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満ちゆく弓張月

 夢が叶うって、もっと晴れやかなものだと思っていた。今日、僕は念願だった保育士としてスタートする。

 保育士が男だというだけで嫌がる親御さんもいる。それが現実だし、目を背けても無くなるものではない。大学の先輩でも精神を病んで辞めてしまった人が何人もいる。僕に務まるだろうか。僕は子どもたちに、その親御さんたちに、信頼してもらえるだろうか。不安は尽きない。

 北海道上川郡剣淵町。幼いころから絵本が好きだった僕は、旅行で来たとき、この町の絵本の館で夢の萌芽を掴んだ。目を輝かせて夢中になっている子どもたちを見て、子どもに関わる仕事をしたいと思った。それは直接未来に触れるような仕事だ。不安に襲われるたび、僕は絵本の館へ行って僕の中に芽生えた想いがちゃんと育っていることを確かめた。

 大学を出て、僕は再び剣淵にやってきた。今度は保育士として働くために。

 今日、新しい僕が、ここから始まる。

《了》

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涼雨 零音
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