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モノローグでモノクロームな世界
第十部 第四章
五、
僕達のこの行為が正しかったのか、それともナインヘルツのように、人々に嘘をついてでも綺麗な世界のまま、留めることが正しかったのか。
あのシステムを止めた今も、その判断はつかないままだ。
無論、人々を助けたい、そう思い行った行為だった。だが、その後の世界がどうなるのかなど、今の時点で誰にも分からない。だから、それが間違っていた行為ならば、罰せられなければならないし、その覚悟は
モノローグでモノクロームな世界
第十部 第四章
四、
陶器のようにきめ細やかな肌。
気持ちよさそうに眠る表情を浮かべるその顔。
絶えず不快な振動音を発生させている羽根の存在が無ければ、きっと何時間でも、それらを見つめていられた事だろう。
背から生えた薄い羽根は硝子細工のように繊細だった。
二匹の蜂が入った、透明なケースの前には、電子パネルがついており、ケイが片手を翳すと、パスワードを入力する画面が現れた。
彼はそこに、神代真
モノローグでモノクロームな世界
第十部 第四章
三、
「マトビ、ケイが最後に話した事、覚えている?」
「あぁ。」
エレベーターに乗り込む直前、彼はTheBeeを破壊する暗号をその手にしっかり握ると彼に告げた。
『それでも僕は貴方が創ったこの歪な世界を愛していました。
貴方にとって、ここは復讐のために築いた未完成な世界だったかもしれない。
でも、この世界だったからこそ、出会えた人が居て、この世界だったからこそ、沢山の事を学べたよ
モノローグでモノクロームな世界
第十部 第四章
二、
「それであんたは永らく、ワームという反ナインヘルツの組織を率いながら、裏でこっそりナインヘルツを動かしていたっていうのか?」
「自分でも矛盾した行為なのは、君に指摘されるまでも無く、嫌という程分かっているつもりだよ。
一つだけ補足をするならば、ワームを実際に率いているのは、私ではなく、リトリであり、彼女に意見をするワームの人々全員だよ。
それにナインヘルツに関しても、私
モノローグでモノクロームな世界
第十部 第四章
一、
「神代真飛、久しぶりだな。」
「・・・・・・君は、確か副島博士の孫か。」
「よく覚えていたな。それにしても、あんた、あれから全く変わってないな。気味が悪いくらいだ。」
「私は年が取れないんだ。」
「そりゃあ、こんな地下深くにいれば、どんな人間だってそうなるだろうよ。」
副島は、そう言いながら彼の隠れ家をぐるりと見回した。
真っ白な壁に真っ白な家具。窓も無い部屋は一面、白く
モノローグでモノクロームな世界
第十部 第三章
三、
二重の壁の近くに、付属品のように建てられた小さな建物。
それが神代真飛から教えてもらったTheBeeのシステムを司る建物だった。建物の付近には、見渡す限り、警備の者も警備システムも見当たらなかった。この世界を創っているシステムがこんなに野放しな状態とは。神代から教えられていなかったら、ケイ自身、この小さな建物内に重要なシステムがあるとは信じなかったであろう。
外側の壁に、
モノローグでモノクロームな世界
第十部 第三章
二、
この世界には他にも問題が多い。
安心安全の名のもとに集められた人々の個人情報。それらは、感情という極めてパーソナルな部分まで全てが数値化され判断される。
そして、そこにそぐわないと判断された人々は、壁の外へと追放される。意思も生まれも関係なく。
壁の中の人々にしても、かつての西暦世界のような自由度は極めて低い。人々はこれら収集された個人の情報に基づき、将来の職業選択が適宜
モノローグでモノクロームな世界
第十部 第三章
一、
副島にとって、壁の中の世界は本当に善き場所だったのかは分からない。もしかしたら、あの時祖父に着いてワームに行った方が、幸せだったかもしれないとさえ、時々思う。
副島は、壁の外に完全に出た事は一度もない。
サカイで暮らすワーム以外の彼らの居住先は、皆、壁の外だ。ポッドという舟の中での暮らしではあるが、それがどんな生活なのか、彼には全く想像さえできない。
壁の外はどんな世界
モノローグでモノクロームな世界
第十部 第二章
三、
TheBeeのシステムの内、人々に幻覚のような共感覚を引き起こすシステムを止める事。それが、ケイに課せられた任務だった。
壁の外の実地調査が終わり、人々が再び暮らしていけるような安全面が確保されれば、いずれ壁は壊されるだろう。だが、そこまで世界を導いていく必要がある。その為に、ワームは存在する。そう彼は説明をしてくれた。
壁が担う循環システムは維持したまま、共感覚を引き
モノローグでモノクロームな世界
第十部 第二章
二、
ツツジと別れたケイは、足早に懐かしい施設内を歩き続ける。
二重の壁が視界に映る大きな窓。
人の熱に反応して次々と灯る回廊。
よくツツジと休憩中に談笑していたラウンジ。
停泊中の舟が一望できる渡り廊下。
今、眼下に映る舟の中で一番小さな機体が、ケイがダームシティから乗船してきた舟だった。
燃料は片道分だけ。帰りの舟の予定は無い。
神代真飛の話によれば、世界中の壁は十月国の
モノローグでモノクロームな世界
第十部 第二章
一、
あの時、全てを棄てる覚悟でこの壁を出た筈だった。
だが、いざ壁の中へ、生まれ育った国へと帰って来たケイの心中は、温かいもので一杯だった。
これが郷愁というものなのだろうか。
喪われた古い書物に書かれていた、今はもう誰も使わない言葉。
壁の外から出る事なく、国から出る事なく、生まれたその場所で、ずっと生きていたならば、その言葉が持つ意味も、その言葉が意味する感情も味わうこと
モノローグでモノクロームな世界
第十部 第一章
三、
胸ポケットからサカイの闇市で仕入れた紙煙草を取り出すと、口に咥え、火を灯す。
紫煙を胸一杯に吸い込むと、散らばった思考が一つにまとまっていくような気がした。
彼のトリプル・システムは、まるで持ち主の意向を汲んだように、副島自身がこれは身の危険だと感知すること以外は、判定が緩い。検閲官という立場上、特例措置が取られていることを考えても、多少の事態には、ありがたい事にデータ
モノローグでモノクロームな世界
第十部 第一章
二、
まだ副島が幼かった頃、祖父に『色』について尋ねたことがあった。
その時の祖父の驚愕と絶望が入り混じった表情も、父のこの世ならざる者を見たような凍り付いた表情も、母の腫れものに触れるようなよそよそしい態度も。
忘れようとしても忘れることが出来なかった。
その時の何気ないその一言が、彼の日常を、そして、家族の人生を、あっけなく壊してしまった。
違うと父は言ってくれた。母
モノローグでモノクロームな世界
第十部 第一章
一、
祖父の論文は、要約するとこうだった。
『TheBeeの共鳴装置が発生する共振動音。これにより、人々にある種の幻覚のような症状を引き起こし、言わば一種の集団催眠のような効果を壁の中にもたらしている。
壁の中には、一定間隔毎に衛生管理やエネルギー循環を行う必要があるため、TheBeeが設置されているが、この一定間隔に設置されたTheBeeはこれらの環境管理をする一方で、満遍な