【連載小説】小五郎は逃げない 前半総括編
この物語はご存知の通り、私の頭の中で描いた空想です。ただしこの物語の主役である桂小五郎と岡田以蔵には、少なからず思い入れがありました。日本と言う国の礎を築いた桂、時代の潮流に飲み込まれた以蔵。対照的な意味で後世に語り継がれる二人ですが、あまりいいイメージが持たれていないような気がしています。そんなイメージを払拭したくて、この物語を考えてみました。賛否はあると思いますが、私のお話を少しお聞きいただけないでしょうか。
明治維新を成し遂げた幕末の英雄・桂小五郎。歴史小説やテレビドラマを見ていると、寡黙で愛想がなく、気難しいと言ったイメージで描かれていることが多いようです。幕府から追われる桂が、あちこちと逃げ回る様を描写した映像を見ることがありますが、あまりに誇張し過ぎではないかと思っていました。明治維新後の動乱の中、西郷隆盛は逃げ、非業の死を遂げました。しかし桂はどんなに苦しくとも、命尽きるまで逃げることをしませんでした。私はこれが本当の桂の生き様だったと思っています。
悲しき暗殺者、岡田以蔵。司馬遼太郎先生の著書「人斬り」に登場する以蔵は、決して悪魔のような描写をされていません。彼には類稀な剣術と情熱がありましたが、生きることに不器用だっただけなのかもしれません。生まれる時代を間違えなかったら、きっと彼は後世に汚名を残すような生き方をしなかったと私は思いたいです。そんな彼にも青春の1ページがあり、優しさに溢れた瞬間があったのではないかと、私は信じたいです。
そんな二人がタッグを組んだらどうなるだろう・・・、私の頭の中であれこれと想像していると何だかわくわくしてきました。その想像がそのままこの物語の制作につながったという次第です。歴史好きの方々には少し違和感を持たれるかもしれませんが、この二人なら絶対に譲れないものがあれば、通説とは異なる彼らの本来の生き方をしたのではないかと思い描いてみました。この物語は私から二人へのレクイエムだと思ってお読みいただければ幸いです。
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討幕を企てる長州藩士を一網打尽にすべく、新選組が池田屋襲撃を襲撃した。そこで会合を開いていた長州藩士たちの中に桂小五郎の姿があった。いち早く危険を察知した桂は池田屋の脱出に成功するが、幕府の追手によって京の町中に最重要人物たる桂の捜索網が張られ、逃げる場所を失った桂はその当時入れあげていた芸者・幾松の部屋に逃げ込む。そこで匿ってもらうも新選組の追手が現れ、幾松の決死の策で桂は逃げることができたが幾松は拉致されてしまった。
幾松の行方を案じて新選組の屯所に単身向かった桂だが、近付くこともできずに逃走することになる。刀を失い、増水した鴨川に飛び込んで死の淵を彷徨う桂を救ったのは、「人斬り」こと岡田以蔵だった。
その以蔵も乞食に扮して四条大橋の下で身を隠していた。お尋ね者の二人は意気投合するが、新選組の恐ろしさを知る以蔵は桂に暗殺剣の極意を伝え、幾松を見捨てて逃げるように説き伏せる。そのころ京の町中では、桂を「逃げの小五郎」と称してはやし立てていた。
幾松奪還を諦めない桂は、以蔵と以蔵の愛犬・寅之助と共に新選組の屯所へと偵察に向かうが、近付くことすら難しいと思い知らされる。その帰りに以蔵が何者かに襲撃された。桂と寅之助の援護を受けて難を逃れるが、刺客が土佐勤王党の同志だったことを知った以蔵は心を痛めるのだった。
一時は桂が溺死したものと思っていた新選組は、桂と以蔵の潜伏先である四条大橋へとその手掛かりの糸を少しずつ手繰り寄せていた。幾松奪還に手を貸すことに意を固めた以蔵は、桂と寅之助を連れて四条大橋を脱出するが、桂の生存を新選組に知られてしまうことになる。新選組は幾松を利用した非情な罠を仕掛け、桂をおびき出そうと画策するのだった。
物語は第二幕へと突入する。以蔵の盟友であり世の中で最も嫌いな男・坂本龍馬の登場が、幾松奪還作戦にどのような影響を及ぼすのか、宿敵・新選組と二人と一匹の死闘は現実のものとなるのか。
乞うご期待。
愛する人たちのために、小五郎は戦う!
★★既に第21話より後半戦に突入しております★★
これまでのお話はマガジンにまとめてありますので、ぜひ1話からご覧ください。