#199 寝ても覚めても、また寝ても。
昨日から、起きている時間より寝ている時間の方が多い。構わない。そのために休職をしているのだから。
ただ、睡眠が薬だとは思わない。それなら永眠が最高の薬ということにはならないか?医学と哲学の混同っぽいことを言ってケムに巻く、というつもりはないし、それができるほど賢くもない。だが、ここから先の話はそうしたわたしの歪んだ妄想が含まれるものだと理解していただきたい。
思うに、睡眠はとりわけ脳を持つ生物にとってのデフォルトだ。睡眠状態が初期設定で、覚醒時には「良い睡眠を得るための行動」を行う。実際、成長ホルモンは寝ている間に分泌される。「寝る子は育つ」である。
睡眠と覚醒は生存に必要なサイクルであり不可分な関係だが、主従関係を与えるならば、絶対に睡眠が「主」ではないかと考える。睡眠を与えない拷問は存在するが、覚醒を与えない拷問など存在しない。スヤァ…と寝かせたままでは、何の苦痛も生じない。
睡眠欲があっても、それを中断する場合がある。悪夢ばかりを見るときだ。一旦顔を洗って、食事をとったり、少しだけ外の空気を浴びたりする。気分をリセットして、また眠りにつく。
睡眠薬が強力なせいか、最近は悪夢を見なくて助かる。多少の胸糞程度な夢は見るが、起きたら忘れるくらいの些細なものだ。一方で、幸福な夢を見た記憶はない。幸運を手にするとか、恋愛をしているとか、エッチな夢とかだ。あいつらはいったい、どこに行ったのだろう?いや、そうしたこととあまりにも無縁で、もはや記憶の引き出しに入っていないのかもしれない。
話を戻そう。睡眠状態がデフォルトモードであると考えるからには、世界は倒錯していると見るのが妥当だ。可処分時間を削りに削って、仕事と家事育児と遊びを詰め込み続け、「残った時間」が睡眠時間という考え方、これは誤りである。生存において最も大切なことが睡眠であるならば、まったく逆転している。
かつての日本では、血を売ることができた。売血は健康を損じてまで行う者が後をたたず、またそれにより血液の質も低下(輸血により肝炎ウィルスが蔓延した)したこと等により禁止され、現在行われているボランティアとしての献血に変化した。
というわけで、わたしは社会から「時給による雇用」と「残業(36協定含む、あらゆる残業)」を撤廃するべきと要求する。これらはかつての売血と同様に、人間としての根源的活動である「睡眠」をも換金し、健康を損じるものである。
時給も残業も「時間を売る」制度の最も分かりやすい事例であるため、真っ先に禁止すべき、非人道的な契約である。なお、サービス残業を行なわせている法人は、即時に営業停止させるなど、より厳しく取り締まるべきである。失った睡眠による肉体的・精神的損失が、未払い残業のカネを支払わせてチャラになることなど、ないためだ。
さらに言えば、生態系には「脳のない生物」というものも沢山いる。消化管や神経系の命令で動くものもいて、わたし達の祖先を辿れば、そうした生物から枝分かれしたことが分かるだろう。(進化論を信じるのであれば、だが…)
ならば尚更、である。脳のみならず、全ての器官、あらゆる細胞、そうしたわたし達を構成する小宇宙を破壊してはならない。それらは主に、睡眠中に修復されるものだからだ。
というわけで、労働は悪だ。皆も売血まがいの行為はやめて、「ぐっすり眠るために何ができるか」を考えよう。きょう、わたしは12時間に渡る睡眠の後、さらに2時間半の仮眠をとった。このあと、また横になるつもりだ。
労働は美徳ではない。睡眠こそが、生物としての根源的善である。以上、妄言おわり。