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5冊読了(5/3〜6/9)

1『住まいの不安がなくなる 絶対失敗しない家・マンションの話』うだひろえ

2『物件探偵』乾くるみ

3『カンバセイション・ピース』保坂和志

4『だから昆虫は面白い』丸山宗利

5『死んでいない者』滝口悠生


前回の記事が1ヶ月ちょっと前だったのですが、その間に引っ越しをしましてね。
荷造りや荷解きやアレコレでバタバタとしてあまり本を読めませんでしたが、ようやく最近落ち着いてきて一気に本を読み出しました。

引っ越して来た住まいの近くにとても良い図書館がありまして、近頃は仕事終わりに毎日そこに入り浸っております。
その図書館の何が良いって、結構遅い時間までやっているんですよね。
普通は図書館って夜のこのぐらいの時間までだよね、って思ってた時間の3時間ぐらい後まで開いています。
個人的で感覚的な表現ですけど。

それに貯蔵している本とか、建物自体のデザインも素晴らしくて、この街の住民に落ち着く空間を提供してくれてありがたいなぁと思います。
この町に越して来てよかったなぁとこの図書館のおかげで思えます。

机や椅子が並んだ学習スペースも広くとってあって、学生さんが遅くまでそこで勉強していて、その様子がなんだか微笑ましく、僕がその椅子を一つ占領しちゃうのは申し訳ない気もするけど、まあ許してくれ、他にも色んな年齢の方が色んな用途で使っているじゃないか、私だって勉強したいのだ、勉強するのは君たち学生だけではないんだよと、心の中で釈明しながら椅子に深く腰掛けて読書しています。

図書館っていいですよね。
すべての館の中で一番良い館です。
映画館もいいですけど。
博物館や美術館もいいですね。
水族館も最高だな。
別に一番ではないか、図書館は。
館っていいところばっかりですね。


さて、
1は物件購入に関する知識が身に付くコミックエッセイです。
僕は物件を購入するつもりや予定なんて現在のところ1ミリメートルも無いのですが、なにやら面白そうだし勉強しておいても損はないだろうと思って読みました。
イラストを描かれているうだひろえさんは、以前に読んだ『誰も教えてくれないお金の話』と同じかたなので、きっと面白いだろうと思って読みました。

購入と賃貸、一軒家とマンション、中古と新築など、新しい住まいを決める選択はいろいろあります。
それらのどんなところを見て検討すべきなのかとか、何が自分に一番合っていて一番得なのかとか、将来もしかしたら実践して役立つかもしれない情報が多くて良かったです。

コミックエッセイですが、なかなかの文章量と情報量があって読み応えがありました。
やはりイラストには可愛らしさと可笑しさと親しみやすさがあって、それでもちゃんと物件購入に関する知識を多く学べる良い本でした。


2は乾くるみさんのミステリー小説です。
こちらも物件をテーマにした作品です。
僕が最近引っ越しをしたこともあり、その分野のことに特化した作品を読みたいと思っていた時期でした。

賃貸の契約についてとか、住んでみてからの近隣トラブルとか、事故物件とか、引越しに関する不安って多々ありますよね。
不動産はやはり大きなお金が動く業界なので、詐欺とか悪巧みを考える人は現実にもいます。
これはそういう不動産に関する犯罪やトラブルをテーマにした連作ミステリー小説です。

それぞれ主人公が変わる6編の物語で、共通する人物は宅地建物取引士の不動尊子(ふどうたかこ)という女性。
部屋の声が聞こえるという特殊能力を持つ彼女は、住宅のトラブルを抱える人の部屋を察知して訪問します。
そしてその部屋の住人に話を聞き、トラブルや悩みを解決するのです。
その解決がミステリーでいうところの謎解きの要素となっていて、つまりは彼女が探偵役ということになります。

まず不動産に関する知識を多く有していないとこういう小説は書けないと思うので、作者の知識量に驚かされました。
乾くるみさんの作品はいくつか読んでいますが、これほど専門分野に特化した作品は初めてだったので、それをミステリー小説に落とし込める技術に改めて感銘を受けました。
やはり不動産業界は興味深くて、それがミステリー小説の形で楽しみながら読めるのは、勉強にもなったし面白かったです。


3は芥川賞作家・保坂和志さんの作品です。
なぜか河出文庫のしか出なかったんですけど、僕は新潮社文庫で買って読みました。
僕の兄が保坂和志さんの大ファンで、それで薦められて読みました。
保坂さんの作品で読んだものは小説とエッセイを合わせて4冊目になります。

