【短編小説】路地裏の秘める魔力に魅せられて(後編)
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昨晩、雨に降られながら帰ってきた。
すっかり身体が冷え込んでしまった。
休む前に、湯船にしっかりと浸かった。
いつもより夜遅くなってしまったため、シャワーだけで済ませることも考えたが、自分に戻る時間がほしくて、湯船にお湯をためた。
こういうひと手間は、大事だと思っている。
たとえ、相手が自分だったとしても。
床に入ってからも、胸の高鳴りが止まらず、眠れたと思っても数時間ごとに目が覚めた。
時刻は、朝5時。
起きるには、いつもよりも早い時間だが、この調子じゃ、熟睡できないと判断して、諦めて起きることにした。
リビングに行き、コーヒーを淹れ、トーストと一緒に朝食を摂りながら、再び考え込む。
「あの場所で、私の人生は面白くなるだろうか」
こうやって、一人で考え込んでいると、たいてい良いイメージはやってこない。
考えていても始まらない。
もう一回見に行ってみよう。
朝食を済ませた私は、家を出た。
昨日と同じ道を歩いていく。
なぜか、昨日建物を見つけた時よりも、距離が近く感じた。
外から眺めてみた。
外からの光が入りにくい仕様になっているようで、薄暗く、昨晩同様に、中の様子はよく見えない。
「契約するにしても、内見して、情報見てからでないと。」
早速管理会社に電話をかけ、内見を依頼した。
すぐに来てくれるというので、待つことにした。
15分ほど待っていると、管理会社の人が到着して、ドアを開けてくれた。
しばらく放置されていた物件なのか、ホコリが舞っているが、このあたりは、すぐに改善できるだろう。
ひと通り物件の案内をしてもらい、しばし悩んだ。
正確に言うと、自分の心は決まっていたのだが、なんとなく悩んでるように見せておいた。
トントン拍子に話が進み、契約日も決まった。
あいさつや愛想はとても良く、フットワークが軽い管理会社で助かるが、信憑性にはやや不安が残る。
だが、今は、そんなことどうでもよかった。
掃除などは、自分で行うことを伝え、少しだけ安くしてもらった。
早速掃除道具の準備をした。
前日眠りが浅かったからか。
普段しないことばかりして疲れたからか。
気づいた時には眠りに落ちていた。
指定された日、手続きに必要な物品を準備して、管理会社に向かった。提示された住所へ向かうと、物件から、近いところにあった。
中に入ると、元気に挨拶をされた。
書類を書き、鍵を受け取った。
実質5分で済みそうな手続きだったが、ホットコーヒーを出してくれたため、オーナーと話をしながらいただいた。
なかなかに美味しいコーヒーだった。
いつも家で飲んでいるインスタントとは違う味わいだった。
手続きを済ませたわたしは、早速これからの自分の人生をかける場所へ向かった。
「今日から、始まるんだな。」
鍵をあけて扉を開けると、ホコリがまう。
まだ明かりがつかないため薄暗い。
持参したキャンプ用のライトで照らしながら掃除を始めた。
ここが、私の新たな一歩を踏み出す場所となる。
理想とする光景を思い描きながら、心を込めて掃除をした。
掃除には、丸一週間かかった。
ホコリだらけではあったが、自分でやるしかなかった。
誰かに頼れたらいいものの、あいにくそういう仲間やお願いできるようなコネクションは持ち合わせていない。
傷んでいる箇所はほぼなく、修繕の必要がなさそうであることだけは、幸運だった。
そこからは、自分との戦いになった。
この場所を、どのような世界観にしていきたいのか。アンティーク店にも出向いて、イメージを膨らませていった。
この時点で、契約から3ヶ月が経過していた。
ひとりだと、何をするにも時間がかかる。
少しずつ内装も仕上がってきたところで、休憩しようと、建物の外に出た。
入口に、一匹の黒猫が佇んでいる。
「この子、最初にこの街へ来た時も、このあたりにいたような…」
首輪はしていないようだが、飼い猫なのかもわからない。
建物に入り、水をいれた皿を置くと、勢いよく飲み始めた。
隣にしゃがみ、一緒に休憩をする。
一緒にといっても、会話をするわけでもないし、ただただ、隣にいるだけなのだが。
黒猫は、満足したのか、起き上がって歩き始めた。
「また、おいで。」
黒猫の後ろ姿に、声をかけた。
黒猫が歩いていくのを見届けた後、私は作業に戻った。
この場所を、おもしろくしたい。
おもしろく…というのは、笑えるということだけじゃない。
どんな人でも、どんなエピソードでも、そっと受け取り、適切な形でのお返しを届けること。
ここに来る方が、それぞれの道を歩んでいかれるように、送り出すこと。
そのやり取りをしながら、生きること、人生が楽しいということを、知ってほしいと思った。
みんなで、楽しく暮らしたい。
そう願った。
そのためにすることは、まだたくさんある。
私が、この路地裏の魅力に惹かれ、まるで魔力のようなものに、引き寄せられたかのように出会った場所。
室内は整ってきたけれども、私が理想とするこの場所は、ひとりでは完成しない。
私がこの場所に引き寄せられたかのように、他の人にも来てもらわないことには、始まらない。
場所は整った。
私は、ここに来るまでが1だと思っていたが、どうやら違うようだ、と気づく。
これからが、本当のスタートラインであり、0に到達したんだ。
0から1にする作業だと思っていたことが、実は、0地点に来る作業だったとは…。
自分が決めた道。
あの日、導かれるように出逢ったこの場所。
これも、自分の人生を、おもしろくしていることに違いはない。
おもしろいこと、楽しいことを繋げられるように。
路地裏の魔力に引き寄せられる人を出迎えられるように。
今できることをしていくのみだ。
路地裏の秘める魔力に魅せられて【完】
まさに
#なんのはなしですか
な短編小説を、ここまでお読みくださり、
ありがとうございます。
お気づきでしょうか。
まだ喫茶店が開店さえしていないことに…。
本当は、開店まで行きたかったのですが、
なかなか大変な作業だったみたいで
訪問していただけるようになるまで
もっと時間と努力が必要なようです(笑)
あの日迷い込んだ喫茶店は、
どこに佇み、
どのようにみなさんの憩いの空間に
なっていったのでしょうか。
今後の展開に、ご期待くださいませ。
ところで、
今回のストーリーに出てきた
フットワークの軽い、
ホットコーヒーが美味しい
管理会社のことですが、
どこか気になりません?
え、どうでもいいですか??
勘の鋭いみなさまなら
きっとお察しくださるはず。
ご想像してみてくださいね✨
(追伸)
いつきさんの賑やかし帯
使わせていただいています。
どのシリーズも、とてもかわいいです。
いつも、ありがとうございます✨
◎
最後までお読みいただき、
ありがとうございました!
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大変励みになります。
ここまでお読みいただいたあなたに、
幸せが訪れますように🍀
また次の投稿で、お会いいたしましょう。
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