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note連続小説『むかしむかしの宇宙人』第13話

前回までのあらすじ
時は昭和31年。家事に仕事に大忙しの水谷幸子は、宇宙人を自称する奇妙な青年・バシャリと同居するはめに。バシャリの目的はラングシャックを探すことだった。

→前回の話(第12話)

→第1話

沈んだ気分を一新するために、さきほどの疑問を口にした。

「ねえ、どうして健吉が眠いことに気づいたの?」

「簡単ですよ」と、バシャリは気軽に答えた。

「心から浅葱色の感情色が表出していましたから」

「感情色?」


そのおかしな言葉が妙にひっかかったので、訊き返そうとしたとき、

「それよりこれは何でしょうか? 昼間から気になっていたのですよ」

バシャリがたたまれた洗濯ものの中からお父さんの腹まきを手にした。

「それは腹まきよ」

「はらまき?」

バシャリは一音一音確認するように、ゆっくりと訊きなおした。

「使用目的は何でしょうか?」

「貸してちょうだい」

腹まきを手にとり、わたしは自分のお腹にあててみせた。

「こうすればお腹が冷えないでしょ」

バシャリは黙ったまま、恍惚とした面もちで腹まきを凝視している。

「素晴らしい……」

「えっ?」

「幸子、これは恐るべき発明品ですよ!」


バシャリははしゃいだ声をあげた。あまりの感激ぶりに、わたしは目を白黒させた。

「なるほど腹部だけを暖めるか……これなら気温が低くとも腹部は暖かさを保てる……斬新な発想です」

バシャリは興奮をおさえられないような口調でそうつぶやくと、狂喜に満ちた目をわたしに向けた。

「幸子、どうかそれを私に借用させてはいただけませんか?」

断ったら何をされるかわからない……わたしは猛獣に餌をやるかのように、おそるおそる腹まきをさしだした。

「……どうぞ」

「ありがとうございます」

バシャリはそれを素早く身にまとった。そして体全体で感動をあらわすように腹まきをなでまわした。

「なんという保温効果でしょうか。これならば冷たい品を摂取しても腹痛が防げるに違いありません。

まさかこんな未開の星でこれほど素晴らしい品に出会うとは……さらに腹部を暖めるという効果だけではなく、この美しい形状……

まさに実用と芸術を融合させた逸品です」

あらん限りの言葉で腹まきを褒めたたえると、バシャリは遠慮がちに申し出た。

「幸子……こちらの腹まき大変貴重な品だとは思いますが、私めにお譲りいただけないでしょうか? 

何か交換できるものがあればと思案したのですが、これほどの逸品に釣り合うものを、私は現在所有しておりません。

ですが、どうしてもこの腹まきが欲しいのです。頂戴したあかつきには、どんなことでもいたします。何卒、何卒、お願いします

と、何度も頭を下げる。このまま何も言わずにいたら、おでこを畳にこすりつけかねない。あまりにおおげさな懇願に、わたしは閉口した。

「早く顔を上げてちょうだい。腹まきぐらいいくらでもあげるわ

バシャリはがばっと頭を上げると、

本当ですか! 私の命を助けてくれたばかりか、こんな貴重な品をお譲りくださるとは。

この銀河で、幸子ほど親切な人間はいません」


と全力で礼を述べた。

「どうですかこのらくだ色の繊細な色合い。これを装着すれば誰もが流行の発信源になれますよ。それに……」

これ以上、腹まきの話をされたらおかしくなるわ! 怒濤のように続く言葉をさえぎろうとすると、

「そうそう、もうひとつ気になっていたものがありました」

バシャリがふいに話題を変えた。気をそがれたわたしは、ため息を吐いて言った。

「……あなた、ずいぶんと知らないものが多いのね。難しい言葉はよく知ってるのに」

「人は生活の道具をあまり意識して使用しませんからね。その分、道具は言語粒子の濃度も低くなるため、感知するのが難しくなるのですよ。さあ、一緒に来てください」

→第14話に続く

作者から一言
ようやくバシャリは腹巻に出会いました。お腹の弱いアナパシタリ星人にとって、腹巻はかかせないアイテムです。昭和の男性は腹巻を愛用していました。みんなお腹が弱かったんですかね? ちなみに僕も腹巻愛用者です。

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