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アカデミック読書会(第43回)- 都市国家から帝国、近代国家へ -
読書会概要
4月14日(木)、20:00~21:30、オンライン(Zoom)にて、アカデミック読書会(第43回)を開催しました。参加者4名、ファシリテーター1名の合計5名で進行しました。参加者のかたのうち、お一人初参加、お一人はオンライン留学後の再参加、お二人は継続してのご参加でした。
課題本は、フェルナン・ブローデル『地中海III』「第II部 集団の運命と全体の動き」「第4章 帝国」です。テーマは、「帝国はどのように発展し衰退したか?」です。
今回の読書会では、『地中海II』の第1章~第3章の経済を軽く復習し、『地中海III』「第4章 帝国」へと入っていきました。
今回の対話では、地政学的な観点から、日本と比較しつつ、帝国での共生のありかたについて話が交わされました。帝国に住まうさまざまな民族を包括する手段として、オスマン・トルコ帝国ではイスラム教が、スペイン帝国ではキリスト教(カトリック)があったのではないか、という意見がありました。
ブローデルの『地中海III』では、オスマン・トルコ帝国の起源は小アジアやバルカン半島などでの戦闘、スペイン帝国の起源はカスティーリャのイザベルとアラゴンのフェルナンドの結婚によるイベリア半島統一であったとしています。
そして、16世紀では、15世紀で栄えた都市国家が衰退し、君主が人格となるような、諸王国・諸国家・諸民族を統一した帝国が出現します。
16世紀のオスマン・トルコ帝国とスペイン帝国は類似点がありました。新しい特権階級として官僚が増えていったこと、地方の自治体と衝突し、税収が減少してしまった様子が描かれています。そのため、財政を金貸しに頼らざるを得ない状況に陥ってしまいました。
帝国の支配者は、宗教的権威を背景にもちます。それでも、広大な帝国をすみずみまで支配することはできませんでした。帝国から官僚機構をもつ近代国家へ、その流れが徐々にできつつあったのが16世紀という時代なのだと感じました。
ご参加されたみなさまには、厚く御礼申し上げます。
読書会詳細
【目的】
歴史書を読むことがなかったので、いままでにない発想を得たい
帝国とは何か、知見が得られたらよい
ハプスブルクやオスマンがどうして帝国と呼ばれたか、整理したい
16世紀の帝国の人々がどんな思いでどんな暮らしをしていたのかが知りたい
【問いと答えと気づき】
■Q
歴史を調べるときに、研究する時、人の思いに触れるのはどんな感じか
■A
p.44 3行目、フェリペ2世の人となりに触れる
→先例にこだわりすぎた同じ人間として批判している
■気づき
文書とか、過去に書かれたもの、本とかを読む
→人の考えに触れること文字は人間よりも長い寿命
→歌はもっと長い寿命を持つのか台湾:仰げば尊しを卒業式に歌う
→当事者には意味がわからなくても続いていく、残っていく
→それがブローデルにとっては地中海ブローデルは人や文字を通じて、地中海に関わる人を描こうとしていた
■Q
ハプスブルクとオスマン、どうしてこの二つが帝国としてのし上がったのか?(成り立ちは?)
■A
トルコ:エジプトとシリアを征服、コンスタンチノープルを支配した→力による支配を広げていった
ハプスブルク:スペインの統一 p.32-33
アラゴンとカスティーリャの結婚→スペインの統一から広げていった、政略結婚が繰り返された
アメリカ大陸の貴金属:シュンペーターは、ハプスブルクを成り立たせたといっている
官職の売買、汚職→衰退に移っていった
エジプトの支配(トルコ):バスコ・ダ・ガマの喜望峰の発見の後
■気づき
スペインの成立は戦略結婚
■Q
現代に当てはまる歴史上の流れは?、何らかの法則がみつかるのか?
■A
都市国家が終わる→帝国
都市国家が終わり:現代や未来のキーワードになる
軍事的な資金力の問題
競争が広く始まった→帝国が残る原動力
都市が始まったときの話:いまは都市が終わるときなのでは?
リモートワーク:東京にいる価値にあるのか?街を歩くことはなくなった
→思いがけない出会いはなくなってきたメタバースが新しい領域として発達→リアルな場所を必要としなくなった
加速主義:資本主義の行く先には国が解体されている、国民が都市を選ぶ
スノウ・クラッシュにも描かれる ※後述の「読書会で紹介された本」で紹介しています
帝国の衰退:行ったり来たり(波、バランスを失うと衰退する)
■気づき
バランスを失うところの大きな流れ:長い間の遷移
→民主主義の台頭で生まれ変わる(中産階級、民衆の力が強くなる)
■Q
帝国はなぜできたのか?
■A
トルコ:戦争のための力が要る
スペイン:地中海を支配したいと思った
■気づき
経済力とか軍事力は大切→パワーの源泉
トルコ:好戦的な同類がいる、資源が有限だから、資源の取り合い p.19
治安を維持するためにも力が要る(貧しさが原因)
【対話内容】
■日本と地中海地域の地政学的特徴
日本人から見るとピンとこない
→侵略された経験がないいつなんどき戦争があるかもしれない
ロシアと中国と北朝鮮に囲まれている
国を守る、防衛、軍事が日本でも必要なのではないか?
