P.A.WORKSお仕事アニメシリーズ最新作『駒田蒸留所へようこそ』を鑑賞!
ついに公開されたP.A.WORKSお仕事アニメシリーズ最新作
アニメ制作会社P.A.WORKSが手掛けるシリーズとして、ある業界に焦点をあててそこで働く人々の仕事内容やその人々が持っている情熱、これからの課題などを描いたお仕事アニメシリーズと呼ばれるシリーズがあります。
その最新作である『駒田蒸留所へようこそ』を観てきました。
私は『花咲くいろは』『SHIROBAKO』『サクラクエスト』どのシリーズも大好きです。(『白い砂のアクアトープ』は見ていないんですけど)
花咲くいろはを見ていた時は高校生でしたがいつの間にか社会人……
社会の中で働いている中で私はこのシリーズが今でも仕事のモチベ―ジョンや仕事をする上での理念に繋がっています。
今回は劇場公開の作品で幻のウイスキーを作るために情熱を注ぐ蒸留所で働く人々と現場の想いを伝えるWEBライターが主役の作品となっていました。100分の間にウイスキー作りの大変さ、ロマン、これからの課題など様々な魅力が伝わる劇場アニメでした。
また、監督が吉原正行さん・キャラクター原案が高田友美さんでP.A.WORKSでは有頂天家族というこれまた私の大好きなアニメ作品を手掛けたコンビだったこともあり、画風が好きです。
あらすじ
感想として最初にとあることを言いたい
まず最初に感想として言いたいのが主人公のうち1人にまあまあイラつきます。その主人公のうち1人というのがWEB記事会社で働く25歳のWEBライター高橋光太郎です、転職を繰り返し働いており、今の会社は既に5社目でどこに就職しても長く続けられていませんでした。
光太郎はクリエイティブな仕事自体好きなわけではなさそうで、自分が何をしたいのか、何を目標にしているのか、本当はどんな仕事をしたいのかも分かりません。
職場でも上司の命令には小言ばっかりで、せっかく記事を書くという仕事を任されてもそのインタビュー先の会社の事をまともに調べてこない、そもそもインタビュー先を別の会社と勘違しているといった社会人としての常識に欠けるキャラで蒸留所の社長でヒロインである琉生のバックグラウンドを理解しないまま、若くして蒸留所の社長になりウイスキーを作っているという先入観で好きなことを仕事にできていると羨んでいるような、いわばないものねだりをしている序盤はなかなかイライラしました。
しかし、そうやって好きな事を見つけられないままとりあえず仕事をしている社会人はたくさんいて、そんな社会人像をうまく捉えているように思いました、その人間描写はとてもリアル。
リアルだからこそ、こちらの感情も乱れてしまう。
私は仕事をしっかりとしているつもりですが好きなことを仕事に出来ている訳でもずっとモチベーションがあるわけではないのでどこかで誰かにそう思われているかもしれません。
ただ、観ている中で一緒に仕事したくないなと思ってしまいます。
この主人公を最初から応援できる人って相当心が広い人で立派な上司になることができるだろうと尊敬します。
その無気力社会人が主人公だからこそ、ある意味まっさらな心を持っていて「話が進むにつれてウイスキー作りや蒸留所で働く人の魅力に気がついて前向きになるんだろうな」と黄金ストーリー予感させてくれる訳で気持ちのいい展開を期待してしまいます。
実際にというか案の定というか、綺麗なストーリーラインが展開され光太郎が書いたウイスキーに関するWEB記事は着々と閲覧数を増やし、それが自己肯定感や承認欲求に繋がることで積極的に自分から質問をしたり、記事では使わないような仕事内容を知ろうと前向きになりウイスキーの世界に興味を持ちます。
成長する中でもずっと仕事の調子がいいわけではなく、アップするつもりがなかった間違った内容が書かれた記事をそのままアップしてしまったりと結構なミスもしますがつまずきながら何かを得て、上司のフォローや周りの人たちが寛容なお陰で成長できています。
彼の良い所は行動力がある所で、蒸留所に思いもよらないアドバイスをしたり人に文字で何かを伝えるライターにしかできないことで役に立つ姿は頼もしく思えました。
駒田蒸留所社長、駒田琉生について
もう一人の主人公は長野県にある設定の駒田蒸留所で社長をしている駒田琉生、まだ20代後半の女性社長です。
先代から廃業する予定だった蒸留所を継いで社長になった琉生は光太郎と組みWEB記事を書いてもらうことで国産ウイスキーの認知度を上げてもらい最終的には、ウイスキーの元となる原酒がなくて生産できなくなった駒田蒸留所オリジナルの幻のウイスキー『独楽』を製造することを目標に奮闘します。
