真のサイエンティスト/盲目
A……男 白衣 研究室リーダー
B……女 白衣 研究員Ⅰ
C……男 白衣 研究員Ⅱ
D……女 白衣 研究員Ⅲ
暗転
雷雨の夜
とある研究所
警報が鳴っている
A 「おい!どこにもいないぞ!」
B 「そんなはずない!どこかにいるはずよ!」
C 「最後に確認したのは誰だ?」
D 「すみません!私です!」
A 「今はそんなことどうだっていい!まだ、そう遠くには行ってないはずだ……」
明転
とある研究所
A 「クソ!どこに行ったんだ……」
B 「まさか研究所の外に逃げ出したとはね……」
D 「あの、ホントにすみませんでした!」
C 「いや、もう過ぎたことだ。言っても仕方がない。それよりもこれからどうするかの方が重要だ。そうだろ?」
A 「ああ、彼の言う通りだ。俺たちで、どうするべきか考えようじゃないか」
B 「そうね。まず、真っ先に決めなければいけないことがあるわ」
D 「何ですか、それは」
B 「それはね、「世間に公表するか、しないか」よ」
A 「ああ~。それがあったか」
C 「公表ねえ……」
D 「公表しない選択なんてあり得るんですか?」
A 「普通ならあり得ないけど、残念ながら、あり得るんだ」
D 「どういうことですか」
C 「この研究所は公の施設ではない。だから報告する上司もいないし、働いているのもこの四人。そして辺り一面森に囲まれていて、街からも遠い。だからいくら警報が鳴っていたからと言って気付かれることなんて、な」
B 「そういうこと。私たちが本気で隠蔽をすれば、誰にも気付かれないってことよ」
D 「え、じゃあ、捜すのも止めるんですか?もし人間に危害を加えるようなことがあったら……」
A 「いや、捜すのは止めない。それに、あれは試作品だ。心配することはない」
D 「試作品だからこそ、何をするか分からないんじゃあ……」
C 「おい、何を怖がってる?」
D 「別に怖がってなんかないです」
C 「もっと自分のしたことに誇りを持て。俺たちは命を創ることに成功したんだ。それも養殖や人工授精とは違うやり方で」
B 「そうよ。それにもし公表すればパニックになると思わない?」
D 「確かに……」
A 「ということで……。夕べ起きたことは、俺たちだけの秘密ってことで、いいかな?」
口々に
B 「賛成よ」
C 「オーケーだ」
D 「はい」
C 「あのさ、俺、ふと思ったんだけど」
B 「何?」
C 「あ、いや、その、ホントはこんなこと思っちゃいけないんだけど」
A 「言ってみろ」
C 「……。さっきの危害を加えるとか加えないとかの話なんだが、アイツがワイドショーに出てくるまで泳がせてみるってのはどうだろうか……?」
B 「どういうこと?」
D 「試作品が事件を起こせば、捜す手間が省けるってことですね」
B 「でも民間の人達を巻き込むのはやっぱり危険だと思うわ」
C 「やっぱりそうだよな……。すまない。忘れてくれ」
A 「おもしろいんじゃないか?」
三人「え?」
A 「いいか。そもそも皆が今、「試作品」と呼んでいるアイツはは、この研究所から逃げ出したんだ。アイツは誰が創った?俺たちだろ。俺たちが創り出した生き物が自力でここから逃げ出したんだよ。つまり俺たちの研究は成功したんだ。研究が成功したんなら、新しい課題が必要だろう?」
B 「それは、ダメ。危険過ぎるわ。それにもし試作品が死んでしまったら、どうするの?」
A 「あれは「完成品」だ。だけど、俺は死んでも構わない。もうデータは手元にあるんだ。いくらでも再現できる。あ、なら、「完成品Ⅰ号」と呼ぶべきだな」
D 「次の研究課題は一体何なんですか?」
A 「それは、彼に聞いたら分かるよ」
Cに視線が集まる
C 「人格形成期における環境からの影響についてですか?」
A 「そのとおり。実験内容はこうだ。まず、俺たちが創った人造人間が研究所から脱走したことを世間に公表する。そしてこう付け加える。「捕まえた者には、協力金として五億ウェルターを支払う。」」
B 「そんな大金、どうやって用意するのよ」
A 「おい、人の話は最後まで聞くもんだ。まだ続きがある。「五億ウェルターを支払う。ただし、貴重な研究材料であるため、殺してしまった場合、協力金は払わない」と」
C 「なるほど。それで民間の人たちを煽るわけか?」
A 「人聞きの悪いことを言うな。実験がスムーズに進むように、行動を促してるだけだ」
C 「どっちも同じだろ……」
A 「ん?」
C 「いや、何でもない」
B 「私は反対よ。あなたは今、科学者としての道を踏み外しかけてる。ただのマッドよ。民間人を巻き込んでまで、実験はするべきじゃない」
A 「どうして、そう頑固なんだ。俺たちは完璧な生物を創る研究をずっとしてきた、そうだろ?この実験だってその一環だってのに」
B 「こんな実験で完璧な生物が創れると思う?」
A 「……。やってみなきゃ分からない」
B 「そうですか……」
D 「なるほど、先輩の考えはよ~く分かりました」
Aに銃口を向ける
A 「何をするつもりだ」
D 「何って「人格形成期における環境からの影響について」の研究」に決まってますよね」
銃声が響く
BとC 平然としている
D 「お疲れ様。ひとまず実験は終了です。これからニーマルサン号室に移って、結果をまとめます」
BとC 顔を見合わせる
D 「どうかしましたか?」
C 「あの、博士!」
D 「はい?」
B 「殺してしまって良かったんですか?」
C 「大事な実験材料だったんじゃ……」
D 「別に死んでも構いません。もうデータは手元にあるんですから。いくらでも再現できますよ」
BとC 安堵の表情
暗転
A……男 白衣 研究室リーダー→人造人間
B……女 白衣 研究員Ⅰ →学生Ⅰ
C……男 白衣 研究員Ⅱ →学生Ⅱ
D……女 白衣 研究員Ⅲ →教授
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