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『月の裏側のビデオゲーム』—未知のゲームを発掘する特集

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“ビデオゲームの可能性”を追求した、あらゆるゲームを取り上げる。あなたが知らないビデオゲームの世界がここにある。
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記事一覧

「自分が思う最強の『moon』を作りたいんです」——『くつひも物語』はメタすらも越え、ゲームの当たり前から遠ざかった、かつてない荒野の世界を体験させる。

時にビデオゲームはありきたりなジャンルだとかルールだとかに括られない体験を作ろうとすることがある。『くつひも物語』とは、まさにそういう体験をもたらす可能性を秘めたポイントクリック・ビジュアルノベルである。 『くつひも物語』は発表以来、そのタイトルや登場人物、ストーリーの概略などから一切、 “どんな体験ができるのか”という予測をさせない雰囲気を放っている。たとえば、以下はストーリーの概略だがここから何がわかるだろうか。 なにかありきたりなRPGに対するパロディのように思える

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『彼は私の中の少女を犯し尽くした』のテイラー・マッキューの初期作品2作が日本語化。トランス女性として経験してきたゲート・キーピングの問題を体験する

『彼は私の中の少女を犯し尽くした』(Steam)の作者テイラー・マッキュー(Taylor McCue)の過去作『これがあなたのためだから』(原題:Saving You From Yourself)(Steam/itch)と『Do I Pass?』(itch)が日本語化されました。 翻訳は私、鳥の王国が担当しています。どちらも無料で、itchではブラウザ上でのプレイも可能です。『これがあなたのためだから』はトランスジェンダーの人が医療にアクセスしようとしたときに起こるゲートキー

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【NEWS】そのエレベーターは止まる階によって違う世界の謎へ導く。『MR. ELEVATOR』が2025年の春に発売を予定。新たな謎解きADVのジャンルを切り開く。

ギフトテンインダストリ株式会社は、2025年春に発売を予定している『MR. ELEVATOR』の公式ホームページを公開した。このゲームは同じエレベーターに乗り合わせた男女5人の奇妙な旅路を描く、音をテーマにしたパズルアドベンチャーゲームだ。 カセットテープを使った謎解きゲーム、展示会用のムービー制作、アナログゲームを用いた謎解きの作成…とこのゲームの開発には様々な紆余曲折があった。この記事では『MR.ELEVATOR』の概要と開発ストーリーを紹介する。 構成 / 葛西祝

【NEWS】戒厳令を解除した日の記憶を忘れない。韓国のユン大統領が起こしたクーデターへの弾劾を求める「キャンドルゲームジャム」が12月開催予定

12月3日の夜。韓国で突如としてユン大統領が発令した戒厳令は全世界に衝撃を与えた。 韓国では1980年代の軍事政権時代に対し、光州事件を代表に多くの犠牲者を生み出しながら民主化を成し遂げた記憶が生々しく残る。今でも80年代の民主化運動を題材とした映画や小説は数多く制作され続けている。 その歴史的な記憶があるためか、戒厳令が発令されるとすぐさまに市民と議員が与野党を問わず国会議事堂に集まった。軍隊が議事堂を占拠するのを市民が防ぎ、議員たちは性急に国会を開催。戒厳令を解除要求

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【言語】『Sethian』異言語を探ることは世界を広げるということ。 “宇宙人の言葉を探る”ゲームは、ここ10年の架空言語から別世界を知るゲームの流れを先行していた。

▼シーズンテーマ『言語』で特集中のテキストです▼ 架空言語をテーマとしたビデオゲームがこの数年で目立つようになってきた。どこが皮切りになったのかははっきりとは言えないが、さまざまなゲームを振り返ってみれば、2016年の『Sethian』がひとつのターニングポイントだったのではないか。と思う。あらためて、本作を振り返ってみることで、見えてくるものもあるだろう。 構成 / 葛西祝 執筆 / 龍田優貴 『Sethian』は、我々が住む世界のどこにも存在しない「架空言語」をモチ

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海外アートゲームシーンで静かに広がる開発ツール「Decker」の世界——シュールな見た目に留まらない、HyperCardの流れを汲むミニマルゲーム開発に向いたツール

広大なインターネットの世界には、ゲームを制作するためのさまざまな開発ツールが公開されている。UnityやUnreal Engineなど代表的なゲームエンジン以外にも、プログラミングの知識を深く必要とせずともゲームづくりを可能にするものは多く、独自の形式や制約の中からクリエイティブな表現が生み出されることも少なくない。本記事ではそんな開発ツールのひとつであり、アートゲーム的な手法とも親和性が高いDeckerについて、作品の具体例とともに紹介していく。 執筆 / ドラゴンワサビ

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▼インディースポーツ▼バスケの暴力スキャンダルADV『Watch Me Jump』。女子バスケットボールの本場・WNBAで才能を持つ、憤りを抱える選手の醜聞を認めるか、否定するのか。

▼シーズンテーマ『インディースポーツ』で特集しているタイトルです▼ 概ねスポーツにおける選手のほとんどの存在は、試合のパフォーマンスを観るまで完結してしまう。しかしゲームセットを告げられた後にも、あまり語られることがない選手たちの物語がある。そんなことは頭でわかっているのだが、なかなか想像はしづらいものだ。 そんな試合の外での物語を強く観客に想像させる機会が、とても悪いかたちで存在する。スキャンダルである。不倫をはじめとしたセックススキャンダルから、プライベートでの暴力沙

