【ただいま増補改訂中】 『製本家とつくる紙文具』 ができるまで 02 | 製本バカの夏
さて、『製本家とつくる紙文具』の制作がはじまった。新章「ペーパーバックの改装」を加えることまでは決まったが、具体的にどんな作例を掲載しようか。8月前半は、このことをもんもんと考えつづけた。
そもそも新章のテーマを「ペーパーバックの改装」にしようと思ったきっかけは、既刊『週末でつくる紙文具』の出版以来つづけてきた製本ワークショップにある。とりわけ手紙社でのワークショップは、かれこれ7年つづいており、現時点で60回以上、延べ600人以上の方々にご参加いただいている。ありがたいことに、リピーターさんも多い。お店が移転すれば場所を変え、コロナ禍ではオンラインを使い、こんなに長くつづけられているのは、参加者のみなさんと店長の城田波穂さんのおかげだ。
当初のワークショップは、今回はノート、次はカルトン、次はアルバム、と紙文具の種類を増やすことで回を重ねていた。しかし、あるときふと気がついたのだ。みんな、いろんな紙文具をつくるよりもむしろ、いろんな製本様式を体験したいと思っている、ということに。手前味噌を承知でいえば、紙文具づくりを通して、製本の魅力を発見してくれたのかもしれない(だとしたらとてもうれしいし、その魅力は一人一人にとって違うのだと思う)。
そこで現在のワークショップでは、紙文具づくりだけでなく本の改装も取り入れている。上の写真の上製本やドイツ装、スイス装は、これまでにワークショップでつくってきたものの一部だ。文具と本の垣根をひょいと飛び越えて、みんな、製本を一つの手仕事として楽しんでいる。
お盆が明けると、新章のページ構成を考えはじめた(この本では、このあたりの編集実務もやらせていただいている)。すぐにも手を動かして試作したいところだが、闇雲につくったのでは本としてまとまりのないものになってしまう。それに、増補の16ページにうまく収まるようにしなくてはならない。
ワークショップでの経験をベースに作例を選び、その工程を説明するにはどのくらいのページ数が必要か、見当をつける。既刊本のレイアウトに照らせば、完成写真は2〜3カット、工程写真は6または12カットが望ましい。この制約を踏まえ、ページ展開をサムネイルに落とし込んでいく(縮小版のラフを「サムネイル」と呼ぶ。下の写真は実際のサムネイル)。
ざっくりとしたサムネイルができたところで、試作に着手。サムネイルはあくまで机上の構想であり、実際につくってみなければ見えてこないこともある。せっかく一人の人間がやるのだから、構成と試作を同時進行するほうがいい。そこで材料を調達しはじめたのだが、これがなかなか大変で……。
まずは、改装する本選び。やっぱりわたしにとって親しみのある本を改装したくて、大好きな児童文学から選ぶことにした。だったら『飛ぶ教室』は絶対だし、『モモ』も外せない。でも、ドイツの作家に偏るのもな……などと考えはじめると切りがない。重要なのは改装のアイデアであり、改装する本の内容を気にしているのはわたしだけなんだけど。
次に、ブッククロス、マーブルペーパー、クライスターパピア、花布、栞ひもなどの資材を取り寄せる。既刊『週末でつくる紙文具』のトーンはわたし自身の好みなのだけど、思うままに資材を集めればよいかというとそうでもない。同じような色がつづくと単調になるし、質感にも変化がほしい。トーンをそろえることと、その中で起伏をつけること、両方を意識したい。
そんなこんなで、本と資材が手もとに届いて実際に試作をはじめられたのは、9月に入ってからだったと思う。試作してメモ、改良してメモ。こうして、9月は試作に次ぐ試作で過ぎていった。
9月の記憶が曖昧なのでTO DOリストを見返すと、編書が6冊ほど進行しており、結構忙しくしている。中旬には徳島で出張取材をし、下旬には手紙社でワークショップをしている。いまとなっては、これらの合間にどうやって試作したのかと思うのだが……。驚くべきことに、ルリユール倶楽部のかよさんと軽井沢で製本合宿を決行している。いやぁ、自分で自分に「製本バカ」の称号を授けよう。令和の製本バカの増補改訂は、まだまだつづく。
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『製本家とつくる紙文具』 ができるまで 過去記事一覧はこちら
● 『週末でつくる紙文具』永岡綾(グラフィック社)
● 英語版『Japanese Paper Craft』Aya Nagaoka(Hardie Grant Books)
● フランス語版『MANUEL PRATIQUE DE PAPETERIE JAPONAISE』Aya Nagaoka(Le Temps Apprivoise)
● ドイツ語版『JAPANISCHES PAPIERHANDWERK』Aya Nagaoka(Haupt)