【戯曲】不自由なひとたち/水彩奴
A……女
B……女
C……女
D……男
E……男
F……女
駅のプラットホーム
電車を待つ男女六人
少しずつソワソワしだして
それが伝染していく
次第に動くタイミングも同じになる
気付き、最初は気まずい空気になる
が、結局同じ動きをしてしまう
A「遅いですね……」
B「あっ、そうですね……」
しばらくの沈黙
Fはヘッドホンをつけている
B「いつもこの時間なんですか?」
A「あっ、いや、今日は寝坊で。いつもはも一本早いやつなんですけど」
B「あっ、そうなんですか……」
しばらくの沈黙
A「最近多いですよね」
B「そういう時期なんですよ、多分」
A 『』の部分同時に
『そうなんですか?』
C『そうなんだ……』
A・B 沈黙
「……。え?」
C「ああ!ごめんなさい!私も同じこと考えてたから、つい……」
A「いえいえいえ。とんでもないです。霧、多いですもんねえ」
C Bに
「やっぱりそういう時期なんですかね?」
B「いや、分かんないですけど、経験的にそういう時期かなって」
A「何でこの時期なんだろ?」
D 三人に
「あの、ちょっといいですか?」
C「はい?何ですか」
D「あ、いや、その、今話されてるのって霧が起こる理由ですよね?」
C A・Bに目配せ
A・B 頷く
C Dに
「そうですけど……?」
D「この辺りは山に囲まれていて、風が弱いので夜は強い放射冷却によって急激に気温が下がります。このときに地面付近の空気が湿っていると、空気中の水分が飽和して、霧が発生します。発生した霧はこの辺りでは風が弱いので流されることがあまりなく、そこにとどまりやすいので、太陽が昇っても残ることが多いんです」
A・B・C・E
「お、おお~」
沈黙
「……え?」
E「ん?ああ、失礼。かなり分かりやすく説明されていたので、つい聞き入ってしまった。僕に構わず、続けてください」
しばらくの沈黙
A「と、言われましても」
C「ありますか?」
D「え?あ、いや、終わりです」
B「だ、そうです」
E「ああ、そう。じゃあ僕は新聞でも読もうかな」
A・B・C・D
「何て自由な人なんだ」
しばらくの沈黙
C「ちょいちょいちょい」
A・B・D
Cのもとに集まる
C「今の人は?」
A「分かりません」
D「なんかものすごく自由な人ですよね」
B「今の状況を楽しんでる感じがします」
A・B・C・D
Eを見る
E 新聞を見て
「へえー。すごいなあ」
C「うん。確かにそんな感じがする」
D Bに
「さっき何て言ってましたっけ?」
B「今の状況を楽しんでる?」
D「そう、それです。それって何かおかしくないですか?」
C「私も同じこと思ってた」
A「どういうことですか?」
C「だって、今、私たちは待たされてるんだよ?この状況は本来起こりえないものだった。私たちは……。少なくとも私はこの状況を楽しいとは思えない」
B「それは私も同じ意見ですね。やっぱり、こういう状況は正直苦手です」
A「じゃあ、聞いてみれば良いんじゃないですか?」
B・C・D「えっ?」
A「えっ?」
C「……。じゃあ、頼んだ」
A「えっ?」
B「お願いします」
A「えっ?ちょ、ちょっと待ってください。やっぱりこういうのは男の方に言ってもらった方が」
D「何でですか!言い出した人が言ってくださいよ。言い出した人が行って、言ってきてくださいよ」
C「じゃあジャンケンで決めて」
A・D「ええ!」
C「ほら、早く」
A Bに
「ちょっと、何笑ってんですか」
B 堪えきれずに済まなさそう
D ジャンケンの前の気合を入れるポーズ
「チョキを出します」
A 「何で心理戦にするんですか」
A・D 「ジャンケンホイ」
A勝つ D負ける
D 「あ」
C 「頼んだ」
B 「お願いします」
D 「分かりましたよ」
Eに話しかける
「あの……」
E「はい。何ですか?」
D「あの、初対面の人に聞くことじゃないんですけど」
E「はい。何でしょう?」
D「その、イライラしたりしないんですか?」
E「今?」
A・B・C 驚く
A・C Dを連れ戻す
D「えっ?何で?」
C「直球過ぎるでしょ」
A「私が悪かったです」
D「えっ?何で?」
Bに
「ていうか笑いすぎですよ」
B 済まなさそう
E「あの、構いませんか?」
D「え、ああ、はい」
E「イライラは全くしないですね。むしろ、今の状況が楽しいくらいです。皆さんは楽しくない?」
A・B・C・D「はい」
A「楽しくは、ないですね」
B「むしろ苦手です」
C「……。だって待たされてるんですよ?」
E Dに
「君も?」
D「……。はい」
E「なるほど。……。待たされるって思うからいけないんじゃないの?」
C「えっ?」
E「だって待ってることには変わりないでしょ。皆さん、見たところ、学生や勤め人のようだ。普段から忙しくしてるんだろう。この時間を、休憩時間と思えば楽にならない?」
D「……。確かに」
C「うん。それは良い考えかも」
E「今は自由だ。何をしても良い。あ、そりゃあストレスで人を刺したり、素っ裸で歌ったりするのはダメだけど。本を読んだり、音楽を聴いたり、友達と喋ったり」
A「えっ?」
E「あれ?違いました?」
A・B・C・D
顔を見合わせる
B「友達です。今なりました」
E「ああ、そう。じゃあ僕は新聞の続きでも読もうかな」
A・B・C・D
「なんて自由な人なんだ」
E「自由な人なら他にもいるよ。ほら」
Fを示す
A・B・C・D
「えっ?」
Fを見る
F エアーでドラムを叩いている
皆の視線に気付きゆっくりやめる
暗転
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