ウクライナの解説:日本のように海に囲まれている→恵まれた環境(天然の要塞)
地中海:海が中心
→海を使う技術で発展していった地理的特徴:海だけれども内海、多民族、都市国家で自国を守る
日本は離れていたので、外国から攻められることが少なかった
地政学的なところ、運命のようなもの(そこにいたから恵まれていた)
地政学的な要素がなくなった世界
→メタバースでつながる日本は鎖国のよう、言葉の壁
日本語:VRチャットは外国の人たちが英語で話している(韓国人など)
日本は日本語だけで暮らしている国
→カタカナがあるので日本語で全部考えることができる、自分の世界を広げない特殊な国(海の向こうだよね、他人事)ウクライナ語:ロシア語とほとんど変わらないが違う
地理的・言語的:外に対しての距離感
(日本は)商人は来たけれど軍隊は来なかった
■帝国は異なる文化・言語を包括する
16世紀は、スペイン人、トルコ人の概念はなかった
→同じ宗教であるということが強かった言語という観点からでは、帝国は説明できない
帝国のモデル:ローマ帝国、異なる文化・言語を一緒に包括して成り立っている
→スペイン帝国とトルコ帝国は?
→支配者同士の結婚の話が出てくるだけ、帝国としてはどうなのか?一緒なのは宗教:トルコはイスラム教、ハプスブルクはキリスト教(カトリック)
→結びつけるために宗教が使われた(16世紀は)(国民国家的な)国民はいないはず
日本は帝国でなかったので宗教がなかった
文化を包括するのは一つのテーマ
世界経済は国をばらばらにした
■共生の国:日本
日本はバラエティ豊か
→日本のやり方はいまの世界に活かせる(そのままは使えない)村八分(抹殺はしない)、同調圧力(いろんなものがあるから無言で):海外からみれば生ぬるいやり方、殺伐としていない、殺しはしないやり方
日本のなかでは共生する文化が育まれてきた
近代以降で、日本が独立している
→日本語のため、競争がなかったら共生した都市国家→帝国:戦わないと存続しない
東工大の市川先生:ダーウィン・ジレンマ(戦わないと滅んでしまう)
→地中海もそのジレンマに陥ったのでは?日清、日露では戦った
→戦前の日本は違う、戦後は経済に集中、また好戦的な雰囲気になった、また歴史は動いている
■世界の社会制度と実体
社会制度は産業社会の世界(近代世界システム)、実体は知識社会
→だから戦争が起こった(ズレがおこっている)ウクライナとロシアは産業社会にすらなっていない
ヨーロッパは、情報社会(産業社会と知識社会の間に少しある)についてきていない
アメリカと中国は、情報社会(産業社会と知識社会の間に少しある)についていっている
日本は知識社会になっている(GDPが伸びていないのは、その証)
■共生と祟り
日本は村八分にしない
→日本のもともとの神は荒ぶる神殺すと祟られる?
→一線は守っている神田明神は平将門を祀っている:日本は敗れた相手をケアする文化がある(互いに生き続ける)
菅原道真も祟り神
祟るから不遇のものをケアする
→特殊なメンタリティ日本は負けたに判官びいきがある
日本はなぜもっとドライになっていないのか?
→共生の世界だから(自分に報いがくる)ヨーロッパは殲滅させることが徹底している
特攻:戦うと決めたら、自分を犠牲にするメンタリティがある
【気づきと小さな一歩】
■気づき/学び
日本人である自分は情で動くと気づいた
ロシア人は義理や人情で動く→ヨーロッパやアメリカ人はわからない
■小さな一歩
日本とアメリカを比較した研究(『菊と刀』)を読む
■気づき/学び
なぜ帝国が衰退したのか?→共生にたどりつけないと戦っていく→滅びる
・現代の帝国GAFA:共創・共生のリソースがデジタルになると変わってくる、集まるデータ自体に価値がある、人の接する点を奪いあう
・都市国家→帝国:競争自体が新しい発展を促す
→メタバースでは、奪い合うべきリソースがない
→あえて不便な要素をいれることで競争を促す
→発展する(工夫の余地があるから)
■小さな一歩
メタバースを体験してから話をする
■気づき/学び
歴史から現在を見て、未来をどうするか?
自分が死ぬまでどう活かしていくか?
歴史は繰り返してきている→螺旋的に発展してきている
現代の帝国:GAFAM、アリババ、テンセント
征服欲:不平等はなくならない
メタバースをいち早く取り入れる
オキュラスのゴーグルを体験してみることが重要→メタバースの世界に馴染む
■小さな一歩
先進的な技術をビジネスに活かす
世の中の情勢に関心を持つ
■気づき/学び
貨幣共同体という考え方に初めてあった
貨幣共同体については、特に形式にこだわらない
→貨幣共同体は知識経済とマッチしている(ほかの参加者のかたからのコメント)貨幣を基準に国を選ぶ、という考え方があってもいいかも
■小さな一歩
貨幣共同体に関するつぶやきをチャットに書く
読書会で紹介された本
次回の読書会のご案内
【開催日時・場所】
2022年5月14日(木) @ZOOM
【テーマ】
16世紀の地中海地域はどのような社会だったのか?
【課題本】
・フェルナン・ブローデル著、浜名優美訳『地中海III 集団の運命と全体の動き2』「第5章 社会」
【詳細・申込み】
※『地中海I』「第I部 環境の役割」まとめ動画:
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