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記事一覧
海外アートゲームシーンで静かに広がる開発ツール「Decker」の世界——シュールな見た目に留まらない、HyperCardの流れを汲むミニマルゲーム開発に向いたツール
広大なインターネットの世界には、ゲームを制作するためのさまざまな開発ツールが公開されている。UnityやUnreal Engineなど代表的なゲームエンジン以外にも、プログラミングの知識を深く必要とせずともゲームづくりを可能にするものは多く、独自の形式や制約の中からクリエイティブな表現が生み出されることも少なくない。本記事ではそんな開発ツールのひとつであり、アートゲーム的な手法とも親和性が高いDeckerについて、作品の具体例とともに紹介していく。 執筆 / ドラゴンワサビ
『Fears to Fathom』緊張と緩和、そしてオーラルヒストリーとしての心理ホラー。5作目を迎えた、恐怖の行方
「Fears to Fathom」は一人称視点のホラーゲームだ。現在までに5作品がリリースされており、いずれもSteamで1000件以上のレビューを獲得している人気シリーズだ。 このシリーズの特徴は、なんとプレイヤーからメールで物語を募集し、それを元にゲームを制作しているという点だ。開発者の元に届いた物語をそのまま再現しているのか、あるいは改変しているのか、はたまた複数のエピソードを組み合わせているのかは知る由もないが、少なくともそのゲームプレイは、現実のどこかで実在した出
▼インディースポーツ▼バスケの暴力スキャンダルADV『Watch Me Jump』。女子バスケットボールの本場・WNBAで才能を持つ、憤りを抱える選手の醜聞を認めるか、否定するのか。
▼シーズンテーマ『インディースポーツ』で特集しているタイトルです▼ 概ねスポーツにおける選手のほとんどの存在は、試合のパフォーマンスを観るまで完結してしまう。しかしゲームセットを告げられた後にも、あまり語られることがない選手たちの物語がある。そんなことは頭でわかっているのだが、なかなか想像はしづらいものだ。 そんな試合の外での物語を強く観客に想像させる機会が、とても悪いかたちで存在する。スキャンダルである。不倫をはじめとしたセックススキャンダルから、プライベートでの暴力沙
実在するフィリピンの偉人たちによる、まさかのスタイリッシュな 2D対戦格闘ゲーム!『BAYANI:Fighting Game』
『BAYANI:Fighting Game』はフィリピンにまつわる歴史上の偉人たちをモチーフに作られた2D格闘ゲームだ。2019年Steamでアーリーアクセスとしてリリースされており、今年開催されたEVO JAPAN 2024ではアーケードプラットフォーム「exA-Arcadia」での稼働も発表されていた。 筆者が本作と出会ったのは2019年ラスベガスで開催された世界的格闘ゲーム大会「EVO 2019」だった。その会場の中でインディー開発による対戦ゲームが中心に出展されたブ
『Playing Kafka』— “カフカの小説とは、笑いと恐怖のコントだった”と無料で気づけるゲーム。プレイヤー自身が得体の知れないシステムとなり、『審判』や『城』の主人公の運命を操作するかのようなADV
文学とビデオゲームの関係ということでは、数ある古典的な小説家のなかでもフランツ・カフカの小説ほどビデオゲームにインスパイアを与えたものはないように思う。しかし、ここまでの不条理文学の古典となりすぎることで、固いイメージが少なくないだろう。 『Playing Kafka』はそうではなく、「あの小説はよく考えたらコメディとホラーが混ざり合ったコントみたいなものだったのではないか?」と、ビデオゲームの力によってかの古典を再解釈させる力を持つ一作なのである。 そんな再解釈を無料で
▼日常▼ファジーでファンタジーなチャイルドフッドメモリー『Five Years Old Memories』【月の裏側のビデオゲーム】
▲シーズンテーマ『日常』に参加しているテキストです 『Five Years Old Memories』は強く人に勧めたい、だけどできることなら自身の体験として多くを知らないまま触れてほしいと、同時に願いたくなる稀有な作品のひとつだ。まさに「体験」としか呼びようのない本作に漂う独自のプレイフィールは、どんな言葉をあてがおうとも説明し尽くしがたいむず痒い思いを抱かされる。 計7つのチャプターからなる本作は、それぞれに作者である小光氏が友人たちへ聞いた5歳ごろの記憶に関するイン
『Looped』終わりなき時の円環に閉じられた永遠の恋愛——に見せかけ、だらだら暮らすデタラメなカップルの日々を体験する
時の円環に閉じ込められ、永遠に繰り返される恋愛の時間。それは本当に幸福なのか、あるいは甘い地獄なのか。でも、別に本人はそこまで問題にしてないし、ふたりの関係で傷つくこともなく、けっこう普通に生活してたりする適当さ。考えてみれば、それこそが誰もが望む恋愛の形かもしれない……これが『Looped』で体験できるすべてだ。 ビデオゲームで恋愛の体験は、さまざまなかたちで作られてきた。プレイヤーが自分のスキルを磨いて相手に振り向いてもらうシミュレーションとか、すでに恋愛が成就し、ふた
