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【戯曲】不器用な人たち/水彩奴

A~Fが立っている。
『不自由な人たち』と同じ並び

A 「あれ、ここどこ?」

B Aを見る

C 「ん?どうかした?」

B 「いやあ、あの人」

D 「なんか、キョロキョロしてんな」

E 「今まで見たことない人だなあ」

F 「待ち人かな」

A 他の人に気付く
「あの~、すいません」

C 「はい?」

A 「あの、ここどこか分かりますか?」

D 「アンタ、ここに来るのやっぱり初めてか」

A 「え、はい」

E 「いや、初めて見る顔だったから、こっちから声を掛けようと思っていたところなんだよ」

A 「あ、それはどうも。で、ここは?」

F 「そういえば、そうだったね。ここは待ち時間が苦手な人のための逃避空間とでも言おうか」

A 「「とでも」と言うのは?」

B 「ああ、特に決まった名前は無いの。この場所は、何かしらを待ってる人が集まってくる。だから私たちも、アナタも、何かを待ってる」

A 「待つ」

C 「アナタは何を待ってるの?」

A 「何だったかな……?」

D 「思い出せないのか?」

A 「はい……。皆さんは、一体何を待ってるんですか?」

A以外で目配せ

B 「私はバイトの面接を待ってたんです。待ち合い室が一緒で、もう一人面接に来た人と少し仲良くなったんですけど」

D 「良いことじゃないか」

B 「それはそうなんですけど、ちょっとバイト先が危ない感じで」
中央へ移動して椅子に座る
「もう一人の方が先に面接に呼ばれたんですけど、その人の声が結構大きくて、聞こえてきたんですね」

Bが喋っている間にC幕へはける

C (影アナ)
「いや、無いです。はい、ゼロです。……。はい、バージンです。ありがとうございます。だから優しくしてください。痛いのとか嫌なん」

B 「ていうのが聞こえてきたんですよ!」

B 以外沈黙

B 「まだ終わりじゃないです」
「焦った私は急いで店の名前を確認しに行きました。「ナイト書店」。確かに本屋でした」

F 「一回ストップ。そのナイトっていうのは」

B 「チェス駒の名前です。店にもチェス盤とか置いてあったので」

F 「ああ、そっちね」

D 「どうしたんだ?」

F 「いや、てっきり夜のナイトかと」

F  以外沈黙

F 「続けてください」

B 「はい、続けます。それで、聞き間違えたかもしれない思って、盗み聞きしたんですよ。壁に耳当てて」

A 「随分とはっきり言うんですね」

E 「まあ壁に耳あり障子にメアリ―って言うからね」

B 「そしたら部屋から「産気づき」って聞こえてきたから、面接が始まる前に一回落ち着こうと思って、ココ」

C 「……でもそれは、好きな本の話してただけじゃないの?」

C・E以外
「ええ?」

C 「だって本屋でしょ?「好きな本は何ですか?」「私は「産気づき」って本が好きです」。ありえる話でしょ?」

C・E以外
「いやいやいやいや」

E 「僕、その本読んだことありますよ」

A 「どんな話なんですか?」

E 「あ、いや、それは、ちょっとここでは言えないかな」

C・E「ねえ」

B 「どうしよう、私、虎にされちゃうのかな?」

D 「ならないから大丈夫だ。次、俺な」
中央へ移動
「俺はさっきまで、海で釣りをしていたんだ」
椅子に座って
「あーあ、釣れねえかなあ。靴下」

C 「靴下なの?」

D Cに
「うん。片っぽ無くしちゃって」
「そしたらさ、少し向こうの方で人がザバァー!って浮かんできたんだよ」

A 「まさか、水死体!?」

D 「いや、生きてたよ。さらに、立って、こう、ザバァー!浮かんできたんだよ」

B Dの話に参加
「キラーン!私は泉の精です。アナタが落としたのはこの、金の靴下ですか?それともこの銀の靴下ですか?」

E 「海から泉の精だって。ややこしいなあ」

D 「いいえ。僕が落としたのは普通の靴下です」

B 「アナタは正直者です。褒美にこの金と銀の靴下をあげましょう」

D 「え、あ、ありがとうございます」

B 「それでは私は海に戻ります」

D 「海に」

B 「何か?」

D 「あ、いや、何でもないです。ご苦労様でした」

B 泉の精帰っていく

D 「……。いくら金と銀でも、片方ずつじゃあなあ」
丸めて入れる
釣り竿がしなる
「あ、かかった!よーし、待ってろよー!靴下!」
釣り上げる
「でっけえシャケ!」

