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【簡単あらすじ|微ネタバレ】蒼海館の殺人【阿津川辰海/講談社タイガ】

前作(紅蓮館の殺人)の後に不登校となった葛城輝義に会うため、田所信哉は友人の三谷緑郎とともに葛城の実家を訪れる。

葛城輝義は、政治家の父・大学教授の母・トップモデルの姉・警察官の兄・弁護士の叔父などという、豪華絢爛な一族の一員であった。

館に到着した田所たちは、当初の目的である輝義に会うことは出来たが、あの自信たっぷりでふてぶてしい輝義の面影は全く無くなっていた…

その変化に田所たちが戸惑っていると、館では、殺人事件も発生してしまう…



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『はじめに』
酷かった花粉の飛散もようやく収まり、窓を開けると爽やかな風を感じるポカポカ陽気という、絶好の読書シチュエーションを得られる時期が到来しました。ですので、最近読んで印象に残ったり、買ったまま積んでいたりした本の感想を書こうと思います。
このレビューを読んだことで、その作品や著者に少しでも興味を持って頂ける内容にしたと思いながら書いていますが、登場人物やぼんやりしたあらすじなど、『微ネタバレ要素』を含む記載がありますので、その点にご注意ください。

田所信哉は、前作「紅蓮館の殺人」以降、不登校になってしまった葛城輝義に会うため、友人で図書委員の三谷緑郎と、葛城の実家へ向かう。

その時葛城家では、祖父・惣太郎の四十九日の法要をすましており、家族のみでひっそりと過ごしていたいと考えていたようだったが、三谷らの他にも、家庭教師の黒田や葛城の姉ミチルの元彼・坂口、葛城家の主治医で田所の兄・梓月などが訪問していた。

精進落としという名の食事会で関係者全員が集まった中、坂口は
「葛城の祖父は、殺された」
「そのネタとなる写真を撮っている」
「館からの帰り道と東京の二回襲撃され、その証拠となる写真を奪われそうになった」

と告白する。

そのまま食事会は散会となったが、洪水警報が発令されるほどの猛烈な台風が近づいていたため、三谷ら家族以外の訪問者も葛城家の館で一夜を過ごすことになる。

そして、皆が寝静まった夜、殺人事件が発生してしまう。

館内で発生する連続殺人と、洪水により館内に水が押し寄せてくる恐怖

この二つの問題に、輝義や田所はどう対処するのか。

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前作、紅蓮館の殺人で葛城輝義や田所信哉は心に少なくない傷を負ってしまいます。

作品の前半部分は、その時の傷が癒えない輝義と田所の様子が多く描写され、また、名士と呼ばれる葛城家の事情も絡み、問題が解決するか不安しか感じませんでした。

しかし、ある問題を解決した際の関係者からの一言から輝義は覚醒し、そこからは一気に物語がスピードアップします。

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前作では、「山火事と殺人事件」が舞台だったように、今作は、「台風が一因の洪水と殺人事件」が複雑に絡み合います。

さらに今作は、名探偵と助手の二人とも、発生した事件と並行して自身の問題に立ち向かいます。

〇葛城輝義は、
1.前作で謎を解きながらも、解決後に残ってしまった大きな心残りの解消。
2.自分が「噓つきの一族」と呼んでいる家族との向き合い方。

〇田所信哉は、
1.自作の小説を持ち込んだ先の編集氏に言われた、探偵の存在意義・名探偵とは・謎を解く存在はどうあるべきか、という「探偵にどうなって欲しいのか」というテーマの解決。
2.兄・梓月との関係性。

それでも僕はーーー謎を解くことしか、出来ないんです。

本作P624

という言葉は、前作と今作の両方で輝義がつぶやいたセリフですが、全く違ったニュアンスを含んでいます。

この言葉の持つニュアンス(背景を含めて)を感じるためにも、出来れば、紅蓮館の殺人を読了してから今作に取り掛かることをおすすめします

今作は600ページ超えの作品であるため、見た目もかなり分厚いもので読み始めるためのハードルは低くなく、手に取ることを躊躇してしまう方がいるかもしれませんが、一度読み始めれば、前作と同じように、まるで二作品を読了したような読み応え充分な読了感を味わうことが出来ると思います。

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また、今作を経て、ついに名探偵と助手という素地が出来上がった二人のこれからの活躍も是非読みたいです。

解いてはいけない謎なんて一つもなかった。
ただ、解いた後のことを考えなければいけなかっただけだ。
やることは単純だ。
解いて、助ける。
だってーーー  名探偵は、ヒーローなんだから。

本作P371/372

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