『カンバセイション・ピース』大変に面白かったです。
どのように説明していいのかわからないのですがとにかく面白くて、なかなかのページ数がある本なのですが途中で飽きることもなく、終盤はまだ終わってほしくないと思いながら読みました。
説明が難しいのはあらすじを紹介しても何も面白くはないからです。
というか物語が無いお話なのです。

物語の展開に頼らない、純粋に文学性に特化した面白さを追求した作品といえるのかな、と思います。
内容としては、一つの家に暮らす人々の日常の光景や会話が描写されていくだけのお話です。
何もドラマチックな展開は起こらないし、感動するようなエピソードもありません。
なのにこれほど面白く読ませることの出来る描写の技術はすごいと思います。
純度100%の文学作品、という感じです。

保坂さんは小説もエッセイも面白いですが、どちらを読んでも同じような読後感を覚えます。
エッセイは作者の考えや感覚やものの捉え方が書かれているものですが、保坂さんの場合は小説にもそれらが色濃く反映されていて、だからどちらを読んでも作者自身のパーソナリティを読者がそのまま直に味わうような印象を受けるのかなと思います。
それが面白いと思えるのだから、保坂さん自身が面白い方なんだろうなぁと思います。

たまたまですけど保坂さんの作品は小説とエッセイとを交互に読んでいるような感じなので、次はまたエッセイを読もうかなと思っています。


4は昆虫の本です。
図鑑のように昆虫の写真と紹介が載っていて、その分類ごとに作者の丸山宗利さんの解説の文章が載っている本です。
おそらく日本の昆虫学者さんの中でも有名な方なんだと思います。
僕は初めて知りました。

なんとなく昆虫のことを調べてみたいと思って図書館で見つけて読んでみました。
昆虫に全然詳しくないですが普通の図鑑よりも文章が多くて楽しめました。
カマキリモドキのところとか面白かったです。
あとトゲアリとか、ハネカクシのところも。
ヒゲブトオサムシは種類のネーミングが面白かったです。
新種の昆虫を発見した学者さんたちのコラムも面白かったです。


5は第154回芥川賞受賞の純文学作品です。
これも兄の薦めで読みました。
兄は保坂和志さんのファンで、保坂さんに似た雰囲気の作家さんとして滝口悠生さんを教えられました。

大往生の末亡くなった男性の、子供や孫や親類たちが集まり、葬式の一晩を過ごすお話です。
物語というほどの大きな展開はなく、それぞれの家族の構成や、人物の生い立ちや人柄などが紹介されていきながら、時間経過とともに小説はゆっくりと進行していきます。
独特の言い回しやテンポ感があって、読んでいて新鮮で面白かったです。
そしてやはりどこか保坂和志さんと似ていました。
日常の中の身近な現象や人物の何気ない言動から、哲学かというレベルまで深掘りして考えて描写するあたりがよく似ていました。

親類が多すぎて誰が誰だかわからなくなるとか、酒を飲んで酔い潰れる人が出てくるとか、しばらく誰にも会わずに行方をくらましている人がいるとか、親戚の集まりでのあるあるに共感しつつ、どこの家族も同じようなものなんだなぁと感じました。
一人ひとりの人間、一つ一つの家族は全然違うはずなのに、親族の集まりとなると万人に心当たりのある類似点が見えてくるものです。

その場では誰もが、親戚たちが一堂に会したことでの高揚感とか、気恥ずかしさや気まずさも感じつつ、故人を偲ぶために慎まなければならないという感情の不安定さを持っていて、普段はしないような言動を起こしたりするものです。
それらを制御して普段通りに努めたりあるいは故意にハメを外そうとしたりする心の動きが、社会に暮らす人々にとってはごく当たり前に持つ共通のものだから、親族という確かだけど曖昧なコミュニティにおいて、他と類似する点が多くなってくるのかなと思ったりしました。

短編から中編ぐらいの厚さの作品ですが、登場人物が30人以上ととても多くて、名前や家族構成が覚えられないのは読者も登場人物である彼らも同じなのかなと思いました。
三人称で視点が変わっていく文体なのだけど、途中からこの神の視点は故人によるものなのかなと思ったりしました。
死んだ者が自分を偲ぶ死んでいない者たちのことを描くというような。
まあたぶん違うんですけどね。

葬式の日の一晩を描くという点で結構キャッチーな設定であるし、亡くなった人に思いを馳せる場面というのは純文学として描きやすそうなシーンだと思います。
だから芥川賞を受賞するのは作者の企み通りだとも感じられました。
なのでそういった企みなどがない、芥川賞受賞以降の作品をまた読みたいと思いました。

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