C 「シャケ釣ったの?」

E 「すごいなあ」

D 「でも目的はそれじゃないから」
「それから何回かチャレンジしたんだけど、一向にかからくて。それで今はココ」

A 「靴下を待ってるってことですか?」

B 「靴下は多分かからないんじゃない?」

D 「やっぱりそう思う?」

B 「うん」

D 「どこ行ったのかなあ」

C 「私は宅配便を待ってたの」

A 「宅配便」

C 「そう。アレってさ、この日の午前とか午後とかいう指定は出来るけど、その区分でいつ来るかは分かんないじゃん」

C以外 「うん」

C 「だから、頼んだやつが来るまで、ちょっと出掛けたりとかも出来ないんだよね」

D 「ソレ、もの凄く分かるわ。ちょっとコンビニ行って、帰ってきたら、不在票入ってんの」

C 「そう。だから見動きが取れなくてさあ」
中央へ移動して座る
「まだかな~。AIロボット。早く来ないかあ。ピッ」

テレビが点く
料理番組が始まる
EとFがCの話に参加

E 「今日は何を作るんですか?」

F 「今日は彼女を造ります」

E 「へえ~、彼女ですか。それは楽しみです」

F 「まず仲の良いガールフレンドを用意してください」

E 「うーん、いないですね」

C 「……良いなあ、エレクターズⅡ。私も大きくなったら、ロボットになりたいなあ。ピッ」

E 「こんにちは。プレゼンターのフェルディナンド・ヨーゼフです。今回はこちらのAIロボット、エレクターズⅡを紹介するよ。コイツには最先端のAIが搭載されていて、質問をすれば何でも答えてくれる。……」

C 「テレビもこの時間帯は面白いのあんまりやってないし。それで、ココ」

F 「料理番組、通販番組。確かに面白いか面白くないか言えば、面白くないし、面白くないか凄く面白くないかで言えば……」

E 「それ以上は止めておこうか」

F 「私は川で洗濯をしてたんだ」

A 「なんでまた?」

F 「指定された時間にその川で洗濯して待っとけって言われたんだ」

A 「なんか怖いですね……」

F 「このシチュエーションに危険をかんじながら、まあ、言われた通りにしてたんだよ。でも時間になっても全然流れてこない」
扇子を望遠鏡に見たてる
「そしたらさ」

B Fの話に参加
「キラーン!私は泉の精です。アナタが落としたのはこの、金の桃ですか?それともこの銀の桃ですか?」

D 「あ、さっきの人だ」

E 「川から泉の精だって。ややこしいなあ」

F 「いいえ。私はまだ何にも落としてません」

B 「アナタは正直者です。褒美にこの金と銀の桃をあげましょう」

F 「え、いらないです」

B 「え?金と銀なのに?」

D 「だって一人でも鬼退治行くって言って大変だったのに、もう一人いたら悪魔退治にも手出しそうだし」

B 「ええ?だって金と銀だよ?」

F 「いらねえって言ってんだろ!」
扇子を振り回す
「ああー!」

B 「分かった。分かったから。じゃあお詫びにこの、金の扇子と銀の扇子をあげましょう」

F 「あげましょう?」

B 「お、送らせていただきます」

F 「よろしい」
扇子を受け取る
「良いセンスしてんな。おあとがよろしいようで」

E 「いつから落語だったんだよ」

F 「次は?」

Eに視線が集まる

E 「エエ?僕?」

B 「まだ、喋ってないですよね?」

E 「うん、そうだけど皆と同じような、面白いことは何も無いよ」

F 「誰もそんなこと気にしないからさ」

E 「そうですか?なら……」
中央へ移動
「僕は遅れた電車を待っていたんだ。原因は誰かが線路の中に人が入ったからだ、ってアナウンスの人が言ってた。別に急ぎの用事ではなかったんだけど、勘弁してほしいよ」

D (影アナ)
「ただいま、線路内立ち入りの為、電車に遅れが発生しております。ご利用のお客様には大変ご迷惑をお掛けしております。もうしばらく……」
声がフェードアウト

E 「どんな状況でそうなったのかは、詳しい状況はよく分からない。まあ、詳しく伝えても鉄道会社にメリットはないからね」

C 「どういうこと?」

E 「線路に立ち入る原因はいくつか考えられるけど、あまり良いことではないからね。例えば、痴漢が逃走経路に使ったとか、誤ってホームに落ちたとか。マア、大体はギリギリで助かるらしいけど」

F 「いろいろあるのね」
E 「まあね。あ、そろそろ、みんな待ち時間が終わることでは?どうだろう?今日は、もうお開きにして、元の世界へ帰るというのは?」

D  「あ、もうそんな時間か」

F 「そうね。帰りましょ」

B 「いつでもココに来て良いからね。同じ待ち人同士仲良くしましょう」

C 「またね」

A 「アッ、ありがとうございます……」

D 「おーい、行くぞ」
引き割からはける

B・C・Fはける

舞台上にはAとEの二人のみ

A 「アノッ」

E 「ん?」

A 「さっきは、言ってた話、多分、わたしだと思うんです。すいませんでした。迷惑掛けて……」

E 「……? ……。アア、その、ことね。全く気にしてないよ。それにホントにキミが僕と同じ路線かは分からないしね」

A 「そうなんですけど」

E 「僕は、勇気ある行動だと思うなあ」

A 「褒められてる気はしないです」

E 「そっか、そっか。……突然で悪いんだけどさ」

A 「どうしたんですか?」

E 「キミさえ良ければ、取材を受けてくれないか?」

音響

A 「取材ですか?」

E 「うん。僕、作家なんだ。ちょうど今、テーマを探していてね」

A 「はあ、まあ、いいですけど」

E 「ヨシ!決まりだ。じゃあ、早速なんだけど……」

音響 ボリュームアップ
照明 ゆっくり暗転

二人 話し始める

暗転完了

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