【SF】因果平衡 第2幕第1話
あらすじ
この国にはひとつの穢れが巣食っている。ミヌ―アの領主レヒトは父親殺害の犯人を捜すため、過去へ遣いを飛ばす。遣いが重要参考人として連れて帰ってきたのは、レヒトの弟と名乗る人物だった。男は事件の犯人をレヒトだと告発し……。
登場人物
レヒト・フェアティゲン ミヌーアの王
凪 神官団長
沙舎・シュミット 未来からの帰還兵
レヒト・ドラヒェスブルク 過去のレヒト(以下レヒト・Dと表記)
リンク・ドラヒェスブルク レヒトの弟
シンクロー・ドラヒェスブルク レヒトの父親
ミヨシノ レヒトの母親
オフィークス・フェアティゲン 前ミヌーア王
汽水 前神官団長
神官/市民 ミヌーアの善良なる市民
マガジン紹介
前回のお話
Ⅱ接触篇
二十年前の仮想大伽藍
過去から来たレヒトが神官団長長汽水と話している
汽水「あなたが、レヒト様ですか?」
レヒト「いかにも。わたしがレヒト・フェアティゲンである」
汽水「私は、この世界線の神官団長、汽水と申します。話は凪から聞いております。なんでも王自ら事件の調査をされるようで。いやあ、実に素晴らしいことでございます」
レヒト「ならば、話が早い。早速案内してくれるか」
汽水「もちろんです。アッ、その前にひとつ。調査をするにあたって、「レヒト・フェアティゲン」のままでは、なにかと不自由が生じることと存じます。なのでお名前を変えなくてなりません」
レヒト「どんな不自由があると言うのだ?」
汽水「あなたは未来からやってきた人間です。つまりこの世界線にもあなたは存在します。レヒトが二人いたら?バレてしまうかもしれませんよ?」
レヒト「確かにそうだな。じゃあ、汽水。お主が名前を付けてくれ」
汽水「そうですね……。では「ライト」なんてどうでしょう?」
レヒト「どういう意味なのだ?」
汽水「異国の言葉ということを除きましては、「レヒト」となんら変わりありませんよ」
レヒト「なるほど。ヨシ、気に入った。わたしは今から「ライト」だ」
オフィークス邸
先王オフィークスと二十年前のレヒト
レヒトはオフィークスに跪いている
オフィークス「よくぞ、参ったな。レヒトよ。息災であったか?」
レヒト・D「おかげ様で我が一族みな病気や怪我もなく元気に過ごしております。これも全てオフィークス様のおかげでございます」
オフィークス「そうか、そうか。それは良かった。今日はの、お主に頼み事があって呼び出したのじゃ」
レヒト・D「頼み事、でございますか?」
オフィークス「左様。お主の父親、シンクロ―のことなんじゃがな」
レヒト・D「父上がどうかなされましたか?」
オフィークス「いや、それがの、あまり大きい声では言えんのだが。お主の父、ワシに当たりが強くないかの?お主が元服して以来、どうも怖くてかなわん。お主から父に改めるようそれとなく言うてはくれんか?」
レヒト・D「恐れながら。わたくしから言わなくとも、オフィークス様から直接仰られた方がよろしいのでは?」
オフィークス「いや、ワシが言うと角が立つじゃろ。ワシとてそなたの父と仲違いなどしたくはない。それにこういうことは観内から言ってもらった方が良いと思っての」
レヒト・D「確かにその通りだとは思いますが……」
オフィークス「ワシももう歳だ。昔ほどの力はない。跡継ぎのいないこのミヌーアを守るためには、家臣の力が必要なのだ。できるだけ不要な争いは避けたいと思うておる。ワシはな、そなたを信頼しておるのだ。ワシには子どもがおらんが、そなたのことは我が子のように思うておる」
レヒト・D「もったいなき御言葉でございます」
オフィークス「無論、シンクローも信頼しておる。しておるからこそ、いざこざは避けなければならん。争いの種は摘んでおくべきなのだ。ワシもワシじゃが、シンクローもシンクローじゃな。自分で決めたことは何が何でも通すぞという気骨は昔とまったく変わっておらん。ミヨシノのときもそうであった」
レヒト・D「母上がですか?」
オフィークス「お主の母はな、昔はワシの妾であった。そこにシンクローがミヨシノのことを気に入ってしまってのう。隣国との戦に勝利した折、ワシが「褒美は何が良いか?」と聞くと、シンクローは「ミヨシノ殿がほしゅうございます」と言いよったのだ。さすがのワシも「何でも」と言っていた手前、断ることも出来なかった。あれには一本取られたわ。(笑う)」
レヒト・D「我が父ながら、蛇のような方ですな」
オフィークス「飼い慣らせはできなかったけどの」
二人 笑う
オフィークス「では、頼んだぞ」
レヒト・D「承りました。では、わたくしはこれで」
オフィークス「ウム」
レヒト・D 退室しようとする
オフィークス「信頼しておるぞ」
