壁に耳あり障子に目あり/盲目
メアリー……幽霊 黒服
A ……給仕Ⅰ
B ……給仕Ⅱ
A 「てかさ〜」
B 「うん」
A 「あの人さ」
B 「うんうん」
A 「給仕長かなんか知らないけどさ〜」
B 「うんうん」
A 「人使い荒過ぎじゃない?」
B 「分かる〜、物凄く分かる〜、いや、私もね……」
A 「うんうん……」
フェードアウト
話し続けている
メアリー
「壁に耳あり障子にメアリー!ねー、驚いた!?驚いたっしょ!?私ねー、メアリーっていうの、よろしく。あ、一応、君たちより先輩だから。あー、でも、私、敬語と苦手だから、タメ口で全然良いからね!うん、ホント、ホント、全然気にしなーい。」
「ねえ、さっきから何話してんの?もしかして恋バナ!?いやー、若いねえ!若いってホント羨ましいわ!私も若い頃は、色濃い色恋沙汰の……っつくらいはあったなあ」
様子を窺う
反応が無い
「あれは、まだ私がココに入ったばかりの頃。一つ上の見習いコックに恋をしたの。私は一目惚れだったわ。昔の人は上手く言ったものね。「恋に落ちる」だなんて。私、ホントに聞こえたの。パリーン!って。え?皿を落としたんじゃないか?いや、でも故意に落としたわけじゃないからね!恋に落ちたんだから、私は。……。ホントだよ!?ホントにしたんだもん!ウソじゃないもん……」
「いい?お嬢さん方。恋は人を盲目にさせるのよ……。ラブイズブラインドよ、ラブイズブラインド。ホラ、言ってごらん、ラブイズブラインド。……。ラブイズブラインド!」
様子を窺う
反応が無い
「ええ……。まあ、いいわ。私の話はこれくらいにして、あなたの話を聞こうかしら?うん。……。うんうん。……。うんうんうん。うん。キャー!ハレンチ!……。ゴメンナサイ。少し、興奮してしまって。続けて。うん。うんうん。うん。ええ!あ、ちょっとこれは……」
客席に向かってシーッ
小声で
「なかなかやるじゃない」
「アナタ!さっきから相槌しか打ってないけど、アナタにはないの?色濃い色恋沙汰は……。ない……だと!」
「よーし、分かった、このメアリー姐さんに任せなさい。アナタのためにセッティングしてあげるわ」
ちょっと鬱陶しい美容師風に
「今日は〜どんな感じにしちゃいますかあ〜?」
様子を窺う
反応がない
「……。そのセッティングじゃないよ〜。分かってるよ〜、そんなこと!ちゃんとセッティングしてあげるから、ね。合コン行こ?ね?セッティングしてあげるから〜、私が。アナタじゃないよ?私がするの。うん。セッティング。だからさ〜、一緒に行こうよ〜。連れてってあげるからさ~。ね?お姐さんが連れてって、連れてってください!お願いします!合コンに行きたいんです!」
合コン
「あの、お名前はなんとおっしゃるんですか?あ、じゃあヒロシさんで。ヒロシさんは大学はどこを……?ええ!と、東大!お仕事は?IT企業!?すいません、結婚してください!」
「……あっ、ゴメンナサイ。私としたことが。アナタは?ダイスケさん。ダイスケさんは……け、慶応!お仕事は!弁護士!?すいません、結婚してください!」
「あっ、ゴメンナサイ。アナタは?カイトさん。カイトさんは……」
物凄く冷める
「あ、ゴメンナサイ。ちょっとお手洗いに……」
トイレ
「ていうか~、他の男はアリだけど〜、最後の人?あの人だけはナシだわ」
小声で
「こういうのやりたい……」
合コン
「うん。うんうん。うんうんうん。ええ〜、すご〜い!知らなかった〜!このお酒、葡萄からできてるんだ〜!ええ〜さすが!自分でサラダ取り分けてる〜!」
元に戻る
「なんで、ダメなのかな〜。やっぱり高望みしすぎなのかなあ!私なんかには3K男子は釣り合わないんだ。うわーん!」