▼日常▼『Neyasnoe』出口なき絶望は、やがて一篇の詩となる——ロシア“失われた世代”の暗闇を体験する異色ウォーキングシミュレーター【月の裏側のビデオゲーム】
シーズンテーマ『日常』で特集しているタイトルです ある国の、ある場所に住む他人を想像するのはきっかけがなければ難しい。 ロシアによるウクライナへの侵略戦争が2022年に発生して以降、戦火のニュースから他人を想像するきっかけを与えたのは攻撃を受けるウクライナの市民の方だ。戦争に関する様々な報道や映画、テキスト、そしてビデオゲームも含めてウクライナ市民の生活を日本人が想像するきっかけは溢れている。だが、ロシアの市民についてはそうではない。 現在のニュースを追う限り、ロシアは
▼日常▼膨大な数があるシミュレーターの世界には、なんと電子レンジでマカロニが温められる2分半をただ待つシミュレーターもある。『microwave simulator』【月の裏側のビデオゲーム】
▲シーズンテーマ『日常』に参加しているテキストです 多種多様な要素から構成されるビデオゲームを「時間の体験」という尺度から捉えた際、ある種の極北とも呼べる作品がいくつか存在する。最低限のインタラクティブ性は担保しつつ、プレイヤーが操作可能なインタラクションを「電子レンジのボタンを押す」一点に絞った『microwave simulator』も、そんなゲームのひとつだ。 冷凍食品を温める間の2分半を眺めて過ごす行為がゲームプレイの大部分を占める本作は、長大なボリュームやリッチ
『MapFriend』はGoogleストリートビューのいびつな風景が持つ恐ろしさを確認させる、批評的な短編ホラーADV。【月の裏側のビデオゲーム】
いまやGoogleマップは生活や仕事に欠かせないものだ。特にストリートビュー機能は行先を事前に確認するときに重宝している。東京のおいしいカレー屋のチェックから、ベルリンの旅行前に興味深いストリートアート美術館の場所を見ておくところまで頻繁に使っている。 ストリートビューは現実をシミュレーションしたマップとして優れているが、よく見ると違和感があるものを映し出してもいる。地球上の都市部のほとんどを、気づかないうちに路地裏まで360度カメラが撮影し、マップの情報にしている事実もそ
英語圏を席巻するゲームエンジン「bitsy」のシーンについて——まるで日記や詩を作るみたいに、ゲームを作れるゲームエンジン
シーズンテーマ『日常』で特集しているテキストです bitsyとは、ミニマルなゲームエンジンです。ブラウザ上で動作し、プログラミングの知識もいらず、シンプルな操作でゲームを作れることを特徴としています。bitsyは開発の手軽さから、このエンジンのコミュニティが築かれていることも大きな特徴ですし、決められた期間にゲームを作って持ち寄るゲームジャムにおいてもしばしば利用されています。この記事では、bitsyを使って作られたゲームを「日常」というテーマからいくつか紹介します。 執
▼日常▼ADHD当事者が生きる世界を、ゲームプレイすることで体験する『ADHDventure』【月の裏側のビデオゲーム】
▲シーズンテーマ『日常』に参加しているテキストです 発達障害の一種であるADHD(注意欠如・多動症)の当事者が生きる世界とは、果たしてどのようなものなのだろうか。『ADHDventure』は、言葉では伝えづらいそうした多様な脳とともにある人々の日常を、ミニゲーム形式のさまざまなタスクに取り組むことで体験するシミュレーションゲームだ。 本作はitch.ioの公式ページからウェブブラウザでプレイでき、クリアまでの時間は10〜15分ほど。日本語への翻訳には対応していないものの、
▼日常▼ 謎の痛みの原因をいくら医者に聞いても診てもらえない……クリエイター・npckc氏の実話からゲームデザインされた難病診断ライフシム『気のせいだ』
シーズンテーマ『日常』で特集しているテキストです 『気のせいだ(原題:you're just imagining it)』は心をかき乱される一作である。というのも、僕自身が昨年2023年に、本作のクリエイターであるnpckcさんとゲームイベントなどでお話させていただくことが多かったからだ。 npckcさんはさまざまなジェンダーアイデンティティを持つ主人公を描いた『A YEAR OF SPRINGS』や、特殊な開放で切り抜けるホラーの『a pet shop after da
▼言語▼考古学者が古代言語を解読し、過去の歴史を探るSFアドベンチャー『Heaven's Vault』【月の裏側のビデオゲーム】
シーズンテーマ『言語』で特集中のテキストです 歴史を調べることは、同時にいまの自分の立場にあるかを知ることでもあるという。では歴史家や考古学者は、その調査のなかで自らの立ち位置をいつも思い知らされているものだろうか? 実際そうなのか定かではない。だが少なくとも、『Heaven’s Vault』の主人公アリヤ・エラスラは考古学者として、何万年も前の世界の言語をひとつ解き明かすとともに、自分の存在を確認し続けている。 『Heaven’s Vault』は何万年も過去である古代