一ノ瀬 織聖

いちのせ りせ。マイペースに小説書いてます。 日々の戯れ事ツイッターはこちら→ @reira_karen

一ノ瀬 織聖

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マガジン

最近の記事

Butterfly Effect 9

 あれから幾月経っただろう。 アリスは紫色のバタフライと共に消えたまま、僕は次第に一人の生活に慣れていった。  好きな時間に帰ってきて、好きなものを食べて、 好きなところに行く。 皆がアリスではなく、僕を見てくれる。 僕は満足していた。 ・・・・・・満足していたはずだった。  蜜色の満月は、本当のことをそっと教えてくれる。 僕は独りでいることを紛らわす為に、双子の金魚を飼い始めたこと。 その金魚の名前がルナとナルであることを、 満月にそっと教えた。

    • Butterfly Effect 8

       蝋燭のついていない燭台。 冷え切った暖炉。 閉め切られ真っ暗なままの室内。  アリスの姿はそこには無かった。それどころか、帰って来た形跡すら無かった。僕はどうすることも出来ずにただ、冷え切った室内で立ち尽くした。  月の光は静かにこの部屋の内側を映し出し、 床に一つきりの影を描き出す。  夜遅くになり、村中の人達が灯りを手に、森中を探し回ったけれど、結局彼女を見つけることはできなかった。 皆が口々に言った。 「アリスはどこに消えてしまったのだろう?」 彼等は誰一人として

      • Butterfly Effect 7

         機械仕掛けのバタフライ、アリス、雑貨屋のおじさん、僕の順で、僕らは森を抜ける秘密の抜け道を通っていた。 はっきり言って、僕は不快だった。 だって、アリスは僕の気持ちを無視して、自分の欲望だけを優先したのだから。  アリスに負ける運命かぁ。これも無駄な抵抗なのだろうか。  おじさんの背を追いながら、だらだらと歩く僕は、時折遅れがちになって、その度にちらりと心を霞むのは、このまま何処かへ行ってしまおうかという気持ち。 だって、アリスは僕のことなんか、ちっとも気に掛けずに、おじ

        • Butterfly Effect 6

          「これは?」_ゼンマイ式クロニクル 「じゃあ、こっちは?」_真珠入りハマグリのワイン漬け 「あぁ、君。今、不味そうだと思っただろう。いやいや、誤魔化しても無駄だ。ちゃんと顔に書いてある。 物は見かけによらないぞ。騙されたと思って、一つ食べてみるといい。これが、意外に美味しいんだよ。  ふむ、そうか。試食はいらないと。それは、残念だ。」 僕が丁寧に辞退をすると、店主のおじさんは、残念そうに、茶色に変色をしたそれを瓶へと戻した。  ここは、町に新しく出来た雑貨屋さん。 所狭し

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        • モノローグでモノクロームな世界
          119本
        • アラベスクもしくはトロイメライ
          29本

        記事

          Butterfly Effect 5

           『七色きのこのクリームスープ。熟成子羊のブリー・チーズ。 胚芽入り自家製パン。毒入り林檎のタルトタタンに食後の珈琲』 アームチェアーに座ってくつろぎながら、僕ら二人は明日をどう過ごすかについて議論をする。 右に座るアリスの提案は、町に新しく出来た雑貨屋を覗く。 僕の提案は、時忘れの森深くの小川で過ごす。  采配はどちら側に星が流れるか。 僕らは黙って、夜空を見上げ運命の時を待つ。  星が流れた。 結果はアリスの勝ち。 お祖母ちゃんが死に際に、僕に言い放った言葉が脳裏

          Butterfly Effect 5

          Butterfly Effect 4

           青空に似合うのは、アリスの方。 そう言ったのは、リスのカンジンスキーさんだ。 彼は煙管の煙を吐き出しながら、僕にそう呟いた。 今、アリスは青空の下で花摘みに勤しんでいる。  カンジンスキーさんは、先月、どんぐりの実を喉に詰まらせて 亡くなった。享年12歳。大往生だ。お葬式の日、僕は涙一つ流すことができなかった。それが唯一の心残り。  アリスの青いドレスの裾が僕の目に眩しく映る。 僕には一体何が似合うのだろう。 ふと思いついた疑問に、答えてくれる人はいなかった。

          Butterfly Effect 4

          Butterfly Effect 3

           あの日は何気なくやってきた。 何かが起こる予兆なんてこれっぽっちもなくて。 (この村は平和である事だけが取り柄だ。) だから、僕はその知らせにも、あぁ、そうか、ぐらいにしか 興味を示さなかった。  町に移動式サァカスが来た。 いつもとは違うサァカス集団だけれど、そこに大差はないよ。 そうだね、パレェドの日ぐらいは、見に行こうか。  僕とアリスはそれだけでこの会話を終わりにした。 今日の朝食では、お祖父さまへのお見舞いの品について決めることの方が、 遥かに大切だったから。

          Butterfly Effect 3

          Butterfly Effect 2

           連日までの雨が嘘のように、澄み切った青空がどこまでも果てしなく続いていた。 窓硝子越しに見上げた空は、あの日と似ている。 ただ、それだけが救いだった。  マグカップ片手に僕は、射し込む光が床に映し出す影を眺めていた。 どうして、影は一つだけなのだろう。 さっきから考えるのはその事ばかり。 その理由を僕は知っているはずなのに、頭がぼうっとして、よく思い出せない。  そう、あの日は青空が綺麗だったんだ。 全ての始まりの日。 僕らが、まだ僕らであることに何の疑問も持たなかった