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実在するフィリピンの偉人たちによる、まさかのスタイリッシュな 2D対戦格闘ゲーム!『BAYANI:Fighting Game』

『BAYANI:Fighting Game』はフィリピンにまつわる歴史上の偉人たちをモチーフに作られた2D格闘ゲームだ。2019年Steamでアーリーアクセスとしてリリースされており、今年開催されたEVO JAPAN 2024ではアーケードプラットフォーム「exA-Arcadia」での稼働も発表されていた。 筆者が本作と出会ったのは2019年ラスベガスで開催された世界的格闘ゲーム大会「EVO 2019」だった。その会場の中でインディー開発による対戦ゲームが中心に出展されたブ

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『Playing Kafka』— “カフカの小説とは、笑いと恐怖のコントだった”と無料で気づけるゲーム。プレイヤー自身が得体の知れないシステムとなり、『審判』や『城』の主人公の運命を操作するかのようなADV

文学とビデオゲームの関係ということでは、数ある古典的な小説家のなかでもフランツ・カフカの小説ほどビデオゲームにインスパイアを与えたものはないように思う。しかし、ここまでの不条理文学の古典となりすぎることで、固いイメージが少なくないだろう。 『Playing Kafka』はそうではなく、「あの小説はよく考えたらコメディとホラーが混ざり合ったコントみたいなものだったのではないか?」と、ビデオゲームの力によってかの古典を再解釈させる力を持つ一作なのである。 そんな再解釈を無料で

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▼日常▼ファジーでファンタジーなチャイルドフッドメモリー『Five Years Old Memories』【月の裏側のビデオゲーム】

▲シーズンテーマ『日常』に参加しているテキストです 『Five Years Old Memories』は強く人に勧めたい、だけどできることなら自身の体験として多くを知らないまま触れてほしいと、同時に願いたくなる稀有な作品のひとつだ。まさに「体験」としか呼びようのない本作に漂う独自のプレイフィールは、どんな言葉をあてがおうとも説明し尽くしがたいむず痒い思いを抱かされる。 計7つのチャプターからなる本作は、それぞれに作者である小光氏が友人たちへ聞いた5歳ごろの記憶に関するイン

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『Looped』終わりなき時の円環に閉じられた永遠の恋愛——に見せかけ、だらだら暮らすデタラメなカップルの日々を体験する

時の円環に閉じ込められ、永遠に繰り返される恋愛の時間。それは本当に幸福なのか、あるいは甘い地獄なのか。でも、別に本人はそこまで問題にしてないし、ふたりの関係で傷つくこともなく、けっこう普通に生活してたりする適当さ。考えてみれば、それこそが誰もが望む恋愛の形かもしれない……これが『Looped』で体験できるすべてだ。 ビデオゲームで恋愛の体験は、さまざまなかたちで作られてきた。プレイヤーが自分のスキルを磨いて相手に振り向いてもらうシミュレーションとか、すでに恋愛が成就し、ふた

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▼日常▼『Neyasnoe』出口なき絶望は、やがて一篇の詩となる——ロシア“失われた世代”の暗闇を体験する異色ウォーキングシミュレーター【月の裏側のビデオゲーム】

シーズンテーマ『日常』で特集しているタイトルです ある国の、ある場所に住む他人を想像するのはきっかけがなければ難しい。 ロシアによるウクライナへの侵略戦争が2022年に発生して以降、戦火のニュースから他人を想像するきっかけを与えたのは攻撃を受けるウクライナの市民の方だ。戦争に関する様々な報道や映画、テキスト、そしてビデオゲームも含めてウクライナ市民の生活を日本人が想像するきっかけは溢れている。だが、ロシアの市民についてはそうではない。 現在のニュースを追う限り、ロシアは

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▼日常▼膨大な数があるシミュレーターの世界には、なんと電子レンジでマカロニが温められる2分半をただ待つシミュレーターもある。『microwave simulator』【月の裏側のビデオゲーム】

▲シーズンテーマ『日常』に参加しているテキストです 多種多様な要素から構成されるビデオゲームを「時間の体験」という尺度から捉えた際、ある種の極北とも呼べる作品がいくつか存在する。最低限のインタラクティブ性は担保しつつ、プレイヤーが操作可能なインタラクションを「電子レンジのボタンを押す」一点に絞った『microwave simulator』も、そんなゲームのひとつだ。 冷凍食品を温める間の2分半を眺めて過ごす行為がゲームプレイの大部分を占める本作は、長大なボリュームやリッチ

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『MapFriend』はGoogleストリートビューのいびつな風景が持つ恐ろしさを確認させる、批評的な短編ホラーADV。【月の裏側のビデオゲーム】

いまやGoogleマップは生活や仕事に欠かせないものだ。特にストリートビュー機能は行先を事前に確認するときに重宝している。東京のおいしいカレー屋のチェックから、ベルリンの旅行前に興味深いストリートアート美術館の場所を見ておくところまで頻繁に使っている。 ストリートビューは現実をシミュレーションしたマップとして優れているが、よく見ると違和感があるものを映し出してもいる。地球上の都市部のほとんどを、気づかないうちに路地裏まで360度カメラが撮影し、マップの情報にしている事実もそ

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