【ただいま増補改訂中】 『製本家とつくる紙文具』 ができるまで 01 | 新章ありかも?
2017年刊行の拙著『週末でつくる紙文具』は、「製本」の技術を使った紙文具づくりの実用書だ。2022年にはドイツ語とフランス語、2024年には英語の翻訳版が出版され、noteでもいそいそと記事を書いた。
しかし、実をいうと原書である日本語版がずーっと在庫切れしていた。だから、翻訳版を紹介するときも「日本語版はこちら」とは書きづらく、「古書ならあるかもしれないですが、値上がりしちゃってたらすみません」といういいわけをもごもごと心の中で唱えつつ、amazonのリンクをつけておくしかなかった(この記事にも……もごもご)。製本ワークショップで「本を買いたいです」といってくださった方にも同じように答えるしかなく、すると「古書だと先生(ワークショップの場では恐れながら先生と呼ばれる)に貢献できないから残念です」といわれたときは切なかった。古書は、どれだけ高値で売れても著者に印税が入らない。そこまで考えてくださっていたなんて。
このまま日本語版が消えてしまうのは残念なので、せめて電子書籍として残すべきか。いや、待てよ、製本にまつわる本を電子書籍にするのも微妙かなあ、などと逡巡していたところ、急転直下。2024年の初夏、版元のグラフィック社から「増補改訂版をだしましょう」というお話をいただき、「それはもう、ぜひ!」とすぐさま二つ返事をした。
ちなみに「増補版」とは、既刊本の内容はそのままに新たな内容を追加した版を指す。「改訂版」は既刊本の内容を一部訂正した版。「新装版」というのもあるが、これは表紙を刷新した版のこと。さらに「増訂版」は、既刊本を組み直してページ数を増やした版を指す。ほほー。今回は「増補改訂版」だから、新たな内容を追加し、かつ既刊本の誤植などを修正することになる。
既刊『週末でつくる紙文具』は、「書く」「整理する」「保存する」の3章立てだ。「書く」ならノートやメモパッド、「整理する」ならフォルダーやボックス、「保存する」ならアルバムやスクラップブックといった具合に各章で10のアイテムを紹介し、そのつくり方を工程写真つきで掲載している。さて、ここに何を追加するのがいいだろう?
7月下旬の猛暑の日、東京・九段下にあるグラフィック社の会議室にて編集担当の山本尚子さんと打ち合わせをした。増補の方向についてあれこれ意見を交わし、各章に新アイテムを1、2点加えるよりも、いっそ新章を加えようという話になった。新章追加となれば既刊本との違いが端的に伝わるし、わたし自身も新たな気持ちで取り組める。新章、いいかも!
刊行は2025年1月、増補は16ページ。そして、新章のテーマは「ペーパーバック(文庫本)の改装」に決まった。つまりは文庫本をハードカバーに仕立て直すアイデアで、「それって紙文具じゃないよね」というツッコミ、ごもっとも。でも、製本の手技で日常をいまより少し楽しくしようという、根っこに流れるコンセプトに何ら変わりはない(ので、許してほしい……)。
夏の盛りに試作を重ね、夏が終わる頃には台割と作例が確定。束の間の秋に撮影と原稿執筆。そして季節が冬へと移り変わったいま、校正刷りがあがっている(下の写真は先日あがったばかりの本紙校正)。いよいよ完成間近の増補改訂版のタイトルは……『製本家とつくる紙文具』!
この『製本家とつくる紙文具』ができるまでの過程をリアルタイムで綴れたらよかったのだが、できなかった。それは忙しさのせいでもあるけれど、たぶんわたしは「目が覚めたら夢だった……」みたいなオチを恐れていたのかも。そんな漫画みたいな展開はそうそうないとわかっている。でも、いまの出版業界においてこうして増補改訂版をつくれることがどれほど幸運であるかも、よくわかっているつもりだ。
というわけで、制作はもう終わりかけているのだが、振り返れるところだけでも記しておきたい。しかし、前置きだけでこんな長さになってしまった。このへんで一度切り上げて、つづきはまた次回に。
● 『週末でつくる紙文具』永岡綾(グラフィック社)
● 英語版『Japanese Paper Craft』Aya Nagaoka(Hardie Grant Books)
● フランス語版『MANUEL PRATIQUE DE PAPETERIE JAPONAISE』Aya Nagaoka(Le Temps Apprivoise)
● ドイツ語版『JAPANISCHES PAPIERHANDWERK』Aya Nagaoka(Haupt)