レヒト・D 無言で会釈
退室
どこからかライト(=未来から来たレヒト)が入ってくる
レヒト「あれは昔のわたしですかな? 懐かしい。あのときわたしは真の親子の絆に気付かされたのです」
オフィークス「まさかホロロギーの伝説が真だったとはな。ワシも神託は何度も受けたことはあるが、時渡りは初めて見た」
レヒト「わたくしも同じでございます。まさか自分が体験することとなるとは……」
オフィークス「レヒトよ、もう一度、状況を説明してはもらえんか。正直なところ全てを理解しているわけではないのだ。あ、ここでは「ライト」と名乗っていたの」
レヒト「レヒトで構いませんよ、父上。しかし、ごもっともでございます。わたくしも突然濡れ衣を着せられ、口車に乗せられ、後には引けなくなってしまって」
オフィークス「なんとかわいそうな、息子であろう! お前が父であるこのワシを殺すわけなかろう!」
レヒト「父上。それが、リンクが証言することとは相違があるようで」
オフィークス「なんと。相違とな?」
レヒト「はい。リンクはドラヒェスブルクの家臣が父上を殺したと。そして何故かリンクはわたしの弟だと家臣に言いふらし、シンクローを殺したのがわたしだと言うのです。しかし神託は穢れの原因を追放せよとのお達しで……。もう何を信じればよいのか……」
オフィークス「何も迷うことはない。リンクはお前の家臣を騙して、お前を陥れようとしておるのじゃ。お前はただ神託を信じればよい」
レヒト「分かりました。もうひとつ大事な話が」
オフィークス「……。ワシも同じことを聞こうと思っていた」
レヒトが去っていき、時間が経過する
数日後同じ場所
家臣「オフィークス様、シンクロー様より贈り物が届きました」
オフィークス「なんじゃ?シンクローからか。……。後にしてくれんかの」
家臣「それが、日ごろの非礼を詫びたいと、たいそう立派な鷹を献上されましたようで」
オフィークス「鷹だと?」
家臣「ハイ。殿はたいそう鷹がお好きだとご子息のレヒト様から聞いたようで……」
レヒト「私が?」
オフィークス「レヒトがシンクローに薦めたのか」
レヒト「この時代のわたしですがね」
オフィークス「ならば、心配ないであろう」
家臣に「通せ」
家臣「ハッ」
鷹を連れてくる
鷹 持っている手紙をオフィークスに渡す
オフィークス「手紙?」
「時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。さて、この度は」
シンクロー 登場
「この度は、わたくしの度々の非礼をお詫びしようと筆を執った次第でございます。愚息から聞き及ぶまで、そのように感じられていたということに気付かなかったのは、まったく恥ずかしいばかりでございます。しかしこれもまオフィークスの治世の安定、ひいてはミヌーアを思ってのことでございます。しかしながら、オフィークス様に不愉快な思いをさせてしまったのもまた事実。つきましてはオフィークス様が非常に好きだと聞きました鷹を送らせていただきます。わたくしが丹精込めて育てた鷹でございます。是非鷹狩りのお供として使ってください」
オフィークス「シンクローもなかなかやるではないか」
鷹を見る
鷹 眼つきが変わる
レヒト「危ない!」
鷹 オフィークスを斬りつける
すぐに飛び去っていく
レヒト「父上!?」
オフィークスのもとへ駆け寄る
家臣「タイヘンだ!!!」
多くの人々が慌てふためき、それに乗じてオフィークス退場。そして場面がメタモルフォーゼしそうになる。
レヒト「待たれよ!」
家臣1「ライト様?」
レヒト「この贈り物は確かにシンクロ―からの物で間違いないな?」
家臣2「ハイ、確かに」
レヒト「分かった。……。オフィークス様はたったいま、ドラヒェスブルクの毒牙によってお隠れになってしまわれた。これは謀反である。まさしく世界樹ユグドラシルを枯らせしめんとするニーズヘッグのように!我々はこの謀反者たちを討伐せねばなるまい。奴らの血を、このミヌーアの地に浴びせれば、より一層この国は長く平安を保てるであろう!」
家臣たち どこからともなく登場
レヒトの演説を聞いている
「オオオー!!!!」拍手喝采
レヒト「しかしオフィークス様が謀反によって、しかも腹心であったドラヒェスブルクによって亡くなったことが知られてしまうと、かえって混乱を招くことになる。お世継ぎのことも決めねばなるまい。オフィークス様はひとまず、病死ということで。良いな?」
家臣たち 口々に納得の声
レヒト「計画は静かに、しかし確実に遂行されねばならない。……ドラゴン狩りじゃ」
次回のお話
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