オカルトのすゝめ/盲目
松下……女 部長
新島……男 副部長
小倉……女 占いの人
小林……男 UFOマニア
夏目……女 UMAマニア
吉本……男 新入部員
舞台セット
上手……机と椅子
中央……椅子
下手……机
場面Ⅰ 部室
小倉 上手でカードを使って占いをしている
小林 中央で読書
夏目 机にある新聞を取る「シュッ!パシッ!」
新聞を読む「え〜と、なになに……。『公園からマーライオンが脱走』マーライオン公園からマーライオンが逃げ出していたことが分かった。マーライオンは国指定の絶滅危惧種に登録されており……へえ、大変ね。ん?」
小林に
「ねえ、このニュース」
小林に新聞を見せる
小林 「ん?なにこれ?」
夏目 「今日の朝刊」
小林 新聞を受け取って「クジラ?」
夏目 「また打ち上げられたんだって」
小林 「ん?クジラっていつからロケットになったんだ?」
夏目 「波打ち際にだよ。写真もあるじゃん。ったく、これだからユーフォ―ヲタクは……」
小林 「あ、ホントだ。ってこれ、打ち上げられたって言うより上陸じゃないか?」
夏目 「まあ、そう言われたら、そうとも見えるけど」
小林 「ふ~ん。『潜水艦から発せられる電波が原因と推測されているが、詳しいことは分かっていない』」
夏目 「次の特集、やっぱりコレにしようよ」
小林 「ダメだよ。もう決まっただろ」
夏目 「こっちの方が良いって~」
小林 「おもしろいとは思うけど……。難しすぎない?」
夏目「あのねえ、こーいう謎を解き明かしてこそのオカルト研究会でしょ。良い?この事件は大きく二つの謎をはらんでいるの。一つ、何故クジラが大量に死んでしまったのか。二つ、どのようにして死体が内陸部まで運ばれたのか。こんなに大きな謎が二つもあるのよ、怖いでしょ。人間はね、自分の知らないこと、理解の及ばないものに恐怖を覚えるの。普通はそれに蓋をして見なかったことにするけど、オカ研たるものそれではいけないの。分からないものには、堂々と分からないと言って、立ち向かわなくちゃいけない。そうやって、先輩たちはこの部活を守ってきたのよ。言ってしまえば、オカ研の歴史は未知との遭遇の歴史そのものなのよ!」
小林 「……うるさい」
夏目 「でも、言いたいことは分かるでしょ?」
小林 「それは分かる。でも次の特集は新生オカ研メンバーで組むんだから、分かりやすいのにしないと」
夏目 「じゃあその新生メンバーを勧誘してくれよー」
小林 「……」席を立ち
「さあて、図書室で調べものでもしてくるかな」
夏目 「何の?」
小林 「クジラ」
夏目 「行ってらっしゃい」
小倉 夏目に被って「あああ!」
夏目 びっくりする
小林 夏目の驚き方にびっくりする
小倉 「来る!」
夏目 「何がですか?」
小倉 「ダメよ、新入生。此処へ来てはいけない。此処は混沌とカオスの世界……」
小林 夏目に「混沌とカオスは何が違うの?」
夏目 「さあ」
小倉 「この世界では自らを保つのも至難の業。しかしこれも抗えぬ運命の糸。勇気ある者よ、地獄の門を叩き、姿を……」
夏目が言い終わらないうちに、吉本が来る
吉本 舞台下手から登場「すいませーん……」
小林・夏目 「ホントに来た!」
小倉 「もー!最後まで言わせてよ!」
吉本 「ええ!?」
小林 吉本に「あっ、すいません、ウチの先輩が驚かせてしまったみたいで……」
小倉に「シーッ」
小倉 ジェスチャーで「シーッ」カードを片付ける
夏目 「部活見学の方?」
吉本 「は、はい!ここはオカルト研究部で」
夏目 「合ってるよ。あ、ここ座って」
中央の椅子を示す
吉本 「ありがとうございます」
椅子に座る
夏目 小林に「机、机」
小林 「はーい」
下手の机を吉本の前に置く
小林・夏目・吉本「……」
夏目 「なんか尋問してるみたいね」
小倉に「もう一つ、机お願いします」
言いながら小倉の方を振り向く
小倉 夏目の後ろに机を持って既に待機している
夏目が言い終わらないうちに「はい」
夏目 「うわっ!」「あ、ありがとうございます」
吉本の机と繋げて置く
小倉 そそくさと椅子を持ってきて吉本と向かい合わせに座る
夏目 ジェスチャーで小林に「私の席なんだけど」
小林 ジェスチャーで「さあ」
小倉 吉本に「まずは名前を聞かないとね」
吉本 「はい。一年の吉本直樹といいます」
小倉 「直樹君、ね。あだ名は……「ヨッシー」」
吉本 「ああ、はい」
小倉 「私は三年の小倉真理。そっちは左が小林龍平で右が夏目涼子。二人とも二年生」
吉本 先輩たちに「よろしくお願いします」
小倉 「はい、よろしくお願いします」
小林 「え、よろしくってことは?」
夏目 「入っていただけるんですか?」
