愛する人を亡くした人へ贈りたい5冊の本
人は、自分が経験したことのないことを100%理解することは不可能に近い。
それが悪いという事ではなく、想像することはできても、何事も当事者でない限り全てを理解することができない、という事は当然で
でも、だからこそ「理解する」のではなく「理解しようとする」事が大切なのだとも、思う。
「誰にもわかるわけない」と「誰にもわかってもらえない」という感情の矛盾
両親との死別を体験した後、人生ではじめて「この感情は誰にもわかってもらえないんだ」という気持ちになったことがあった。
文字だけを見ると、かまってほしい気持ちの強いメンヘラ女さんのようにも見えるが、そんなにかわいいものでもなかったように思う。もっと、世の中に対する、憎しみにも近いような感情。
今思えば、”わかってもらえない”という事実があったのではなく、喪失による孤独感や社会からの疎外感が、そう思わせていたようにも感じる。
そもそも、血の繋がった身内ですら、様々なことを理解し合うことが難しいことも多いなか、それを他人や社会に求めることなど、本来であれば論外なのに、それでも共感し、寄り添ってほしいという気持ちは、特に大きな喪失を経験した人誰しもが抱く、正しくも、矛盾した感情なのかもしれない。
それでも、喪失感のなかで湧き出る感情であることも事実であると思うので、否定することも避けておきたい。
死別体験を通して出会った本
両親との死別を経験した当時の私の周りには、当然元気なご両親がいる友達ばかりで、「いつでも話してね」という優しい声掛けにも、頼ることをためらっていた。
そんなとき、ある日姉から一冊の絵本をもらった。
保育士の姉は、絵本にとても詳しかった。
20歳を過ぎた私に絵本のプレゼント?いつまでも子どもと思っているのか?と、少しからかわれているような気持ちになりながらも、その本を読むことで行き場を探していた気持ちが少し癒さている事にも気付いた。
それが、私が本を読み始めるきっかけとなった。
子どもの頃から、読書は退屈で、苦手だった。
学校の朝読書の時間は、読んでいるふりをしてぼーっとしていたり、夏休みの読書感想文は、最初のあらすじと最後のページを読んで作文を書くような子どもだった。
そんな自分が、今ではすがる思いで本屋さんに立ち寄る時もある。
おかげで、様々な本を読むようになった。
本は出会ったことのない景色を自分に見せてくれる。
でもそれは、見ようとしないだけで、ずっとそこにあった景色だったりもする。
そんな気付きを与えてくれるのが、本だなとも思う。
大きな喪失を体験したことで、本を読むようになり、私の世界が広がったと言っても大袈裟ではない。
少し前置きが長くなってしまったのですが、今日は、私が死別を経験した後に出会った書籍、ちからをもらった書籍、為になった書籍を紹介してみようと思う。
1 「愛する人を失ったときあなたに起こること」
松家かおり
死別をテーマにした書籍の中で、一番最初に読んだもの。
これは読み終わった後に知ったのですが、著者の松家かおりさんもまた、両親を相次いで亡くした経験をされていた。
当時はそのような経験をされているとは知らずに購入したので、本との出会いも不思議なものだなと感じる。
著者の松家かおりさんは、両親との死別をきっかけにグリーフカウンセリング(遺族ケア)を学びはじめ、現在はカウンセラーとして活躍している。
この本では、グリーフケアと言われる遺族ケアの基礎知識から、一人でも出来るワークまでを、温かな言葉で説明してくれている。
なかなか人に分かって貰えない、話すことも難しい、と孤独感や疎外感を感じている遺族に優しく寄り添ってくれる一冊だと思う。
また、身近に大事な人やペットなど、喪失体験をした知人がいて「どう声をかけていいか分からない」という方にも、寄り添ってくれるのではないかと思う。
2 「若年死別経験者の孤独」
楓花
※電子書籍のみ
本のタイトルにもある「若年死別」という言葉は、文字通り若くして経験した死別を指している。
著者の楓花さんは、婚約者であった最愛のパートナーとの死別を経験。
本人にしかわからない苦悩
心えぐられるような苦しみ
それを回帰して、文書にして、公開する勇気。
本当にすごいことだと思います。
私が死別を経験した時は、若年死別といった言葉が無かった気もするのだけれど(知らなかっただけかもしれない)
20代で両親を亡くしている私は、おそらく若年死別経験者になるのだと思う。
日本人の平均寿命から考えると、20代で死別体験をした場合、故人と過ごした時間よりも、死別後を生きる方が長くなる。
死別直後は、今起きていることと、目の前のことを受け入れることに必死だったからか、先の不安感を実感するグリーフは、私自身まさにここ1年ほどで見えた、新たな感情でもあった。
私の場合、具体的には
故人の声を忘れそうになる
思い出が薄れていきそうになる
など、死別直後とはまた違った形で現れる感情が出てくるようになった。
