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【詩】プロスペロー独白

魔法は解けました
フラフラ目眩だ 汗ばんだ背中
妖精はおらず 杖もない
会うすべもない

心は嵐 粗探しばかり
周りから見れば同じキャリバンか
荒野の獣とはボクのことだ
アア 除け者のプロスペローよ

もう一度奏でてくれないか
フルートの名手エアリアルよ
バッハの無伴奏ソナタを
ホラ    パパと無愛想なママも一緒だ

風が待ってくれよと
ボクの服を掴む 震える声で掴む
どこにも行かないよ 嘘だ
どこにも行けないだけなんだ

どうか忘れてくれるな
風の妖精はボクに言った
それがどうだ 今となっては
顔も声も体温も
砂のお城 さざなみのあぶく
読めない楽譜があるだけさ

どうやっても思い出せない
シャボンのように割れた言葉を
許したら あの頃の僕が
許してくれないんだ
許せなくなったんだ

打ち寄せられた貝殻
確かな命の痕跡だというのに
おまえは死してようやく
外の世界を知ったのか
なんというアイロニー
籠る方が楽かもしれないのに

さながらサタンか
天から追われ 墜落か
つい楽な方へ流れてしまう
自堕落なボクへの戒めか
ならばもう一度叫べよ
歩けよ 路地の化石の夢よ
まだ追いつかない微かな未来だ
まだおぼつかない小さなミランダ

どうやって殺すかより
今日の献立をどうしようか
そればかり考える
なんと幸せな日々
ボクがこの子を守らねば
イヤ この子がボクを守っているのだ
恨みから 憎しみから 復讐から
怒りから 悲しみから
なんと心地よい嵐の殻だろう
だけど

どうやっても忘れられない
ダイヤのように割れぬ言葉を
許したら あの頃のボクが
許してくれないんだ
許せなくなったんだ

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