          Butterfly Effect 2

          Butterfly Effect 1

           僕らは常に一緒にいた。 まるで一時でも会えなかったら、 壊れてしまう恋人のように。 同じ時間を共有し、同じ思考回路で、同じ空間に 生き続ける。 それが当たり前。少なくとも僕にとっては。 ねぇ、アリス。 君はいつから僕と違う思考回路を持ったのかい? 僕が永遠に掴むことのできなかった羽根で、 空高く飛んでいった・・・・・・ 君へ捧げる。

          Butterfly Effect 1

          アレグロ・バルバロ 15

           繰り返しを繰り返す小さな命。 そのどれもが美しく儚かった。 いや、違う。 儚いからこそ、美しいのだ。  わざと波打ち際を歩くハナの裸足の足下を、小さな泡がぶつかっては消えていった。  「君かい?翼を生き返らせる方法を探しているのは?」 その男はどこまでも続く夜の海岸で、突然声をかけてきた。 黒づくめの男に、ハナは頷き返した。すると、男は笑いながら彼女に答えた。 「そんな事は、簡単さ。君は翼を持つ者なのだから、君の片翼をあげればいい。それで、彼は元通り、両翼になる。空の向こ

          アレグロ・バルバロ 15

          アレグロ・バルバロ 14

           翼をもう一度、生き返らせる? そんな方法、知る訳ないじゃない。 道行く人々皆に聞いてみたが、皆、口を揃えてこう答えた。  森深くで出会った少女達も。 同じ服を着て、そっくりの笑みを浮かべる少女達の胸元で、結われた蝶々結びが、風で一斉に揺れる。手を繋いだ彼女達は、楽しそうな声をあげながら、尋ねたハナの周りをぐるりと取り囲んだ。 楽しそうに弧を描きながら、右に左にステップを刻む彼女達を円の中心からハナは眺める。 ひらひらヒラヒラひらひらヒラヒラ。 左回り。右回り。 ヒラヒラひ

          アレグロ・バルバロ 14

          アレグロ・バルバロ 13

          それからの日々は地獄のようだった。 アレグロは翼を失ったことを気にしていない振りをし続けた。 そんな事は無理な癖に。 そして、一番最悪的だったのは、それをさせているのが自分だという事だった。 あれから、彼はまるで何もかも諦めてしまったように、悲しそうに笑う。 その笑顔がハナは、大嫌いだった。 修復できない事を見せつけられているようだった。 ある日、アレグロはハナに話しかけてくれた。あの大嫌いな笑顔を浮かべながら。 「ハナ、これでよかったんだよ、これで、俺達はずっと一緒に

          アレグロ・バルバロ 13

          アレグロ・バルバロ12

           今、思えばきっかけはいつだって雨だった。 考えれば、それは簡単なことだ。 蛇の鱗の女とアレグロは度々会い、壁の向こうへの飛行について相談していたのだから。そこにハナの話が出てきたとしても、何も驚かないだろう。 蛇の鱗の女がうっかり、ハナの秘密を話してしまったとしても。 誰も驚かないだろう。少し考えれば分かったはずだった。  朝から続く偏頭痛。自己主張を続けるかのように足の傷が、じくじくと痛みだす。 冷蔵庫に入れておいた卵は、何故だか腐敗しきっていた。 手から滑り落ち、床

          アレグロ・バルバロ12

          アレグロ・バルバロ11

           私達はどこで間違えてしまったのだろうか。 最後に飛んでみようなんて、そんな馬鹿なことを考えてしまったから? 『貴方は貴方のままでとても綺麗よ。だから、この先の未来を見つめて。』 そう話してくれた蛇の鱗を持つ女に、口留めするのを忘れたから? 彼女は、続けて言った。 『皆、何かを失って、その代わりに何かを得て。そうやって、後悔と懺悔と少しの希望を抱きつつ生きているのよ。』 でも、私は知っている。 飛べない鳥は、とても無様で、役立たずで、少しの希望を抱く事も許されない程に、

          アレグロ・バルバロ11

          アレグロ・バルバロ 10

          『ねぇ、ハナ。私、知っているのよ。 貴方が飛べない事を。』  見る事が叶わないハナの為に、夜空の星を写し取った布を、天上に這わせてくれたのは、アレグロだった。 彼は時折、ハナの部屋を訪れては、天空までの飛行プランについて、説明をしてくれる。彼の話によれば、太陽の影響を考慮して、昼間に飛びたつ事から、夜の飛行へと変更をしたらしい。  昔、太陽に憧れて太陽まで飛んでみた人がいるんだってさ。 彼は、そんな話をベッドの中で毛布に包まりながら彼の話を聞いているハナに教えてくれた。 「

          アレグロ・バルバロ 10

          アレグロ・バルバロ 9

           月日は過ぎ、アマービレがこの地に来てから早くも半年が過ぎようとしていた。  ハナの怪我は、順調に回復をしていき、日常生活においては、特段の支障も無い程にまでなっていた。相変わらず、飛ぶことは出来ないので、配達の仕事はアレグロに任せ、ハナはアマービレの付き人の仕事に勤しむ毎日を送っている。  アマービレは、ここの所、彼女と一緒に堕ちた馬車へと足繁く通っていた。自分の国に向けて、SOSを出すためだ。 「CQCQ・・・・・・」 日に二回、太陽の光の影響を受けない時間帯になると、

          アレグロ・バルバロ 9