女の朝パート17
そよ風が気持ち良い5月29日水曜日の午前10時45分、
八王子駅の駅ビルOPA三階にあるスタバに女がやってきた。
東京郊外の八王子、と言えども、
全国区に点在しているスタバには、昔ながらのお飲み物に加えて真新しいドリンクやフードが多様に取り揃えてある。(今はプリンアラモードフラペチーノ)
したがって客層はいつも老若男女多種多様になる。
所詮女もそのお客様の一人に過ぎないのだが、
やけに女が気になったのは、この女を好きになってしまったからなのだろうか?
もしやこれが運命?!
しかし今はどうでもよい。
これが運命なのか?!と思う時に限って、
何も考えていない。
とりあえずここに来たら、誰にも邪魔されず自分の時間を過ごすだけに限る。
しかし、青山、表参道、渋谷、原宿など、
東京と言えども、地域に寄ってはその客層の特徴やライフスタイルが反映され、
そのバラエティーさを伺えることはまた面白い。
写メを撮り終えると女は笑った。
写メが笑えるとか、スタバの椅子に座れたからではないのよ。
見たら解ると思うけれど⤴️この写メを見てあなたは笑える?
女は誰にで言うでもなく、どうでも良いことと、自覚しながら、一人で呟いた。
暗転
女は、スタバにチェックインする為にレジと言われるバーカウンターへ向かう。
ここでは、ここのドリンクやフードを一つ以上お買い上げしなければならないシステムになっているからである。
席を案内する係りや頼んでもないお冷やを運んでくる係りもいない。
いわゆる料金前払い制のフリースタイル。
それさえ守れば、誰でもどこにでもスタバの椅子にステイする事が出来るのだ。
例えそれが極上と言われるVIPなチェアーであっても。
アイスコーヒーを手にした女は、
スタバにチェックインしたと言う確固たる称号が与えられた。
だから女は、
自ら選んだ、極上と思ったスタバの椅子に向かって、威風堂々とその歩みを進める。
女にとってはホテルのスイートルームに値する席なのだろう。
ワタシもとうとうスタバ女の仲間入りになったのよ!
女は、声を大にして叫びたかったに違いない。
しかし女は、そうはしなかった。
誇らしげだけど奥ゆかしい歩き方が、
女のこれまでの歩みを物語っているかのようだった。
暗転
女のチェックアウトは11時10分。
滞在時間は極少であるから、女は少しでもその時間を無駄にはしたくないと思っていた。
むしろそれ以上のものを得ようと狂喜乱舞しているような事をしていた。
悲しいかな。
スタバには一つ一つを区切るドアや塀はない。
ホテルと違って入室禁止と言う札を貼ることさえできないし、ここには元々そんなものすらない。
この時、恥も外聞も殴り捨てた女だと、女は思った。
次の瞬間だった。
ここは共同スペースなのよ。
ワタシはちゃんと弁えているつもりよ。
女の声が、突として、女の耳に届く。
女は、女の声に受け答えることにする。
ごめんなさい。でも愛してるの。
どうやらワタシの思い込みで、あなたに想いの丈を寄せてしまったのよ。
忘れもしない5月29日水曜日の10時45分。
あなたがスタバにやってきたあの時、あの瞬間に、
ワタシの目の前には、運命と言う言葉が忽然と現れたの!
それをなおざりにして、わたしは、、、、
言葉が続かなかった女は珈琲を飲み、高ぶった気持ちを静めることにした。
暗転
時刻は間も無く11時10分。
女のチェックアウトする時間だ。
縁があったらまた逢えるし関係はずっと続いてゆくはずよ。
女は、スタバに向かって短い決別の言葉を呟いた。
知ってか知らずか、
スタバは燦然な光彩を放ちながら笑っているようだった。
大丈夫。またこの光の中に戻っておいで。
一度でも、2度でも、3度でも。
光の中ではヘドロみたいなものが絶えず堆積しているし、思っている以上に笑えるものではないけれど、大事なのは、、、、
完