森に行くのか、森に行くために働くのか、気づくとわからなくなっている。
夏至前の、生命たちの喜び。毎年私もその時を一緒に祝う。
人間は自然の一部だと感じられる心地よさを、ぜひ多くの人に知ってほしい。
皆が森を大切に思えば、争いはなくなると本気で思っている。