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年に1度、文字の"揺らぎ"を調律してみた話

子どもたちが寝静まった深夜。
わたしは、大理石柄のデスクの、一番下の引き出しを開いた。そうして一年ぶりに、ある冊子を取り出した。

何年か前に100円ショップで購入した美文字練習帳だ。ほんの数ページしか手をつけていない。

でも、大丈夫。これでいい。

この練習帳は「1年に1度、1週間だけ」集中的に使うためのものだから。






9歳のわたしは、自分の書く文字がコンプレックスだった。
丸っこくて子どもっぽい。それなのに可愛いわけでもない、なんだか不細工な文字。

そんなある日、進研ゼミからのダイレクトメールが家に届いた。

「ももペンclub」と言うペン習字の講座だった。全6回。テキストと、美文字に関係あったりなかったりするふろく冊子が届く。

「これだ!」と思った。

わたしは渋る両親に頼み込んだ。講座はとても高額だったけれど、どうしても諦めきれなかった。
わたしに甘い父が折れた。

しばらくして、わたしの手元にテキストが届いた──。



飽きっぽさが災いして、提出課題は2回しかできなかった。
また、自分では絶対に使わないようなシーンで書く内容(カセットテープのラベル?など)もあり、どうしても気分が乗らないページもあった。

それでも、虫食い状にちまちまと練習を重ねた。

その結果、半年後には、わたしはクラスでなにか字を書くときに「綺麗な字だから書いてほしい」と頼まれるようになっていた……!


ちなみに、このときの付録冊子が結構面白かった。
検索してもまったく情報が出てこなかったので記憶はあやふやなのだけれど、イラストの見本帖みたいなものや、英文レターの書き方など(だったと記憶している)。
見本帖を見ながら練習していくうちにイラストが少しうまくなり、さらに、英語で手紙を書くことに興味を持てた。中高生になると、海外の人との文通をはじめることになるのだけれど、そのときもこの英文レターの冊子が大活躍していた。


さて、みんなにほめられる文字を手に入れたわたしだったけれど、困ったことが起こった。

日を追うごとに、なぜかどんどん字がへたになっていくのだ。せっかく整えた文字が、自分の ”くせ” によって、綺麗でもなく味があるわけでもない文字へと変化していく。
恐怖だった。

「ももペン」はもうない。
困ったわたしは、テキストを買って美文字練習をはじめた。


ところがいっこうに埋まらない。

ももペンのときも思ったけれど「自分が絶対に使わなそうな文章」については、どうしても「めんどうだなあ」とやる気が行方不明になってしまうらしかった。

それに、そもそも、わたしはコツコツ物事を続けられるタイプではない。日記は3日坊主がデフォルト。部活ですら数ヶ月で熱が冷めてしまう。



「気まぐれ猫タイプ」。

自分の気質を、わたしはそう呼んでいる。
猫のように気まぐれにしか行動できない厄介な性質だと思っていたけれど、どうやら、一定数わたしと似た人々がいるらしい。

▼自分のタイプを調べたい人はここ。
家事ブログに載せたので内容はやや家事寄りだけど、動物をつかってわかりやすく解説しているので、基本はイメージしてもらえると思う。

わたし調べでは、うさぎが最多、次がねこ。犬はレア。



さて、”気まぐれ猫タイプ” なわたしの最大の悩みは、物事を続けられないことだ。

次々にやりたいことがうつろう。あっちをかじって、こっちにふらふら。
そんなふうに意識が飛んでいくので、なにか一つのことを極めるのがなかなかむずかしい。

ブログは毎日更新が今年でまる10年になるけれど、これは、さまざまな工夫によってなんとかここまで来たものだ。
ブログ以外に毎日続いた物事は、一切ない。わたしの飽きっぽさは筋金入りだ。

実家の子ども部屋を片づけていたら、数ページだけ書いてあとは真っ白のノートを何十冊も発掘したり、ディアゴスティーニの好物や宝石を集めるシリーズの未開封のものを大量に見つけたくらいには飽きっぽい。

この気質は母からの遺伝らしく、母もまた、未開封の水彩画セット(通信講座)を大量に隠し持っている。

#なんのはなしですか



ここ数年、わたしは自分の気質の生かし方を見つけた。

継続できない性格を恥ずかしいなと思っていたけれど、そんなことはなくて、無限の可能性を秘めている性格なのだと、今なら言える。

#なんのはなしですか

この気質をうまく生かせば、いろんなことを極められるとわかったのだ。


気まぐれ猫タイプは、興味を持続させることがむずかしい。

実際わたしも、去年の5月は毎晩夢中になって刺繍をしていたと思ったら、翌月はブログをいかに効率的に更新するかに注力しはじめ、さらにその次は大量に本を読んだ。それから宝石石鹸にハマり、クリームソーダ作りに凝りだして……といった具合に、つねに違う、新しいことに手を出している。

でもこれは、言い換えれば「短期集中型」だということだ。だから、短い期間で全力を出して学ぶことで、長期で見てみるとさまざまなスキルが身につき、多様な趣味を楽しめるのでは? と気づいた。

ここに気づけてから、ものすごく、気持ちがラクになった



続かなくてもいい。
やりたいことを、気の向くままに、好きなだけやればいい。

”美文字練習” も、一年に一度、1週間だけ集中してやればどうだろう? そんなふうに思ったのが数年前で、それからその方法でなんとかほそぼそと続けている。

黒字は去年書いたもの。「あいうえお」だけで終わってしまった。

ただ、単語のページを練習できていた。


こちらは今年書いたもの。

去年の教訓を生かして、半分だけやることにした。
その代わり「ん」まで終わらせた。今週の残りの期間で、同じように「カタカナ」もやるつもりだ。

一年に一度、文字の”調律”をするだけでも、だんだん”くせ”がついてくる字はましになる。  



昔、テレビの美文字特集で先生が話していたことを意識して練習を進めている。

「きれいな字が書けないのは、頭の中にある文字のイメージが、きれいな字じゃないから。だから、頭の中にきれいな字、つまりお手本をインストールする」

こんなような話だったと思う。なるほどなと思わされた。



軌道修正の意味で、これからも、年に1週間だけでも、美文字テキストを開いていくつもり。もちろん、「やりたいことを好きなだけやる」が基本スタンスなので、続けられるならもっと続けるのも大丈夫。

飽きっぽさを生かして、いろんなスキルを身につけていきたい。おばあちゃんになったとき、あれもこれもできるスーパーおばあちゃんになっていたら、素敵だと思っている。

▼自分だけのテキストをWordで自作する方法。本当に練習したいのは、自分や家族の名前、住所などなんですよね。もちろん、Canvaでもできますよ。


▼やりたいことをやるための、時間の使い方テクニック。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。実用書作家の三條凛花です。
わが家で1番の美文字の持ち主は、じつは8歳の娘です。硬筆を2年間習ったら、教科書みたいな字を書けるようになりました。やめてから2年近いのですが、わたしのように癖が出ることも無く、対面で習うのが効果的なのか、それともコツコツ継続した期間の長さなのかと不思議に思っています。


追伸、あなたはどんな字を書きますか? 自分の字はお好きですか?

▼執筆・監修のお仕事を募集しています。



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三條 凛花 │  "時間が貯まる"ノート本著者
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