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【戯曲】だるまさんはころばぬ/水彩奴

A 「だるまさんが転んだってあるじゃん」

B 「うん。それがどうかした?」

A 「あれっておかしいと思わない?」

B 「ん?何がおかしいんだ?」

A 「何って名前が」

B 「どういうこと?」

A 「だるまさんが転んだっていうのは、動いたらダメじゃん」

B 「捕まっちゃうからね」

A 「うん。そうなんだよ。動いたら捕まっちゃうんだよ」

B 「それのどこがおかしいんだよ」

A 「いや、動いたら捕まっちゃうんだよ。なのに何で、だるまさんが「転んだ」なの?」

B 「はあ?」

A 「俺たちの「動く」という行動は「だるまさんが転んだ」で言うところの「転ぶ」に言い換えられるんだよ。でも「だるまさんが転んだ」は動いちゃいけませんっていうルールだよな?」

B 「そうだな」

A 「そこなんだよ」

B 「え?」

A 「動いちゃダメなんだよ」

B 「どういうこと?」

A 「だから、ルールと名前が矛盾してるってこと」

B 「どこが矛盾してんだよ」

A 「だって動いちゃダメなんだよ?なんで「だるまさんが転んだ」って動く前提で話進めてるんだよ。言うなれば「だるまさんは転ばぬ」だろ」

B 「そしたら動けねえじゃん。どうやって鬼にタッチするんだよ」

A 「いや、動かなくてもタッチは出来るんだよ」

B 「ごめん、全く意味が分からない」

A 「うん。鬼が見ている間は動いちゃダメなんだ。これは良いよな?」

B 「うん」

A 「ここで動いてしまったら、ペナルティとして鬼に捕まってしまうわけだ」

B 「そうだね」

A 「じゃあどうやってその捕まった人を助ける?」

B 「鬼がこっちを見ていない間に」

A 「そう!それ!そこなんだよ。見ている人がいなければ、その動作はやったことにはならないんだ!」

B 「……。それは違うだろ〜」

A 「何でだよ」

B 「だって見てないと成立しないって、おかしいだろ。普通に考えて」

A 「じゃあ例えば、鬼がこっち側を、分かりにくいからだるまにするぞ。例えば鬼がだるまたちを見ています。その時に、バランスか何かを崩して少し動いてしまいました。この時、ペナルティは?」

B 「ある。当たり前だろ」

A 「そうだな。じゃあ鬼も他のだるまも動いたことに全員気付かなかったとしたら?」

B 「あれ?ない!」

A 「そう。気づかれなければペナルティは発生しない。つまり極端な話、ルールを全部無視してどれだけ動いても、誰にも認識されてなければそれは動いたことにはならないんだ」