吉本 「はい、そのつもりで来たんですけど?」
小倉 小林・夏目に「言ったとおりでしょ?」
夏目 「やっぱ、凄いですね、先輩」
小倉 「でっしょ~?」
小倉・小林盛り上がっている
吉本 「あの~」
小林 「はい?」
吉本 「部長さんに挨拶をしたいんですけど」
小林 「ああ~、部長ねえ。部長は今、取材に行ってるんだ」
吉本 「取材?」
小林 「うん。ウチはね、オカ研って言っても部誌を発行するタイプの部活でね。そこで毎回特集を組むんだよ。それの、取材」
吉本 「楽しそうですね」
小林 「楽しいよ~。なんだかんだ言っても、そういうコンテンツが好きな人は結構多いからね、頑張った分だけ反応が返ってくるんだよ。打てば響くってやつだね」
吉本 「いいですね。そういうの」
小倉 夏目に「よーし、そんな君にはジュースを奢ってあげよう!」
夏目 「やった!」
小倉・夏目大盛り上がりで下手へはけていく
小林 「あれで、学年トップの成績なんだから、人って見かけで判断出来ないよなあ」
吉本 「そうなんですか!?」
小林 「うん。そうなんだよ。変な人でしょ」
吉本「ああ、いや、そんな……」
小林 「ああ、ゴメンゴメン。そんなつもりで言ったわけじゃないから」
新島 下手から登場「おい、今、凄いテンションの小倉と夏目見たんだけど」
小林 「あ、先輩」
吉本 振り向いて新島を見る
新島 吉本に気付いて「ん?この子は?」
小林 「吉本直樹くんです。新入部員の」
新島 「あっ、新入部員の方ですか。我がオカルト研究部に入部していただいて、ありがとうございます。僕はこの部活の副部長をしている、新島春人といいます。え~~~~~~~~~~~~~~~~」
小林 「吉本直樹さん」
新島 「そう、吉本直樹さん!これからよろしくお願いします」
吉本 「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
新島 「龍平君、松本は?」
小林 「ああ、部長は今、取材で」
新島 「また?」
小林 「はい」
新島 「もう五日連続だぞ」
小林 「まあ、そうですね。それくらいにはなりますねえ」
小倉・夏目下手から帰ってくる
小倉 「タランチュラ~」
新島・小林 「オカメインコ~」
小林 「あれ?ジュース買ってきたんじゃないんですか?」
小倉 「財布忘れちゃった」
夏目 「そういうことです」
新島 小林に「多分、あそこだよな。行ってる場所」
小林 「はい、そうだと思いますけど」
小倉 「どうしたの、ハル?」
新島 「松田はどこへ行ったんだって話」
小倉 「同じ場所行くって言ってたよ」
新島 「やっぱりそうか。丁度良いな」
夏目 「何がですか?」
新島 「いや、松下のところ」
夏目 「え、あそこに連れてくんですか?」
小林 「今日入部したばかりなのに?」
夏目 「辞めちゃいますよ。せっかく入ってくれたのに」
新島 吉本に「えっ、そうなの?」
吉本 「え、いえ、そんなつもりは無いです。」
新島 「ホントに?」
吉本 「……今のところ」
新島 「今のところ」
夏目に「じゃあ、大丈夫だよ」
夏目 小倉に「先輩からも何か言ってくださいよ」
小倉 「良いんじゃない?別に。ヨッシー辞めないと思うよ。カードがそう言ってた」
夏目 新島に「なら大丈夫です」
小林 新島に「とにかく、危なくないようにだけはお願いしますよ」
吉本 「危ないんですか?」
新島 「気持ちしだい?」
吉本 「ええ〜」
新島 「大丈夫だよ。イニシエーション的なやつだから」
吉本 「イニシエーション?」
小倉 「古より伝わりし黒魔術、空間転移をこれより行います」
場転 小倉の超能力で椅子などが動き出す
場面Ⅱ とある大通り
照明 下手のみ
薄暗い
吉本 「あの先輩」
新島 「ん?」
吉本 「今のって」
新島 「ああ、彼女、こういうの使える人なんだよ」
吉本 「めっちゃ普通ですね」
新島 「もう慣れたからね」
吉本 「なんか、名前とかないんですか。ダークナントカ〜みたいな」
新島 「ないない。古のからのやつだから」
吉本 「ちょっと残念です。……なんか、寒くないですか?」
新島 「ねえ、もう四月なんだけどねえ」
吉本 「そういう寒さなんですかね?物凄く雰囲気ありますけど?」
新島 「やっぱり分かる?」
吉本 「こんな所で部長は何を取材なさってるんですか?」
新島 「本人に聞けば分かるよ」
照明 上手も点く
薄暗いまま
花束が置いてある
松下 何かを書いている
新島 「あ、部長」
松下 「ん?ああハルか。そっちは……」
新島 「新入部員の吉本直樹君。部長にどうしても会いたいって言うから連れてきました」
吉本 「あ、一年の吉本直樹です」
