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【簡単あらすじ】幻告(微ネタバレ)【五十嵐律人/講談社】
宇久井傑には、有罪判決を受けた父親がいる。
しかし数年後、裁判記録からDNA鑑定に疑問の余地があることに気づく。
父親はえん罪ではないか?
傑は、タイムリープを繰り返し父親の無罪を勝ち取ろうとするが…
現役弁護士が描くリーガルミステリ×タイムリープ作品
期待に応えてくれる一作です。
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『はじめに』
もう9月というのに毎日最高気温は30度を超えるような猛暑日が続き、体力が削られ、外出どころか何もしたくないと考えてしまうような日々が続きます。
しかし、外出を控えるようになったということは、逆に考えると家の中でエアコンを起動させ、傍に飲み物を持ってくると外の雰囲気に全く影響されない、絶好の読書シチュエーションになります。
ですので、最近読んで印象に残ったり、買ったまま積んでいたりした本の感想を書こうと思います。このレビューを読んだことで、作品や著者に少しでも興味を持って頂ける内容にしたと思いながら書いていますが、登場人物やぼんやりしたあらすじなど、『微ネタバレ要素』を含む記載がありますので、その点にご注意ください。
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裁判所書記官として働く宇久井傑は、開廷前の法廷で検察官と雑談をしたり、ある窃盗常習犯の裁判の記録をしたり、いつものように業務を行っていた。
しかし、ある裁判の終了後に法廷から出ようとすると、いつもと感触が違う扉を中々開けることが出来ない。
力一杯押したところ急に扉が開き、前方に倒れるような形になる。
傑は衝撃に備えようとするが、奇妙な感覚に包み込まれながら意識が遠のいていき…
…再び目が覚めたときには、大学時代に戻っていた。
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ほんタメ20230111「こんな状況でミステリ!?特殊設定ミステリ3選」で紹介された作品です。
主人公宇久井傑には、父親がいました。
母と離婚し傑が小さい頃に出ていった父親は、大学生の頃に義理の娘に対する強制わいせつ罪で逮捕され、有罪判決を受けています。
その当時は、父親に対して吐き気を催すほどの憎悪を持ち・血のつながりに絶望していただけでしたが、裁判所書記官となったある日に裁判記録を読んでみると、DNA鑑定に疑問の余地があることに気づきます。
もしかすると父親はえん罪ではないか?
傑は、タイムリープを繰替えし父親の無罪を勝ち取ろうとしますが…
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現役弁護士が書いたタイムリープ×リーガルミステリというテーマの作品です。
皆さんも、これだけで面白そうに感じると思いますが、父親の無罪を確信し、父親に無罪判決が下るように動き目的が達成されても、現実が思ったようにはならない。
いわゆるバタフライエフェクトが発生するなど、作品中には障碍も沢山発生します。
傑が過去に戻り、裁判について色々動いたとしても、所詮は大学生の一傍聴人であり、それほどの影響を与えることは出来ないのではないかという疑問を持ちましたが、読み進めてみると、これについてもさらなる謎が解明され…
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ある一つのことを行うと、一気にハッピーエンドにつながるような作品では無く、関連する人物・事象について一つ一つ明らかにしながら解明していく流れです。
裁判内容・時系列について複雑な内容が絡み合っているため、基本的にじっくりと読み進める必要がありますし、
① 常習累犯窃盗
一定の期間内に窃盗罪による服役を三回以上経験した人が、さらに窃盗行為に及ぶと当てはまる、通常の窃盗罪よりも重い刑罰が科される。
※窃盗罪の法定刑は一月以上十年以下・常習累犯窃盗罪の法定刑は三年以上二十年以下。
② ポリ酢酸ビニル(唾液検査用のガムにも使用されている)を利用した、DNA鑑定における偽装工作。
③ 執行猶予中の再犯
執行猶予期間中に罪を犯し実刑判決が言い渡されると、猶予されていた刑と後から言い渡された刑の両方の執行を同時に受けるという重いペナルティになる。
といった、あまり一般的で知られていない法律や事柄などを理解する必要もあるため、読み終わった後は脳が大変疲れているのを感じましたが、作品のまとめはとても納得出来、読了後は充実感がありました。
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今ある現実(結果)にはそうなるべき過去(原因)があり、感じた違和感には理由がある。
最終盤は、逆転裁判2というゲームのように、ラスボスを少しずつ追い詰めていく流れを感じる、個人的に好きなまとめ方です。
「タイムリープを利用して裁判を実質的にやり直す」という、現実世界で誰もが考えたことのある重要なテーマでしたが、そこに若者の成長や葛藤・恋愛なども絶妙に入れ込んでいるため、重すぎる雰囲気にならないという大変おすすめの作品です。
同作者さんの他作品も読了したいと思わせる内容です。
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