正体見たり枯れ尾花/盲目
A……学生Ⅰ
B……学生Ⅱ
C……学生Ⅲ
照明 薄暗い
座って映画を観ている
Bは毛布にくるまっている
A 「……」
C 「……」
B 毛布にくるまって震えている
テレビを見つめる
B 「ゴメン、一回止める」
リモコンを操作する
A 「おい、止めんなよ!」
B 「だからゴメンて~。俺、怖いの苦手なんだよ~」
C 「心霊映像スペシャルって番組なんだから怖いのは当たり前だろ?ホラ、続けて」
B 「ええ~。……。分かったよ~」
リモコンを操作する
A 「ゴメン。ちょっと戻してくれねえかな?」
B 「ええ~!そりゃあ無いでしょう!」
A 「こういうのは雰囲気が大切なんだよ。分かるだろ?」
B 「じゃあ、自分で戻してくれよ」
リモコンをAに渡す
A 「うん。分かった」
リモコンを操作する
テレビを見つめる
B 被っている毛布で顔を覆ったり、テレビ画面をチラ見したりする
C 「まだ何も起こってないよ」
B 「いーや、俺には感じるんだよォ」
A 「説得力がありそうで無いんだよなあ」
三人 テレビに見入る
B びっくりする
A・C Bのびっくり仕方にびっくりする
B 「「もう一度ご覧いただこう」とかいらないって」
A・C「……」
三人 テレビに見入る
B びっくりする
A・C Bのびっくり仕方にびっくりする
A リモコンを操作する
「お前うるさいよ!」
B 「俺、何も喋ってないよ!?」
C 「多分動きの話だと思う。驚いてる時の。こんなのなってたし」
Bの真似をする
B 「なってないよ。そんな、俺がアホみたいじゃん」
C 「そうか?じゃあ俺の見間違いか」
B 「うん。そうだよ、きっと」
A 「わあ!」
Bを驚かせる
B びっくりする
A・C「やってんじゃん!」
B 「今のはズルいよ!」
A 「ゴメンゴメン。面白くって、ついな」
C 「な~」
B 「まあ、良いけど。……。ちょっと、俺、今の観たらトイレしたくなってきた。トイレ借りるぞ」
部屋を出ようとする
A 「ああ、良いけど、毛布のまま行くなよ」
B ドアの前で立ち止まる
毛布を美しく脱ぎ去ってはける
C 「せめて軽く畳めよな」
毛布を取りに行って畳む
「アイツさ、怖いのとか苦手なくせにこういうテレビ好きだよなあ」
A 「まあ怖いもの見たさって言うの?分からなくもないけど、まあ昔からあんな感じだよ」
C 「そういえばさ、お前、アイツと高校の頃から仲良かったんだろ?どんな奴だったんだ、高校時代のアイツは?」
A 「う~ん、そうだなあ。部活はオカルト研究会ってところに入ってて……。あ、そうそう。俺、何回かアイツの家に遊びに行ったことあるんだけどさあ、もう部屋が凄いの。そういう小説とか雑誌とか映画とか、いっぱいあってさ。まあ、マニアってやつだな」
C 「でも怖いのは苦手?」
A 「そう」
B 出てくる
「ふう。スッとした。ん?何だ?俺が高校の時の部活の話でもしてたのか?」
C 「何で分かったの?」
B 「壁に耳あり障子に目ありって言ってな」
C 「お前、すごいなあ」
A 「なあ、早く続き観ようぜ」
C 「そうだな」
B 「ゴメン、続き観るのさ、今度にしようよ」
A 「怖かった?」
B 「うん。やっぱり俺、作り物がダメみたいだわ。特に映像系」
C 「オカ研だったのに?」
B 「まあ、一口にオカルトって言っても色々あるからな」
C 「へえ~」
A 「前から聞きたかったんだけどさ、お前って霊感とかあるの?」
B 「無いよ」
A 「無いの?」
B 「うん」
C 「オカ研だったのに?」
B 「まあ、一口にオカルトって言っても色々あるからな」
C 「へえ~。……。でもさ、さっき作り物がダメって言ってたじゃん。それって霊感が無かったら作り物かどうか分からないんじゃないの?」
A 「確かに。霊感がある人が本物か偽物かを区別できるんじゃないの?」
B 「そういうやり方の人もいるよ。でも俺は、そうじゃないってだけ」
A 「どういうこと?」
B 「観たら分かるよ。その~、編集って言うの?明らかに不自然だなあって。そういうやつに限ってインパクトに頼るんだよ!」
A 「うん。一回落ち着こうか」
