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モノローグでモノクロームな世界

第十部 第二章
二、
 ツツジと別れたケイは、足早に懐かしい施設内を歩き続ける。

二重の壁が視界に映る大きな窓。
人の熱に反応して次々と灯る回廊。
よくツツジと休憩中に談笑していたラウンジ。
停泊中の舟が一望できる渡り廊下。
今、眼下に映る舟の中で一番小さな機体が、ケイがダームシティから乗船してきた舟だった。
燃料は片道分だけ。帰りの舟の予定は無い。
 神代真飛の話によれば、世界中の壁は十月国の壁のシステムを利用している。だから、ここの壁のシステムを壊せば、同時に世界中の壁のシステムが停止する。ナインヘルツは、創建当時、自分達の本部が攻撃される事を懸念し、壁のシステムを他国に移した。それに東方の国である十月国が選ばれたのは、初めて実験的に壁が造られた場所がここだったからだ。
 この計画が成功したならば、いずれワームもサカイも無くなるだろう。
世界から人々を分断する壁は無くなるからだ。
だが、それはまだ先の話だ。
そして、ケイにとってこの場所は何があっても、どんな風になろうとも変わらずに故郷だ。
だから、この先どうなったとしても、たとえここで命を失うような事態になったとしても、自分からもう十月国を出ることはしないと決めた。
 真飛はそう話したケイの言葉を聞いても、帰りの舟を用意すると言ってくれた。
もしも、計画が失敗した時、帰れる場所が必要だと。
むざむざ命を無駄にする必要はないと。
彼の申し出は有難がったが、ケイは真飛の言葉に首を横に振った。

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