号泣
立ち直って
「あー!ムシャクシャするなあ!今度皆で旅行行こうよ!……え、良いじゃん行こうよ。何のって慰安旅行に決まってんじゃん。私の。え~、行こうよ~、だって皆行ってるんだよ!え?皆って誰のことか?……皆は皆だよ!決まってんじゃん!ユカちゃんでしょ!リョウコちゃんでしょ!それから……。それから!」
開き直って
「ねえ、どうしたい?国内旅行か~、海外追放か。私はね~、海外が良いな~。アメリカ……村とか」
「……。ねえ、私の話きいてる?二人で何の話してるの?ん?ん?ん?ん?……。ねえ、さっきからずっと思ってたんだけどさ、私のこと見えてる?聞こえてる、私の声?嘘ついてない?ホントは見えてるのに見えてない振りしてるんじゃない?いい?嘘って字はね、口が虚ろって書くの。だから嘘ついても意味無いの、分かる?だって中身が無いもの。意味無し芳一。……。うわ、今の上手くね?目も見えなければ、耳もない、おまけに言葉はがらんどう。いやあ、もう脱帽ですわ。山田くん、座布団一枚」
様子を伺う
二人は聞こえていない
もちろん座布団は取りに行かない
結局メアリーが自分で取ってくる。
座布団を置いて
落語家のように
「え〜、先程からそこにおられます御二方、大変話に花を咲かせておるようでございます。一体何故かような盛り上がりをみせているのかと申しますと、上司の愚痴について喋っているようで、それはもう放送出来ないような雑言でございます。しかし、女の子が盛り上がる話というのは古より「好きな人の話」と「嫌いな人の話」と相場が決まっておりまして、それを一体誰が止められましょうか。あなたがたの中で一度も悪口を言ったことのない人だけが、彼女たちに石を投げることが出来るのです」
女子高生
「最近、ダイスケ君が未読スルーしてる気がする」
「え、なんで?」
「分かんないよ、そんなの」
「言葉にしないと分かんないよね」
「うん……。話変わるんだけどさ最近、カイトからしょっちゅう連絡来るんだけど」
「え。マジで、キモイんだけど」
「未読スルーしてるの分かんないのかな~」
「普通、言わなくても分かるよねー」
元に戻って
石を投げながら
「怖すぎるんだよ!分かんねえわ!ちゃんと面と向かって言え!バーカ!っていうのをいっつも陰で言ってます。だって直接言うの怖いもんねー!そこはやっぱり女の子だもんねー!では少しインタビューしてみましょう。題して、こういう人は苦手だランキング〜!ふう~!」
二人にマイクを向ける
「では早速第三位。うん。うんうん。「何でも否定から入る人」だそうです。いや〜、それはないんじゃない?」
高校生
「ねえ〜、髪切ったんだけど、どう?似合ってる?」
「え?まあ似合ってるけど、俺は前の方が好きだな」
元に戻って
「……。は?誰もお前の好みなんか聞いてないんだけど?可愛いって言え!バーカ!……。でもね、メアリーもこういう所あるってよく言われるの。「メアリーはさ〜、いっつも否定から入よね~」……。何て返せば良いの!?「そんな事ないよ〜」って言ったら「ホラ、そういう所」って言われるし、かといって自分で認めるのもちょっと変だよね?ね!」
「……ちなみに私の苦手な人はなんでも前提で話してくる人です」
「ほら、私〜、お菓子作るの好きじゃないですか〜」
「……いや、知らんけど」
小声で
「ホンット苦手だわ……」
「さて、気を取り直して第二位!うん、うん、うんうんうん。あ~いるわ~、そういう人いるわ~。「陰口ばかり叩く人」ですって、奥さん。ねえ、ホンットねえ。言いたいことあるなら本人に直接言えば良いのに、ねえ。ホンットそういうとこダメだわ、うん。だからアイツはダメなんだよ。言いたいことあるなら素直に言えっつうの、なあ」
