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試作集

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記事一覧

くさり

いくら鎖をかけたって
君の想いはとめどなく
溢れ流れていたらしい

思いの丈をそのままに
そんな国から来た君は
猜疑心で満たされた
僕らの街で立ち尽くす

眉間に深いしわを寄せ
爪を腕に食い込ませ
必死に堪えていた君は
今どこにいるのだろう

紡いだ言葉で縄を綯い
首に巻いては飛び降りる
何度だって繰り返す
君が帰るその日まで

無題

未来行きの急行は
いつの間にやら普通に変わっていた
お尻が痛くなったから
途中下車して歩いてみることにした
思いのままに、そのままに
目的地なんてもうとっくの昔に忘れてしまった

理不尽な必然

生まれ落ちたその日から、僕たちは電子世界の住人となる。

大きくなった僕たちの目に映るのは平面化された現実の残像。

三次元に馴染めない僕らの必然。

第三者の手によって、否応なしに放り込まれた僕たちが指弾の矢面に立たされる理不尽。

名画はすなわち名声か

或る日ふと目を覚ましたら
一枚の紙を握ってた
薄っぺらくて貧相な
たった一枚の紙切れを

寝そべったまま太陽に
透かしてみては折りたたみ
紙飛行機を作っては
空に向かって飛ばしてた

たまには広げしわを伸ばし
下書き、落書き、殴り書き
湧き出でる形そのままに
自由気ままに我がままに

と或る所の或る人は
紋の入った化粧木に
ダイヤモンドを散りばめて

教科書通りに描きだす
それは見事で鮮やかな

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なにか

なにものかになりたくて
でもなにものにもなれなくて
時ばかりが過ぎていくことに耐えられなくなった僕は
背中を思い切り蹴り飛ばした

走り出した僕はどこにいるのか
どこにどこまで行けばよいかわからなくて
ありったけの自信が全て砕け散り果てたころ僕は
自分を思い切り突き飛ばした

誰も何にもなれないから
自己に鍵をし日々を繋ぐ
僕は何にもなれないけれど
醜く足掻き歩き続ける

三千歳の哀しみを飼い慣ら

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いろ

僕の世界には色がない
そう気づいたのはもう随分と大きくなってからだった

白黒の世界は生き易く
線の内側にいさえすれば誰も何も言わなかったから
目に映る全てに何の疑いも抱かなかった

世界に色がある事を教えた君は
僕を引き上げた後、笑顔で手を振り去っていった

以来
僕はこの彩られた世界に取り残されたまま
何色にも染まれず
かといって透明にもなれず
今尚呆然と立ちつくしている

しろ

雪の舞い散るこの街に
僕はひらりと降り立った

誰にも見えないこの形(なり)で
全てを葬り去るために

雪がさざめくこの町で
僕はいつしか笑いだす

誰も知らないこの場所で
大きな穴を掘りながら

雪が囁くこの町で
僕は漸く手を伸ばす

誰にも届かぬ鈴の音と
永久の眠りにつくように

やがて雪降るこの街は
僕の心も知らないで

ある麗らかな昼下がり
僕を路傍へ放り出す

よどんだ僕はそのままで

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虚無

翼があると信じていた頃
誰も甲冑を被らなかった

崖に挑む風を感じながら
僕は甲冑を被らなかった

射干玉の夜を彷徨い君は
甲冑の在処を気にかける

有為の奥山が浮き上がり
みな甲冑を背負い始めた

いつしか僕らは
武装した世界の住人となる

適応者には祝福を
反逆者には制裁を

無数の羽が舞い散る中
僕は甲冑をかなぐり捨て
夢を結ぶ旅に出た

あの大空を飛ぶことはできないらしい
それでも僕は歩き

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うそ

横断歩道の真ん中で
君が捨てた嘘を見つけた

どうしようもなく気になって
僕は気まぐれに拾い上げた

中を見ることさえせずに
僕はポケットに忍ばせた

それから夜が更け朝が来て
嘘は僕に笑うから

なんだか心地が良くなって
僕は不思議と駆け出した

嘘は案外転がっていて
僕はすっかり虜になる

君が嘘を捨てるから
僕はすっと跡を追う

何一つとして分からない
君と君の捨てる嘘

そうして僕のポケッ

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