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【ただいま増補改訂中】 『製本家とつくる紙文具』 ができるまで 03 | 完璧な「つくりかけ」をつくる

9月の末、『製本家とつくる紙文具』の作例が8割ほどできた。試作を重ねた結果「これでいこう」と思えた作例をスマホで撮影。増補16ページ分のサムネイルにその画像を添えて、編集担当の山本さんへ送る。山本さんからはすぐに返信があり、「ぜひこの方向で!」といっていただいた。ほっ。


新章のタイトルは「BOOK REFURBISH ぺーパーバック(文庫本)の改装」とした。わざわざ英語なんか使っちゃって、ねぇ(欧文をポイントにしたデザインなもので……)。最初の2ページは章扉になるから、使えるのは実質14ページ。この中で、以下5種の作例を掲載することにした(上の写真が5作例勢ぞろいの図、順不同)。

BOOK REFURBISH ぺーパーバック(文庫本)の改装
#01 QUARTER BINDING 背継ぎ表紙
#02 HALF BINDING コーネル装
#03 FULL BINDING 窓つき布装
#04 BRADEL ALLEMAND ドイツ装
#05 SWISS BROCHURE スイス装

10月初旬にはデザイナーの守屋史世さんと、中旬にはフォトグラファーの清水奈緒さんと打ち合わせをした。清水さんも守屋さんも既刊『週末でつくる紙文具』の制作メンバーなので、「既刊本のトーンで」といえば通じるので話が早い。留意したいのは、新章ではすべての作例が「本」であること。大きさも形も似ているので、見せ方を工夫して変化をつけたいところだ。

一方、山本さんが印刷所とのやりとりを進め、2025年1月の発刊から逆算したスケジュールをだしてくれた。撮影は11月6日。すぐにアタリ画像(補正前の低解像度画像)でデザインに取りかかってもらい、11月中旬にはレイアウトUP。そこから文字校正を2回ほどして、その間に画像の補正を進めてもらう。文字も画像も最終形になったところで、11月29日に印刷所へ入稿。12月初旬には色校正UP。そして年内の校了を目指す。もう逃げ道はない!


作例はすでにできてるんだから余裕でしょ、と思うだろうか。いやいや、ここからが実用書制作の正念場だ。工程写真、つまり「つくり方」を撮影するため、各段階の「つくりかけ」を用意しなければならない。

最初から最後まで、全工程をつぶさに追って撮影するなら「つくりかけ」など不要だ。しかし、これはなかなか難易度が高い。製本には乾燥やプレスの工程が多々あり、リアルタイムで撮影したのでは膨大な時間がかかってしまう。また、糊を半分塗ったところで手を止め、シャッターを切り、画像を確認して……などしていると紙が反ったり伸びたりする。にもかかわらず、失敗は許されない。「ちょいとやらかしたんで、つくり直します。えへへ」なんてやっていたら、撮影はエンドレスだ(そして、ものすごくいたたまれない)。

増補改訂版の撮影日は一日のみ! 7〜8時間で5つの作例の完成写真、工程写真、寸法表示のための切り抜き写真、巻末のTIPS写真、そして表紙写真を撮影しなくてはならない。中でも表紙写真には充分な時間をかけたいし、数パターン撮影しておくのが通例でもある。そうなると、最もカット数の多い工程写真の撮影をどれだけさくさく進められるかがポイントになる。

例えば、こちらが「背継ぎ表紙」の工程写真のために用意した一式。切りだした材料、背クロスだけ貼った板紙、まだバラバラの表紙と本文など。左上の完成品っぽいものも、片方だけ溝入れした状態になっている。料理番組さながら、どんどん差し替えながら撮影できるようにしてあるのだ。

たった5作例、されど5作例。工程写真も含めると、準備しても準備しても終わらない。日々コツコツと修業のように「つくりかけ」をつくり、「背継ぎ表紙 - 1」などと付箋を貼り、ジッパーバッグに小分けしていく。


製本は地道だ。そして、製本の本をつくることはもっと地道だ。でも、地道じゃないものづくりはないし、地道じゃない本づくりもない。もしあったとしても、そんなのきっと、おもしろくない。

『製本家とつくる紙文具』 ができるまで 過去記事一覧はこちら


● 『週末でつくる紙文具』永岡綾(グラフィック社)


● 英語版『Japanese Paper Craft』Aya Nagaoka(Hardie Grant Books)


● フランス語版『MANUEL PRATIQUE DE PAPETERIE JAPONAISE』Aya Nagaoka(Le Temps Apprivoise)


● ドイツ語版『JAPANISCHES PAPIERHANDWERK』Aya Nagaoka(Haupt)


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