「さて、そろそろアイスブレイクできた頃だと思います。栄えある第一位は!うん。うんうんうん。「話が長い人」!って私じゃーん! ……。もう、ずっーと喋ってる。」
「……。ごめんね、なんか、ずっと一人で喋っちゃって……。私、こんなんだからさ、友達とかもあんまりいなくて、人との距離感って言うのかな?そういうのが分からなくて……。でも、二人にこれだけは言いたい。友達、大事にしてあげてね。……私そういうの諦めちゃったから、あんまり生意気なことは言えないんだけどね……」
「え、あ、言ってなかった?あれ、言ってなかったっけ!?ごめ~ん、言ってなかったね~。そうなの、私、身投げしたの。あそこの井戸で。今は昼だから、自由に動けるけど、夜になったら、井戸に戻らないといけないの。そう、仕事しに。夜な夜な井戸に現れて、皿を数える仕事してま~す」
お岩さん
「一マ~イ、二マ~イ、三マ~イ、四マ~イ、五マ~イ。ホワット?一マイ足リナイデスネ~」
元に戻る
「まあ、皿割っちゃったからなんだけど。でも、今まで一回も気づかれたことないの。毎日やってるのに!分かる?この辛さ?毎日夜勤なんだぜ?誰もいない所で毎晩、毎晩、皿数えさせられてよー!眠いったらありゃしない。あ、今、じゃあ昼に寝れば良いじゃんって思ったっしょ?確かにそうなんだけど、メアリー、あえてそこは「否!」って言います。だってえ、夜、誰にも会えないんだよ?昼間くらい人に会いたいじゃん。まあ、ずっとこんな感じだけど」
「私の心を癒してくれるのは、自然だけだよ。春は良いぞ~。桜キレイだからな。夏も良いぞ~。お化けだからな。秋もいいぞ~。月がキレイだからな。問題は冬よ!寒いったらありゃしない!しかもお化けでしょ?需要が全くない!もう全く!私の仕事納め何だと思う?ハロウィン。でも、誰も私の仮装なんかしないでしょ?」
二人に絡む
「え?してくれる?ん?ん?ん?ん?しないでしょ?そう、誰もしないの。どうやったら私の仮装流行るかな?」
「トリックオアトリート!今日はハロウィンだから、みんなに配るお菓子作ってきたの!ああ、良いの良いの、気にしないで!ほら、私、お菓子作るの好きじゃん?」
「……もうコイツの仮装しようかな。ダメか。ダメだな、うん。ダメだ。だから仕事納めと言ってもほとんどノーギャラ。あれ、歩合制だからさ。だからゾンビとかホントに羨ましい。ア~って皆がやるだけでチャリンチャリンだよ。ア~、チャリンチャリン」
「ちょっと話それちゃったね。ようするにメアリーが言いたいことは、みんなは私のこと気づいてくれなくても、私はみんなの天ぷらそばがいい」
二人に絡む
「ねえ、上手かった?今の上手かったでしょ?ねえ、やっぱり天かすより天ぷらの方が美味いもんね?ん?ん?ん?ん?」
A 「あ、やばい。もう、こんな時間だ」
B 「あ、ホントだ!昼休み終わっちゃうじゃん!」
二人 話しながらはける
メアリー
「あ、もう、昼休み終わり?大変だ!急いで戻んないと!急げ~、急げ~、急げ~。じゃあ午後も頑張って!バイバイ!あんまり悪口言っちゃいけないよ!」
メアリー
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「行っちゃった。だいぶ悪口言ってたなあ。もう全部放送コード引っかかるくらいの勢いくらいだぜ、ありゃ。でも、安心して。ここで言ってたことはちゃんと秘密にするよ。だって私、耳と目はあるけど、口はないから!」
暗転
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