松下 「部長の松下亜紀です。よろしく」
吉本 「よろしくお願いします」
松下 新島に
「で?何しに来たの?私に会いたいっていうの、嘘でしょ?」
吉本 「あ、そんなことは……」
新島 「あれ、バレたか~。さすがだね~、オカ研の部長は。実は、今日もここに行ってるって聞いたからさ、入部初日の彼には悪いけど、丁度良いかなって」
松下 「そういうことか。オッケー、分かった」
吉本に指さして
「あのビルの屋上、何か見える?」
吉本 その方向を見ながら
「ん~。もや?いや……人ですね」
松下 「それそれ。ハルは?」
新島 「ん~残念。見えないねえ」
吉本 「どういうことですか?」
松下 「あれは、この場所で亡くなられた人よ」
吉本 「ええ!?あの人が?」
新島 「そうらしいんだよ。僕には残念ながら見えないんだけど、確か~飛び降り?だったっけ?」
松下 「そう。ホラ……」
指さして
吉本 幽霊が飛び降りたところを見る
「……。うわっ……」
新島 松下に「あ、また?」
松下 「うん。今、飛び降りた」
新島 「ええ~。僕も見たいんだけどなあ」
松下 「何で見えないんだろうね」
吉本 松下に
「あの……」
松下 「ん?」
吉本 「今の彼?は……」
松下 「何年も前にここで飛び降りた人。亡くなってからもずっと同じ事を繰り返してる」
吉本 「エエ、怖すぎやしませんか……」
松下 「まあ、見える人と見えない人がいるからね。ヨッシーはね、見えないものが見える人だったってことと」
吉本 「霊感とか全く無いのに……」
新島 「あんまり霊感とか関係無いかもしれないけどね」
吉本 「そうなんですか?」
松下 「ハルは霊感あるもんね」
新島 「でも見えないんだよ~。まあ世の中には科学じゃ説明出来ないこともあるしね。きっと霊感とは違う何かがあるんだよ」
吉本 「なんなんでしょうね?」
松下 「科学で説明出来ないこともあるんだよ」
吉本 「実際、分からないことだらけですもんね」
松下 「ヨッシーさ、オカ研にとって一番大事なことって何か分かる?」
吉本 「え、なんでしょう?……好奇心、ですか?」
松下 「好奇心と言えば好奇心だけどちょっと違う。オカ研にとって大事なことは、知らないこと、分からないことをそのままにしないことよ」
吉本 「見て見ぬふりをするな、ってことですか」
松下 「そう、物分りが良いね。期待のルーキじゃん」
吉本 「いやいや、そんな……」
松下 時計を確認
「ああ!もう、こんな時間じゃない!一年生返さないと!」
新島 吉本に
「ゴメンね。遅くなっちゃって」
吉本 「いえいえ、大丈夫です」
松下 「明日は部室に来てね」
吉本 「分かりました。先輩方は?」
松下 「私たちはまだ、もうちょっとここにいるわ」
吉本 「あ、じゃあ、失礼します」
新島 「気を付けてね~」
吉本 「ありがとうございます。では、これで」
礼をしてはける
新島 吉本を見送ってから
「そう言えば、取材進みました?」
松下 「ああ、そうだった、そうだった。進んだよ。彼は佐鹿島の出身だったようね」
新島 「佐鹿島って、吸血鬼伝説の」
松下 「あれ、知ってたの?」
新島 「名前だけなら。まあ僕は、そんな昔の難しい話はさっぱり分からないんだけどね。……もしかして飛び降りと関係あったりする?」
松下 「それはまだ分からない。でも、恐怖を恐怖で終わらせない為にも調べる必要があるわ」
新島 「見て見ぬふりをしない、か。あ、今日は満月なんだね」
松下 「え?ホントだ。綺麗ね」
新島 「えっ?そ、そうですね」
松下 「あ、今のは違うから。勘違いしないで」
新島 「あっ、はい」
二人 黙る
松下 「今から、変なことを聞きます」
新島 「あっ、どうぞ」
音響 C・I
松下 「もしもこの世界に、自分一人しか存在しなかったら、どうする?」
新島 「なんか思ってたのと違う……。え、まあ、そりゃ、分かんないけど、寂しいかなあ」
松下 「……私はね、月を見るかな」
新島 「それは、独り占めできるから」
松下 「うーん、ちょっと違うかなあ。だって、私の他に一体誰が見るというの?私しかいないのに、他の誰に見てもらいたい?その時の月はきっと、もっと綺麗に見えると思うんだよなあ」
新島 「そうかもね」
松下 「……。はい!明日も学校なんだから、とっとと帰りましょう!解散!」
はけながら
「う〜、寒い寒い。やっぱり夜は冷えますなあ〜」
はけきる
新島 追い掛ける
「あっ、部長!」
立ち止まり
振り向いてビルの屋上を見る
音響
新島 はける
暗転
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