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創作作品集

52
自作の小説や詩など、創作文芸の作品を集めてあります。
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2020年11月の記事一覧

あとがき『朔望』~旅する日本語

 十一篇の連作短編『朔望』。読んでいただいた皆様、お付き合いありがとうございました。  …

涼雨 零音
4年前
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時とともに眠る晦

 残された男など残滓のようなものだ。女やもめには花が咲くのに男やもめには蛆がわくのだから…

涼雨 零音
4年前
16

暁の空と有明の月

前略  あなたが旅立ってから初めて、ここへやってきました。あなたに連れられて何度ここへ来…

涼雨 零音
4年前
14

名水に映える更待月

「ね、おいしーい珈琲飲みに行く?」  あきちゃんはそう言うと、私の返事を待たずに信号を左…

涼雨 零音
4年前
17

立待月に添える花

 北海道はひし形をしているイメージがあって、その下の突端にある襟裳岬は北海道最南端のよう…

涼雨 零音
4年前
18

十六夜月のためらい

「まだ、時間はあるぞ」  今から出てフェリーで渡れば昼には間に合う。食べて午後のフェリー…

涼雨 零音
4年前
14

望 フルムーン

 深い息を吐きながら湯の中で身体を伸ばす。両手で湯をすくってみる。黒い。湯に沈んだ自分の身体が見えないほど黒く濁った湯だ。  気散じに温泉へでも、と言われて思い浮かんだのがここだった。北海道は天塩郡にある豊富温泉。北海道に温泉は数あれど、思い出すのは豊富だけだ。  来年、結婚して三十年の年に、息子が結婚する。そのせいか自分の結婚生活を振り返ることが増えた。妻は、私は、幸せだったのだろうか。  真珠婚を前に一度離れてみましょうと言ったのは妻だった。あなたは気散じに温泉へで

待宵の雨月

「残念でしたわね」  北海道の冷たく静かな雨に濡れ、たちこめた霧の中を覗き込んでいると、…

涼雨 零音
4年前
22

十日夜に盃を

 もう何度も歩いた見学コースなのに、来るたびに新しい発見がある。その事実が自分の成長を裏…

涼雨 零音
4年前
17

満ちゆく弓張月

 夢が叶うって、もっと晴れやかなものだと思っていた。今日、僕は念願だった保育士としてスタ…

涼雨 零音
4年前
26

三日月の向こう側

「山がみんな同じに見えるんです、あれが何岳であっちは何山ですよとか言われてもイコミキみた…

涼雨 零音
4年前
21

朔 旅の始まる場所

 行こう、東京。私はおじさんの言葉に力をもらい、決意した。  私の家は北海道の洞爺湖の近…

涼雨 零音
4年前
23

まえがき『朔望』~旅する日本語

 長かった。 「旅する日本語」コンテストへの応募作品として、連作短編『朔望』を書き終えた…

涼雨 零音
4年前
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[東京90's 下北沢編]まぼろしと生きる町

 この町に目抜き通りなんてものはない。駅前から無秩序に伸びる道はどれも車がすれちがえないほどに細く、どの通りも似たような商店街だ。どれも少しずつカーブしていて、土地勘が無いと自分がどの辺を歩いているのかあっという間に見失う。そんな通りの一つに面した半地下の料理屋におれたちはよく集まっていた。まだ一度も注文されたことのないものもあるんじゃないかと思うほど大量の料理が並ぶメニュー。毎回初めてのものを注文した。  思えばおれたちは不思議な顔合わせだった。バンドをやっているおれ、劇