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十日夜に盃を

 もう何度も歩いた見学コースなのに、来るたびに新しい発見がある。その事実が自分の成長を裏付けてくれるような気がした。

 北海道は余市郡余市町にあるニッカウヰスキーの蒸留所。私は毎年ここへ足を運ぶ。

 思えばまだ酒を飲んだこともない高校生のころ、酒造りを仕事にしたいと思ったのは、図書館で出会った一冊の本がきっかけだ。川又一英の『ヒゲのウヰスキー誕生す』。亡き祖父がよく飲んでいたブラック・ニッカが、まさにその〝ヒゲのウヰスキー〟だった。祖父を思い出しながら手に取ったその本は、竹鶴政孝の伝記小説だった。彼がウヰスキーに賭けた生一本な情熱はまだウヰスキーの味を知らない私を魅了した。彼のように求道的な人生を送りたい、そう思った。

 短大を卒業して私はワイナリーに就職した。念願の酒造りだったけれど、私を待っていたのは葡萄畑だった。リンゴを求めて余市に拠点を置いた竹鶴の背中を追って、迷わず、進もう。

《了》

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涼雨 零音
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