ミズノコ/盲目
A……河童Ⅰ 頭に皿が乗っている
B……河童Ⅱ 頭に皿が乗っている
明転
誰もいない
A 様子を伺う
Bに
「おい、もう出てきていいぞ」
B 登場
「ふう〜。やっと帰ったか」
A 「やっとだよ、やっと」
B 「アイツら毎日、ホント飽きないよな」
A 「全くだ。よっぽど暇か、馬鹿のどっちかだよ。ったく、河童を探そうだなんて」
B 「もう、そこらじゅうキュウリだらけだよ」
A 「誰だよ、最初にキュウリが好きだって言いだしたの。俺、野菜嫌いなんだけど」
B 「でも、姿現すわけにもいかないだろ」
A 「まあ、そうだけど。なあ、人間からしたら俺たちってどういう扱いになってんの?」
B 「う~ん、よく分かんねえけど、妖怪、とかじゃないか?」
A 「妖怪って~。俺たち、普通に生きてるだけなんだけどなあ」
B 「なあ。だいたい、人間ってのは傲慢なんだよ。何でもかんでも自分たち基準で名前付けるからさあ、気付いたら妖怪になってんの。溺れてる子供の足引っ張ったか何だか知んねえけどよお、俺たちがそんな悪魔みたいなことするわけねえだろ!」
A 「落ち着けって」
B 「俺の友達にさ、ヨッシーいるじゃん?」
A 「ヨッシー?」
B 「あのネッシーの」
A 「ああ、吉田君ね」
B 「そうそう」
A 「その子がどうしたの?」
B 「人間に見つかっちゃったんだって」
A 「また!?」
B 「うん」
A 「もう五日連続だろ」
B 「うん」
A 「そこまで連続して見られたら、もう未確認じゃないだろ」
B 「うん。ただの確認生物」
A 「そのうち図鑑に載るんじゃねえか」
B 聞きなれない単語
「図鑑って?」
A 「ん?何でもないよ。あーあ、未確認もだいぶ減ってきたんじゃないか?」
B 「うん。ゴリラ、パンダ、イッカク、コモドドラゴン、シーラカンス、マーライオン……。あとなんだっけ?ほら、あの、イカの大王みたいなやつ」
A 「ダイオウイカ?」
B 「それ!」
A 「アイツも未確認だったのか」
B 「そうなんだよ。たしかクラーケンのモデルになったんじゃないかなあ」
A 「何でお前がそんなこと知ってんだよ」
B 「え?本人から聞いた」
A 「ああ」
B 「ほら、あと、あの~竜宮城の遣いみたいなやつ」
A 「リュウグウノツカイ?」
B 「そうそれ!」
A 「もう答え言ってんじゃん、自分で」
B 「確かアイツは人魚のモデルって言われてたんだよ」
A 「何でお前がそんなこと知ってんだよ」
B 「本人から聞いた」
A 「ああ」
B 「じゃあ、あのスベスベの饅頭みたいなカニは?」
A 「スベスベマンジュウガニ?」
B 「あー!引っかかった!そんな生き物実際はいないのにー」
A 「……。え、いるけど?」
B 「え?」
A 「スベスベマンジュウガニだろ?いるよ。存在する」
B 「え……?それはどういった生物なの?」
A 「お前の言った通りだよ。スベスベの饅頭みたいなカニ」
B 「ええ……。なんでお前がそんなこと知ってんの?」
A 「本で読んだんだよ」
B また聞きなれない単語
A 「あとスベスベケブカガニっていうのもいるけどな」
B 「スベスベのケブカガニ?」
A 「そう。ケブカガニていう種類の毛深くないやつ」
B 「何でそんなこと知ってんの?」
A 「本で読んだんだよ」
B またまた聞きなれない単語
A 「あとトゲアリトゲナシトゲトゲっていうのもいる」
B 「もう、どこから始めたらいいのか……。ちなみにトゲはあ……」
Aの顔を窺う
A 口パクで
「あ……」
B 「な……。あ……るんだな!」
A 「そうなんだよ、あるんだよ、トゲは」
B 「何でそんなこと知ってんの?」
A 「本で読んだんだよ」
B またまたまた聞きなれない単語
A 「あとさあ、ニセクロホシテントウゴミムシダマシってのもいて……」
B 「あのさあ、さっきからずっと気になってるんだけど」
A 「何?」
B 「本って何?」
A 「え?……ああ!」
慌てて自分の口を抑える
B 「何なんだよ、本って」
A 「え~っと~、本ねえ……。本は……アレだよ。その……なんだろな?」
B 「まさかお前、人間とつるんでるなんてことないだろうな?」
A 「ええ!……全然」
嘘が下手
B 「じゃあ何で、言えないんだよ」
A 黙り込む
「……分かったよ。正直に言うから。最近、街の方によく出かてるんだ。何でかっていうと図書館ってところで勉強してるからで、そこに、その、本っていうのがいっぱい置いてあるんだ」