B 「でも今のお前は「もし同時に全世界の人間が、月を見ていない瞬間があった時、その瞬間は月は存在してない」って言ってるんだよ?」

A 「言ってません。月は誰が見ていて、誰が見ていなかろうが潮の満ち干きという影響を地球に与えています」

B 「じゃあだるまさんが転んだでもそうじゃないか」

A 「それは違う。だるまさんが転んだでは誰も見ていない時にだけ、タッチが出来るんだよ。月と違って普遍的な影響は与えられない」

B 「見てない間は動いたことにはならないけど、見てない間でしか鬼に影響を与えられないのか」

A 「そういうこと」

B 「ってことは、見られていない状況ではやったことにはならないってこと?」

A 「そういうことだな」

B 「じゃあ、じゃあ、俺が女の人の胸をじーっと凝視してるとするじゃん?」

A 「う、うん」

B 「もし、これが相手の女性に気付かれなかっ
たら、俺は見てないことになるの?」

A 「はあ!?」

B 「だって君の話からすると「見られてなければ、やったことにはならない」んだろ?」

A 「そうだよ」

B 「じゃあ、俺が今言ったこともそうじゃない?」

A 「……。いや、それは違うでしょ」

B 「え?だって相手は俺が見てることに気付いてないんだよ?」

A 「だとしてもだよ」

B 「ええ?」

A 「だって、そこで、もう成立してるじゃん」

B 「何が?」

A 「見る見られるの関係だよ」

B 「あ、俺と胸が」

A 「そうそう」

B 「え、じゃあ、胸の話は月パターンなのか」

A 「まあ、どっちかと言えばそうだな」

B 「じゃあ胸は普遍的な存在ってことだな」

A 「胸は普遍的……なのか?」

B 「知らないよ、そんなこと」

A 「俺だって知らねえよ!」

B 「お前が言い出したんだろ。月は普遍的だって」

A 「月の話持ってきたのはアンタだろ!」

B 「あー、ごめん、ごめん。俺が悪かった」

A 「何で俺が変な奴みたいになってるんだよ。……。アンタの方が言ってることは変なんだからな」

B 「……。話を戻すぞ」

A 「戻すなよ」

B 「何でだよ。まだ結論が出てないだろ」

A 「出さなくていいよ、そんなの」

B 「何で?」

A 「何でって、女の人はそういうの気付くんだから、わざわざ議論なんかしなくていいよ」

B 「それは違う。いいか、女の人がそれに気付くのは当たり前なんだよ」

A 「どういうこと?」

B 「「胸を見てる」っていう状況は見られてる本人が認識しなければ、成立しないって言ったじゃん」

A 「だるまさんが転んだ時にな」

B 「そう。ってことは、「胸を見られてる」状況を見られてる本人が認識して、初めてカウントされるわけだ」

A 「じゃあ、見られてる本人が認識する前後で、アンタが「胸を見ていない」か「見ている」かが変わるってことだな」

B 「そういうことになるな」

A 「何でこんな話題を真面目に喋ってるんだ。それにお前、さっき言ってること真逆だからな」

B 「今に始まった事じゃないだろ」

A 「そうだけど。もうこの話やめよう。もっと他に……」

B 「何、お前脚派なの?」

A 「そういうことじゃねえんだよ」
話題を変える
「あー例えば、誰もいない森があります。そこにある一本の木が倒れました。その時ドスンと音が出るはずだよな?」

B 「うん」

A 「ここでだ。さっきも言ったように森には誰もいません。その音は聞こえると思う?」

B 「あ、聞こえないな」

A 「そう。音は出てるのに、聞こえないんだ。つまり何かが存在するであるとか、何かを成立させるためにはそれを認識しないといけないんだよ」

B 「そうだな。つまり何かを存在せしめるには俺たちの認知が必要なわけだな」

A 「うん。だからそれは今、俺が言った」

B 「……。あ!」

A 「なんだよ急に」

B 「お前の話を聞いて、ある一つの真理に辿り着いてしまった」

A 「うん」

B 「靴下っていっつも片方だけ無くなるじゃん?」

A 「まあ、いつもじゃないけどな。それがどうかした?」

B 「その理由が分かったんだよ」

A 「おお、教えろよ」

B 「物事は認識して始めて存在するんだろ?」

A 「そうだよ」

B 「それじゃ無くなるという現象については説明が出来ないんだよ」

A 「ん?ああ、確かに。無いというものが存在してから、始めて無くなったことに気づくわけだから順序が逆だな」

B 「そう。それにもし、無くなるということに気づくんだったら、靴下が両方無くなっても気付くはずだろ」

A 「確かに。両方無くなった時よりも、片方だけ無くなった時の方が気付きやすいしな」

B 「つまり、靴下を片方だけ無くしてることに気付くのは、靴下が一足無いことに気づいたんじゃなくて、一足しかない靴下に気づいたんだよ」

A 「お前スゲーな!確かにそれだったら、今までの話からもブレてないし、ちゃんと説明も出来る」

B 「一足しかない靴下を見るまでは、無くしたことに気づいてないから」

A 「そうだな。じゃあ、じゃあもし靴下が二百足とかあったら、その分気づきにくくなったりするのかな?」

B 「まあそりゃあ、そうだろ。多けりゃ多いほど気付きにくくなるんじゃないか?」

A 「じゃあ、じゃあ、片方無いって気付くまでは、靴下は認識されてないから、無くなってないってことで良いな?」

B 「だるまさんが転んだ理論からすればそういうことになるね」

A 「よし、やっと俺の言いたいことを理解してくれたみたいだ」

B 「うーん。完全に説得されてしまった」

A 「だから……万引き、行ってこい!」

B 「うん!」

暗転

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