33種のスパイスで味付けしたクラスのカレー
(以前書いた記事を加筆修正したものです)
大切にしているタペストリーがあります。海外の珍しい品でもなければ、有名人の作品でもありません。教員時代に担任をしていた子どもたちがクラスの応援旗として作ったもので、卒業するときに私に贈ってくれました。
大皿のカレーがモチーフになっていて33人の子どもたちが皿の周辺で元気に跳びまわっています。エプロン姿の私も仲間入りさせてもらっています。それぞれがフェルトで自分の姿を形作り、大きな布に縫い付けていきました。男子も女子も一針一針思いを込めて縫いました。予算が限られているので、布や糸など材料はほとんどが保護者からの寄付です。みんなの心が込もった作品になりました。
最高のクラスでした。生徒はみんな素直で温かく、仲良しでした。何をやるにも全力で取り組み、協力しました。「なんていい子たちなんだろう」私はいつもそう思っていました。担任としてこれほど幸せなことはありません。
そんなクラスにカレーが登場したのは年度初めの学年集会のときでした。各クラスの学級委員が自分のクラスの抱負を発表したのですが、私のクラスの生徒はとてもユニークな紹介をしました。クラスをカレーに例え、一人一人をスパイスにして33種類のスパイスで最高の味付けをしたいと言ったのです。何ともすてきな紹介だと私は思いました。
集会のあと私はクラスのみんなに言いました。「カレーの味はスパイスで決まるよ。色も香りも味もそれぞれ違うけど、うまく合わさると絶妙な味が出せる。33種類のスパイスで最高の味を出そうね」と。多様なスパイスを効かせたカレーがどんな味になるか私はすごく楽しみでした。
「スパイスカレー」はそれからみんなの合言葉となりました。応援旗も行事のたびに活躍しました。もちろんカレーの味は常にまろやかだったわけではありません。辛すぎるときもあればほろ苦いときもありました。でも、世界にたったひとつのオリジナルカレーは最高でした。
壁のタペストリーを見るたびにあの味を思い出します。