B 「……」
A 段々と話に熱が入る
「それで、どうやって勉強するかっていうと、本にはたくさんの記号が並んでて、それぞれが意味や発音を表しているんだ。ほら、お前だって魚が釣れたら地面に線描いてるだろ?あれと一緒だよ。で、その文字の羅列を読んで理解していくんだよ」
B 「なるほど。本がどういう物なのかはよーく分かった」
A 「うん」
B 「で?その文字は誰に教わったんだ?」
A 「え?」
B 「たくさんの文字がそれぞれで意味や発音を表してるんだろ?でも意味はまだしも、読み方なんて教えてもらわない限り分からないだろ?」
A 「……げん」
B 「え?」
A 「……人間」
B 「人間に教わったんだな」
A 「で、でも、河童だっていうことはバレてないよ!」
B 「当たり前だろ。それにお前、村の掟の忘れたのか?」
A 「……人間に接触してはいけない」
B 「何で破った?」
A 「……」
B 「言え!怒らないから」
A 「もう、怒ってるじゃないか……。……。好奇心だよ」
B 「好奇心?」
A 「知りたかったんだよ。自分のことを」
B 「自分のこと……」
A 頭の皿を取る
B 動揺する
「え?え?どういうこと?」
A 「実は……取れるんだ、コレ」
B 「死なないの?」
A 「死なない。割れても何ともなかった」
B 「わ、わわ、割れた?」
A 「うん。コレ二代目なんだ」
B 「そうなのか……」
A 「俺、たまたま気付いたんだけどさ、皿が無かったら人間と変わらないんじゃないかな?」
B 「ええ……」
自分の皿を触って心配する
A 「だからお前も取れよ」
Bの皿を取ろうとする
B 「イヤだよ!やめろよ!情報少な過ぎるもん。あとお前自分の立場分かってないだろ?」
A 「ゴメン……」
B 「まあ、理由は分かった。お前が人間から色々教わったってこともな。……それで?何か分かったのか?」
A 「追い出さないのか?お前も同罪になるんだぞ」
B 「ここまで聞いたら、もう後には引けないだろ。まあ実際、皿のない今のお前は人間とそっくりだからさ」
A 「……。ありがとう」
B 「言えよ」と目配せ
A 「……。土蜘蛛って知ってるか?」
B 「土蜘蛛?聞いたことないな。未確認か?」
A 「未確認ではないよ。どちらかと言うと、俺たちと同じ、妖怪だ」
B 「妖怪」
A 「うん。土蜘蛛は今となっては名前の通り蜘蛛の妖怪として語られているんだけど、ちゃんとしたモデルがあるんだ。モデルは古代の王権に従わなかった有力者の一族、つまり人間だ。だから土蜘蛛の伝承は全国各地に存在している」
B 「まさか……」
A 「河童もそれと同じなんじゃないかな?」
B 「……」
A 「調べてみたら河童っていうのも全国各地に言い伝えが残ってるらしい。特徴はほとんど一緒。頭には皿。嘴があって、背中に甲羅がある。まあ、俺達には嘴も甲羅も無いけどな」
B 「でも俺たちには皿があるじゃないか」
A 「皿しか無いんだよ。元人間だって言ったろ」
B 「じゃあ俺たちは妖怪になったってことか」
A 「なったんじゃない。させられたんだよ」
B 「その古代のやつに?」
A 「そう。ここからは予想でしかないんだけど、多分俺たちの先祖は王権に反抗した結果、差別されるようになったんじゃないかなあ」
B 「ええ……」
考える
「……。お前、人間に色々教わったって言ってたな」
A 「うん」
B 「……。どうだった?」
A 「……。良い奴らだよ」
B 「そうか。知らず知らずのうちに環境に縛られていたんだな。ずっと人間が怖かったけど、それは作り物だったというわけか。しかも自分が人間だったなんて」
A 「信じられないよな」
B 「言われてみればおかしいと思ったんだよ。未確認仲間の中で喋れるのが河童だけなんだからさ。ゴリラ、パンダ、イッカク、コモドドラゴン、シーラカンス、マーライオン、吉田君も皆喋れない」
A 「そうだな。……。俺さ、人間になりたいんだ」
B 「薄々気付いてたよ。お前、本の話してる時、凄く楽しそうだったから」
A 「うん!今まで知らなかったことを知るって物凄く楽しいんだ!」
B 「そうか。良かった」
A 「もし、良かったらさ、一緒に人間になってくれないか?」
B 「いや」
A 「えっ……」
B 頭の皿を取りながら
「なるんじゃない。戻るんだ」
A 笑顔で
「うん!」
暗転
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?