『トブヨウニ』
GW1日目は年末から散らかりまくっている部屋中をひっくり返し、2年前になくしたnanacoカードを探していたら窓の外では日が暮れていた。
なぜ今更ワケのわからない大捜索を始めたのかというと、クーポンが欲しさになんとなくセブンアプリを再DLしたら、当時作ったnanacoカードのデータが残っていて"残高2,015円"という無視できない文字列が目に入ったからだ。結構チャージしていたのに忘れていたんだなあ。
なくしたまま2年間のほほんと過ごしていたのに存在を思い出すとどうしても取り返したくなる。古いポイントカードや期限切れクーポンの束をかき分け、虹色のキリンを探す。見つからなかった。そりゃあなくしたての2年前にも見つけ出せなかったんだから仕方ない。
内心諦めつつもダメ元でサービスセンターに電話をかけてみたら、新規で作ったnanacoカードに残高を引き継がせて貰えることになった。やったね。そんな時に、ふとあのフレーズが頭によぎった。
“YOSHII LOVINSON”の3番目のシングル『トブヨウニ』だ。
YOSHII LOVINSON、というか”イエモン”のボーカルである”吉井和哉”のソロ活動初期の重要な一曲で、暗く内向的だった1st『AT THE BLACK HOLE』から少しだけ日が差してきた印象を与える優しく暖かなバラードだ。
イエモンの最大の売りであった、妖しく煌びやかなグラムロックやキャッチーな歌謡ロック路線からは離れ、カラッとしたサウンドに軽快な歌メロを載せている。たしかUKロック的な路線からアメリカンなサウンドに方向転換したようなことをインタビューかなんかで話していた気がする(調べとけよ)。
この傾向は3rdアルバムの『39108』まで続き、以降はイエモン的な歌謡ロックへ回帰してゆく。ちょうどその頃に名義も”YOSHII LOVINSON”から本名の”吉井和哉”へ戻り、完全に吹っ切れたということなのだろう。過去の作風を捨てるのではなく一番得意なモノを活かすようになった。
それはそれでカッコ良いのだが、イエモンロックから脱却しようともがくこの時代が私はたまらなく好きなのだ。どうでもいいが、LOVINSONの1stアルバムを図書館で借りて衝撃を受けたのが私が邦楽ロック沼に沈んだきっかけの一つだ。
(1stアルバムのレビュー、初めてまともに書いた長文なので下手くそだけどそれはそれで味があって嫌いじゃない。自分で言うな)
リリース当時はイエモン解散してから間もなかった時期であったため「解散したからには同じ路線ではいけない」と悩んでいたのだと思う。でも新しい道を探しつつも自分の芯を捨ててはいなかったから作風を取り戻せたし、2016年には全員欠けることなく再結成することもできたのだろう。リアルタイムで体験してみたかったぜ。
そしてこのシングルはカップリング2曲もかなり重要だ。『BLOWN UP CHILDREN』と『HATE』の2曲なのだがどちらもファンの評価が高くベストアルバムにも収録されている超名曲だ。(厳密には『BLOWN UP CHILDREN』はバージョン違い。)
『BLOWN UP CHILDREN』は是非とも聴いてほしい(全部だけどね)。冒頭のアジアンテイストなギターリフから一発で引き込まれると思う。この曲は難産であることで知られていて、バージョン違いが何種類か存在する。そのうちの一つ『甲羅』という曲が先述のベストアルバムに収録されているのだ。(YouTubeになかったから気になったらCDを買おう!)
『HATE』は戦争をテーマにした重く悲しい歌だ。アルペジオ主体の弾き語りからドラマチックにバンドへ移行する構成に酔いしれる。
聴いてみるとわかるが非常に暗く、YOSHII LOVINSON名義での最初のツアーでも『暗い曲をやるべきか迷った』という趣旨の話をしていた。でも演奏するべきだと決断したから披露したのだろう(リアルタイムで体感したかった)。
吉井和哉はイケイケな感じの振る舞いをしているが、人々の痛みを代弁して歌を作ることに長けている。一番有名なのは言わずと知れた『JAM』だと思う。みんな「落ちましたー」部分を笑うが大切なのはその後だ、当時のキャスターが本当に嬉しそうに言ったかどうかなんて関係ない。
この曲も戦地へ赴く若者の痛みを代弁して歌っている。暗く救いのない曲だが、ループ再生すると陽だまりのような『トブヨウニ』が待っている。
『甲羅』はコレでしか聴けないが探して欲しい。
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