これ見よがし
2/27木曜日
ここは八王子駅の近くにあるスタバ。
女が一人入ってきた。
ロイヤルベージュと言われる茶色系の分厚いマフラーを首に巻き付けて、
カラスと言うのが相応しいような色の、
真っ黒の丈の長いコートのポケットに両手を突っ込みながら。
荷物は大きめのショルダーバッグがひとつだけ。
そのショルダーバッグは女の右肩で物憂げな表情をしながら、
ぶら下がってやってるんだよと言いたげだった。
スタバの自動扉から入ってきた女。
この時女はわき目もふらずと言う言葉が相応しい気がした。
一人スタバに入ってきた女は、
次の駒を進めるべく、
なんの迷いも感じさせないような威風堂々とした足取りでレジへ向かった。
店員さんと向かい合うと、腹は決まってると言わんばかりの身なりになり何か言葉を発している。
耳に届いて来ないから本当の所は不明だ。
女の言葉を聞きながら笑顔の店員さんはうんうん頷いている。
何故なのか解らないけれど女も一緒になって頷いている。
女はその時女の背中がさっきよりも柔らかそうになっている事に気がついた。
女は驚いた。
何故ならばと続けたいが女は我慢する。
これこそ秘密の真骨頂‼️と言いたげだ。
ただ女が気になったのは、
さっきまで固くなに口を閉ざしてた女が柔和な顔して笑っていたように見えたのが不思議だった。
もしかしたら、
女の過去には計り知れない程の苦痛や災難があったのかもしれないと勝手に想像した。
それから数分後。
モバイルで会計を済ませた女は店員さんから何かを受けとると身体の向きを180℃自転をさせた。
次の瞬間だった。
女は驚いた。同時に恐くもなり、
まさかの事態に身体が仰け反りそうなるのを必死に堪えた。
何故ならば、
女の手にはアイスコーヒーと茶色の紙袋が握られていたから。。
あれっ?
それはワタシと全く同じものではないか。
会計を終えた女。
次の駒を進めるべく席に向かった。そして座った。
女の動きは水面を流れる落ち花のようで、
その場に相応しくとても自然だと思った。
女は腰をおろすとスマフォをとりだし、
いましがた買ってきたそれにレンズを向ける。
パシャりとはならなかったけれどどうやら写真を撮ったようだ。
『何見てるのよ』😒
女は驚いた。
暖かさや愛情のかけらも感じないような、
冷ややかで、
憎しみとも思える女の声が聞こえた気がしたから。
『これ見よがしに写真撮ってる訳じゃございませんよ。
そりゃ、スタバに来たら写真を撮らない時はこれまで一度だってないし、この事実を証明してくれる人間がいないのは確かな事だけれど、ワタシだって人間ですもの。
人並みにスタバの写真くらいは撮りますよ。
今となっては意地と習慣みたいのが混ざりあってしまって始末が悪くて仕方が御座いませんけれど、どこかで大事にしておきたいのよ今は。。
しかし、
スタバにきたら毎回更新している訳では御座いませんの。
これとこれとは全くの別問題なのよ。
しかし不思議な事なのよ。
不遜で不埒で、、、、、、。』
女の声がここできれる。
女はこの後に続く言葉を聞きたかった。
どうしても今、知りたかった。
女は恐る恐る声の主がいる方へと視線を移してみる。
次の瞬間だった。
女と女の視線が激しくぶつかりあう。
車同士の衝突事故のようだった。
バチバチっと音を出し虚空で火花が散るかの如く。
女の身体から鳥肌がたつ。
幽霊みたいな顔で、
薄ら笑いしている女がこちらを見つめていたから。
もしかしたら、さっきからずっと見つめられていたのかもしれないと思った。
女は萎縮した。
今すぐこの場からいなくなりたいとも思った。
見てはいけないものを見てしまった時のようなあのおぞましさ。
しかし女から目を離せない。
いつまでも重たく肩にのし掛かる鉛のようで息苦しさを覚える。
どうしたら良いのだろう?
心の中に芽生えた一瞬の出来事がこのような結果を産み出してしまったのだ。。
女は、飲みたくないコーヒーを飲むことにした。
『ほら今日だって、
これ見よがしの更新をしているわけではございませんのよ』