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救われた気持ち

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大切な誰かの力になれたこと
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#小説

中年ラブ・ストーリー(後編)

中年ラブ・ストーリー(後編)

「で、キスしちゃったんだ」

三原さんにメッセージを送ると、即日会うことが決まった。
「だからね、三原さん。そこばかり何回確かめるんですか」
三原さんとは仕事終わりに、職場の近くのバルで待ち合わせをした。
三原さんは上機嫌で、私と克也さんがキスしたと何度も言うけれど、あれは事故だ。大事故。現に私の前歯はいまだに痛くて仕方ない。
「ガチって音がしたんですよ。ほんとに痛かったの」
「だけどそれ、周りか

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中年ラブ・ストーリー(中編)

中年ラブ・ストーリー(中編)

目の前に置かれたおでんの盛り合わせを見て、思わず「わぁ」と声を漏らした私は、よくできた反応をしたようだ。克也さんが満面の笑みでそんな私を見ている。
「おでんを呑み屋で食べるなんて久しぶり」
私は自分の小皿に、少しくすんだ色のからしを乗せながら言った。
「家で食べるのも好きだけどね、ひとりでおでんなんて、あんまりやらないでしょ?あつこさんだって」
「まあね、コンビニで済ませてしまうわね。ひとり分のお

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中年ラブ・ストーリー(前編)

中年ラブ・ストーリー(前編)

「あっちゃん。それでどうするの、結局」
三原さんはさっきから私に同じ質問ばかりしている。相当酔っぱらっているのだ。
「んー。だから、まだ誘われたわけじゃないけど、誘われたなら行こうかな、とは思ってますよ。せっかくだから」
「せっかくだから?」
「だって。そうそうない機会だから」
「そうそうない機会?好きでもない男と寝ること?」
やっぱり。相当酔っている。
「私、そんなこと一言も言ってないですよ?も

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