B 「本物はもっと美しいんだ。気付いてほしいけど、誰にも気付いてもらえないと悟った憂いを秘めた目。近づけば近づくほどに、気味が悪いと人が離れていく。画になるじゃないかあ!」
C 「コイツ、こんなキャラだっけ?」
A 首を傾げる
C 「作り物がダメってことは映画もダメなの?家にホラー映画がいっぱいあるって聞いたんだけど」
B 「あれはまあ、勉強のために観てたんだよ。ホラ、部活がそんなんだからさ、ある程度知っとかないといけないんだ」
C 「大変だったんだな。オカ研も」
A 「お前はホラー映画好きだったよな」
C 「うん。でも、ジャパニーズホラーだけはどうしても無理」
B 「同志よ」
C 「観ただけで呪われるとか、そりゃもう、テロかなんかだぜ」
B 「テロだな。無差別テロ」
A 「それは呪いのナントカとか、そういうやつ?」
C 「そう。呪い系がホントにダメ。あと雰囲気な。暗いって言うか、陰気って言うか、陰湿って言うか」
A 「そんなこと言ったら呪われるぞ」
B 「誰に?」
A 「誰かは分かんないけど、その辺の奴に」
B 「あーヤダヤダ。これだからテロは嫌なんだ」
A 「テロじゃないけどな」
C 「シッ!静かに!」
A・B 口々に
「何?」
「どうしたの?」
C 「何か聞こえる」
A 「え?」
B 「嘘だろ」
A 「おい、大丈夫か?」
B 「あ、こういうのは大丈夫」
A 「ああ、そうか」
しばらくの沈黙
A 「ああ!」
B びっくりする
「おい、大きな声出すなよ~」
A 「ゴメンゴメン。でも変なんだ……。」
C 「何が変なんだ?」
A 「隣の部屋の人、今日出張でいないはずなんだ」
C 「え……」
しばらくの沈黙
A 「こんなんだろ~!」
B 「ああ~もう!止めてよね!」
C 「でもこういうの好きだろ?」
B 「え?まあ、嫌いじゃないけど」
C 「ホントに出張行ってるの?」
A 「知らない」
B 「知らないの」
A 「知らない」
C 「隣の人なのに」
A 「ていうか、見たことない。俺の後から入ってきたっぽいけど」
C 「挨拶も無しだなんて、変な人だな」
A 「あ、そうそう。変な人と言えば上の階の人もなんだけどさ」
B 「どう変なんだ?」
A 部屋の真ん中にBとCを集める
小声で
「これは、俺がここに引っ越してきてまだ間もない頃の話なんだけど。この部屋の窓は南向きで日当たりも良くて、結構気に入ってたんだ。一か月ぐらい経ったある真夜中、俺はフッと目が覚めたんだ。時計を見ると午前二時三十分。いつも寝るときは常夜灯を点けて寝てるんだけど、その日はどうもその明かりが気になって寝つけなかったんだ。三十分ぐらい経ってたと思う。天井の方からバタバタって音がしたんだ。結構大きな音でびっくりしたんだけど、そこからは何も起こらなくて気付いたら寝てたんだ。夕べに起こったのは一体何だったんだろう?考えても仕方ないから、気にしないようにしてたんだ。
でもその日を境に毎日同じことが起こるようになった。決まった時間に目が覚めて、三十分ぐらいしたらバタバタ!バタバタ!って聞こえるんだ。最初は気が付かなかったんだけど、どうやら子ども二人がおいかけっこしてるみたいで、笑い声も聞こえるんだよ。もう我慢できないと思った俺は、上の階の住民にクレームを入れることにした。っていうのも上の階は四人家族で住んでて、俺も特に金縛りとかそういうのは無かったから、てっきりその家族がうるさくしてると思っててさ」
落語家のように
「あの、朝早くからすみません。下の階の者なんですけどお宅のお子さんがここ一ヶ月くらい毎晩騒がしくてですね……」
「え?あなたの所のお子さんじゃないんですか?」
少しの沈黙
C 「ゴメン、どういうこと?」
A・B「えー!」
A 「分からなかったの?」
C 「うん、なんか、ゴメン」
A 「いや、こっちこそゴメン」
B 「なあ、今のはホントの話なの?」
A 「嘘だよ」
B・C「えー!」
A 「お前、分からなかったんじゃねえのかよ」
C 「だってホントの話だと思ってたから」
B 「嘘なの?」
A 「うん、なんか、ゴメン。嘘だって気付くと思って。ここ最上階だし」
