#28 いってらっしゃい 気をつけて
その言葉に、ほっこりした
いつものように仕事へ向かうときだった。
その日は遅番。時刻は10時10分。
玄関のドアを開けると、ちょうど食材宅配サービスの方が玄関前に注文品を積んでくれていたのだ。
その方と目が合い、彼は僕にこう言った。
「いつもありがとうございます。いってらっしゃい」
ほぅっ
胸が温かくなるような、不思議な感覚を覚えた。
その方の微笑も、春風のような気持ちよさがあった。
そのまま自転車置き場へ向かっていると、今度は掃除をしているマンションの管理人さんと目が合った。
すると管理人さんは、僕の目を見てこう言った。
「いってらっしゃい。お気をつけて」
ほほぅっ
またも、じんわりと胸が温かくなった。
なんてことのない言葉なのに、管理人さんの朗らかな声色と笑顔も相まって、僕はとても元気をもらえた気がする。
そして、自転車に乗って職場へ。
「おはようございます!」
その日は、とても快活に仕事をすることができたのだった。
挨拶を返されないのが怖かった
社会人として挨拶というのは基本中の基本。
けれど、僕は挨拶をすることに対して恐怖心をどこかで持っていた。
いや、挨拶が怖いというよりも、
無視されるのが怖かったのである。
「おはようございます」
「お疲れさまです」
学生時代にも、社会人になってからでも数えきれないほど挨拶をしてきた。
けれど、その膨大な数の中の一部は返してもらうことができなかった。
たったそれだけだ。
たったそれだけなのに、僕は挨拶をするのが怖くなってしまったのだ。
僕の声が小さくて、相手の耳に届いていなかっただけかもしれないのに。
自分の挨拶に対して無反応だったのが悲しくて、そして恥ずかしくて。
そのたった数回の一方通行の挨拶によって、僕は自分から挨拶することをためらうようになってしまった。
けれど、宅配サービスの方と、マンションの管理人さんのおかげで僕は挨拶を捉え直したのである。
無視されたっていいじゃないか。
そのぶん、自分の挨拶が届いたときに、その人を元気にできる可能性があるのだから。
図書館では、ご来館された方に挨拶をする。
入館された方には「こんにちは」。
退館される方には「ありがとうございました」。
静かな空間なので大声は出せないが、なるべく元気に、そしてあのお二人のように朗らかな笑顔で挨拶をするようにしている。
もちろん無視をされることだってたくさんある。
だけど、笑顔で挨拶を返してもらうと、とても心が温かくなるのだった。
「気をつけて」で事故が減る?
同僚から聞いて知ったのだが、「気をつけて」と伝えることが事故を未然に防ぐ効果があるらしい。
ネットで調べてみても「気をつけて」を伝えるだけで、事故が7%減るというデータがあるのだとか。
しかし、残念ながらそのようなデータを見つけることができなかったので、真意のほどはわからない。
けれど、僕はその効果があると信じたい。
だから僕は職場でも、同僚が帰るときには必ず、
「お疲れさま。気をつけて帰ってね」
と伝えている。
一緒に働いてくれている大切な同僚だ。
元気に帰って、また元気に職場で会いたいから。
本日は月曜日。
noterの皆様の中には、これから職場へ向かう方もいると思う。
職場でなくても買い物に行ったり、遊びに行ったりする人もいると思う。
なので、伝えたい。
いってらっしゃい! お気をつけて!
——超絶余談。
数年前、当時の同僚と呑みに行ったときの帰り際。
呑み会が楽しかったのか、同僚は大層酔っぱらっていた。
そんな彼が、駅の改札で僕にこう言ってくれた。
「今日はありがと~! 気ぃつけてぬわぁ~!」
そして、彼は夜の闇へと消えていった。
そう言ってくれたのはとても嬉しかったけれど、
「いや、あんたこそ気をつけて帰ってくれよ」
と強く思ったことを、記事を書きながら思い出した。
彼は無事に帰宅したようだったが、
その後は、あまり無事ではなかったそうな。
(後日、元気に職場で会えましたとさ)
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