「時間が経てば傷は癒える」という、俗にいう”時薬”が、死別体験では当てはまらないという酷な現実を突きつけられ、グリーフの複雑性を改めて実感する。
そんな中、著者の「死別の渦中で変わっていく自分に、どうか怯えないでください。」という言葉は、とても考えさせられるものだった。
ドキュメンタリー風に綴られている本著は、読んでいて途中で苦しくなる場面もある。
それでも若年死別という絶望を経験し「一人でも多くの死別経験者へ寄り添う発信活動をしたい」と願う著者が綴る言葉は、とても胸に刺さる。
「死別を経験した人」と「死別を経験した人の周りにいる人」どちらにも寄り添ってくれる一冊だと思う。
3 「死別の悲しみに向き合う グリーフケアとは何か」
坂口幸弘
著者は、関西学院大学にて人間福祉学部教授をされている、坂口幸弘さん。
死別後の悲嘆と、グリーフケア(遺族ケア)をテーマに、主に心理学的な観点から研究・教育に携わっている。
一方で、ホスピスや葬儀社、保健所などと連携して、グリーフケアの実践活動も行っている。
本著は、”グリーフケア”という専門療法的なことについてではなく、自分自身が死別を迎えた場合や、身近に死別を迎えた知り合いがいた場合にどうしたらいいか、という迷いにも具体的に提案をしてくれている。
そして共に語る、聞く、ということの大切さについても、改めて理解できた一冊だった。
いい意味で、必要以上に感情的にならず、論理的にグリーフについて考えることができる。
4 「人は死なない」
矢作直樹
当時、現役の医師であった著者が霊や霊界の存在を肯定するかのような著書を出版し、物議を醸したと話題になった。
「神は在るか、魂魄は在るか」
生と死が行き交う日々の中で、臨床医が自らの体験を通して思索した「力」と「永遠」、人の一生についてが綴られている。
もちろんすべて現実に起きた出来事ではあるが、途中で小説を読んでいるような気持ちにもなる。
生命の不思議、宇宙の神秘、宗教の起源、非日常的現象。
医師である立場で、このような内容を発信していくことはタブーなはずなのに、その行動に著者の覚悟のようなものを感じ、とても興味が湧き、読んだ一冊。
読み終えたとき「人は死なない」という著者の考えには大きく共感し、自分の死生観に影響を与えてくれた一冊でもある。
5 「愛する人を亡くした人へ」
一条真也
著者は、大手冠婚葬祭会社の代表取締役をされている、一条真也さん。
様々な国の文化や宗教を交えた偏りのない著者の言葉には、死別という枠を超えて死生観について深く考えさせられる。
葬儀は儀式のひとつであるけれど、私は、国の文化や宗教でその形こそは変わってきても、故人を見送る”葬儀”は大切なグリーフワークのひとつだと感じている。
コロナ禍で故人の最期への立ち会いを許されなかった遺族のケアが重要視されることにも納得ができるのは、大切な人を見送るまでの順序のようなものも、その後のグリーフに大きく影響してくると感じるからだ。
なので、私は、実は葬儀そのものも、悲しみも癒やすプロセスの中で非常に重要な役割を果たしているのではないか、と感じる。
著者は、日々さまざまな葬儀に立ち会うなかで、残された遺族に何より必要なのは悲しみを癒すこと、だと綴っている。
その悲しみを癒す"作業"がグリーフワークであり、その作業の大切さについても教えてくれる。
例えば私にとっては、このnoteへの日々の記録も、グリーフワークのひとつなのだと思う。
もし亡くなった愛する人から手紙が届いたら
もし亡くなった愛する人が自分に何かを語りかけてくれたら
この『愛する人を亡くした人へ』は、その想いを叶えてくれる本のようで、15通の手紙と題して、死別との向き合い方を贈ってくれている。
「死は不幸ではない」という確信に満ちた強くも優しくもあるメッセージは、私自身とても背中を押された言葉。
著者の優しさに触れることのできる、あたたかな一冊だった。
今日までも様々な本を読んできたけれど、この5冊は特に自分に大きな気付きを与えてくれた5冊だった。
人生において、誰もが一度は死別という喪失を経験する。
死別は、人生最大のストレスとも言われている。
大きな悲しみを抱えさせ、時には生きている意味すら分からなくなる事もある。
人は亡くなったらどこへ行くのか?いま何をしているのか?何を思っているのか?これからどう生きていけばいいのか?
遺族はきっと、答えも正解もない問いを続けて生きているのだと思う。
でも、もし自分がこの世を去ったら。
愛する人たちには笑っていてほしいし、たまに思い出して、会いたい、なんて思ってくれたら嬉しいな、と思うのです。
悲しむことは、きっと、故人を想う大切な愛情表現のひとつでもあると思うから。
それぞれの悲しみ(愛)を決して否定することなく生きていたい。
日々模索しながら生きる私たちに、様々な気付きを与えてくれる、そっと寄り添ってくれる本がもたらすちからは計り知れない。