B 「あ、そっか。最上階だったら上の階に人なんか住んでないもんな~」
C 「あ、だから分からなかったのか。あ〜スッキリした」
B 「お前馬鹿だな」
C 「お前には関しては信じてたじゃないか」
B 「まあな」
Aに
「そういえば、上には何があるんだ?」
A 「貯水槽」
B・C「え!」
A 「何!?そんな驚くこと!?」
C 「お前それジャパニーズホラー嫌いには絶対言っちゃいけない言葉だからな!」
A 「何でだよ。貯水槽」
C 「あああ!」
B 「お前分かってんのか!ジャパニーズホラーだぞ!水も溜るいいお化けだぞ!ホ〜ラホラホラホラホラ」
A 「盛り上がってんじゃん」
B 「盛り上がってねえよ」
C 「俺、もうこの家の水道、絶対捻らねえ」
A 「何でだよ」
C 「髪の毛が出てくるからに決まってるだろうがー!」
A 「分かったよ。もう、貯水槽って言わないから」
B・C Aを睨む
B 「あと三ポイントで昼飯奢ってもらうからな」
A 「何でだよ」
B 「ルールだよ」
A 「だから何のだよ」
C 「やっぱりさ、直接殺人鬼に襲われるより、不思議なことを目の当たりにする方が怖かったりするんだよ」
A 「いや、殺人鬼は怖いでしょ」
Cの台詞にAの台詞を被せる
C 「いや、怖いんだけど、例えとしてな、直接ガッってくる恐怖よりも、そう、さっきコイツが言ってたインパクトだよ。インパクト。そのインパクトだけの恐怖より、何が起こってるか分からない状況の方が怖いこともあるよねって」
A 「だって襲ってくるわけでしょ。チェーンソーとか持って。いや、チェーンソーじゃないかもしれないよ。でも大体そういう奴って神出鬼没じゃん?音楽のクレシェンドと一緒にカメラがズームアップしていくんだよ。この緊張感、お前に分かるか?」
B 「ちょっとストップ、ストップ」
A・C 黙ってBを見る
B 「え、ここはハリウッドですか?」
A・C「違うよ」
B 「とりあえず落ち着けよ。俺は二つとも怖い」
C 「何宣言だよ」
B 「平和的で良いだろうが」
A 「まあ確かに、何が起こってるか分からない状況も確かに怖いな。なんかこう、ジワジワ来る感じがする」
B 「逆に分かってしまえばそんなに怖くないこともあるけどな。ホラ、何て言ったっけ?ことわざで……。幽霊の正体見たり……見なかったり?うん、違う、分かってるの。アレ?ココまで出てるんだけど。何だっけ?」
Cに聞く
C 「え?幽霊の正体見たり枯れ……え(カレー)を食べたい」
A 「はあ!?」
B 「幽霊の正体見た~り晴れ姿~」
C 「あ!幽霊の正体みたい!」
B 「幽霊の正体みたいのは枯れ尾花だろ。あ、枯れ尾花だ」
A 「何やってんだよ。」
B 「ゴメンゴメン」
少しの沈黙
C 天井を見上げる
「うわっ!」
A・B 口々に
「ん?」
「どうした?」
C 「あ、いや、天井のシミだと思ってびっくりしただけだよ」
A・B 口々に
「ふ~ん」
「そうか」
天井を見上げる
B 見上げたまま
「シミなんてどこにも無いぞ」
A 見上げたまま
「うん。全く見当たらない」
C 「うん。だから言ったじゃん。シミだと思ってびっくりしたって」
B Cを見ながら
「え、てことは、シミだと思ってたものがシミじゃ無かったってこと?」
C 「だからそうだって」
A・B 顔を見合わせる
Cの顔を見据える
A 「お前それ……逆尾花じゃん」
C 「なんだよ、逆尾花って」
B 「俺、逆尾花の人初めて見た」
A 「俺も」
C 「だから何だよ、逆尾花って」
B 「俺も逆尾花したい!続き観ようぜ!
A 「お前苦手じゃなかったのかよ」
C 「なあ逆尾花って何だよ」
B 「逆尾花したいから頑張って観るよ」
A 「まあ逆尾花って言うかマジお化けだけどな」
リモコンを操作する
C 「ああ、そういうことか」
B Cを遮って
「シッ!」
Cにテレビを観るよう促す
三人 テレビをじっと観る
A・C
「うわっ!」
「おお~!」
Bの様子を窺う
B 「美しい……」
暗転
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