琉生は目標がはっきりとしているので非常に見ていて応援したくなります。
それに可愛いし、何より声優が早見沙織さんだし。
彼女はもとからウイスキーが好きで蒸留所を継いだ訳ではなく美大に通うアーティスト志望でしたが、蒸留所がある場所で震災が起き、名物だった『独楽』が製造できなくなり、経営に厳しい中で長時間労働をしていた先代の社長でもある父が亡くなり、さらにはその会社を継ぐはずだった兄が家を出たことから大学を中退して自分が蒸留所を継ぐことを決意します。
『独楽』は駒田蒸留所の名物でもあり、家族で繋がれるお酒でもある、そんな様々思いが詰まったウイスキーを復活させたい琉生はクラウドファンディングや融資、他社との交流を活用しながら製法が分からない『独楽』を全国各地の原酒を集めることで記憶だよりに再現しようとします。
この『独楽』復活の件はかなり面白く、NHKのプロフェッショナルやプロジェクトXを観ているようでウイスキーに関する知見が広がったような気がします。
また、家を出た兄が実は地元の他社競合の蒸留所で経営企画部として働いていて、駒田蒸留所を買収しようとしていて、そのあたりも中小企業の社長が会社を今後、家族経営を続けるのか、事業継承するのかM&Aに応じるのかと選択を迫られる現代社会の課題も提起される展開になっていて非常に面白いです。
そして、この兄も実は他社に寝返った訳ではなくとある目的のために動いていたという熱い展開になります、声優が中村悠一さんということもあり「お兄ちゃん……かっけえ」となる。
お仕事アニメシリーズに共通するもの
P.A.WORKSのお仕事アニメは物語やエンタメの面白さだけでなく最初にも書いる通りそこ働く人のプラスもマイナスも様々な想いが詰まっている作品になっています。
中でも私がお仕事アニメシリーズで好きなところが焦点をあてるどの業界も伝統を継承して未来へ託したいと思っているもののそんな綺麗ごとを言っているだけでは会社が守れるわけではなく、そんな変化する時代の中でどう生き抜いていくのか、何を選択したのかがしっかり描かれていることです。
『花咲くいろは』では石川県にある温泉旅館が物語舞台となっており、主人公の松前緒花が祖母が経営している老舗旅館の仲居でバイトをしますが観光客が減り、その少ない観光客は大きな旅館に取られてしまうという経営が傾ている状況であり、そんな中で高校生の緒花に出来ることは何かを考えて行動しますが最終的には旅館は廃業してしまいます。
『SHIROBAKO』ではアニメ制作会社に就職して制作進行として働く宮森あおいが放送のスケジュールに追われ、監督・原画・編集・音響・声優とアニメ制作に携わる様々な人たちをリスペクトすると同時に、各人のプライドやエゴに振り回されながら繋いでいく役割を担い、1クール1クールに情熱を注ぎクオリティーとスピードが要求されるアニメ業界を好きになっていきます。また、最終的な目標である高校の同級生で今もアニメ業界に携わっている人たちと再びアニメを作るという夢を持ちながら働いています。
『サクラクエスト』は田舎町の観光協会にひょんなことから国王として就職した主人公小春由乃が観光誘致や移住誘致をするため様々なイベントを考え町の活性化を図りますが、全国各地にあるどの地方も厳しく、精一杯人を呼び込んでも人口減少は止まらないという問題に直面していきます。
最初は観光地として町をアピールすることを中心に話が進みますが、そこで住んでいる人がより住みやすいようにすることを目指し結果的に人口減少を防いだり、移住に繋がるという現実的な計画に小春がシフトチェンジしていく過程がかなり素晴らしいです。
そして『駒田蒸留所』はウイスキーブームが世間ではあるもののまだ小さなブームで地方で細々と続けている蒸留所にとってはその流れに乗れていない状況でありどの会社もこのまま事業を続けるか、大きな会社に買収されるか、それとも今の代で廃業するか悩んでいる地方の中小企業の問題を取り上げています。
個人の願いや夢がどんなに共感できるものであっても世間や社会の大きな流れには逆らえないことにより、続けたくても今のままでは続けられない仕事があるというのを本当によく実感できます。
ただ、そこで働く人たちはただその流れに流されるわけではなく仲間と考え、対応してこれまでつないできたタスキを未来へ繋ごうと努力していてそんな姿を見ることで自分も頑張ろうと思えます。
地上波で放送される機会は恐らくないと思いますので、是非劇場で見て欲しい作品です。
それと最後に一つ、幻のウイスキー『独楽』復活へと進むストーリーの終盤最後の1ピースを見つけて完成に至る伏線回収が物語としてめちゃくちゃ面白いです、これは期待してください。