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音楽療法士って誰? 【「音楽療法」ってなんだろう】 #1

「音楽療法」と聞いて何をイメージしますか?
例えば、次の4つは「音楽療法」でしょうか?

・ヒーリング系音楽を聴いたら、よく眠れた。
・カラオケで歌いまくって、ストレス発散。
・落ち込んだ時に好きな曲を聴いたら
 元気が出た。
・コンサートで美しい演奏を聴いて
 癒された。

答えは、4つとも「イエス」で、かつ「ノー」です。というのも「音楽療法」という言葉は、広い意味で使われる時と、狭い意味で使われる時があるからです。

日本の音楽療法の第一人者、二俣泉さんは、これを「カジュアルな音楽療法」「フォーマルな音楽療法」と呼んで、区別しています。

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以下、二俣さんの著作などを参考に、私の視点を加えながら「音楽療法ってなんだろう」という疑問に答えてみようと思います。

目次
「音楽療法」にもいろいろある(#1)
 1:カジュアルな音楽療法
 2:フォーマルな(正式な)音楽療法*
フォーマルな音楽療法とは
 1:音楽療法士が行う 
 2:特定の対象に向けて行う(#2)   
 3:目的を持って行う(#3)
 4:計画的に系統立って行う 
 5:双方向の関わり合いの中で行う(#4) 
 6:音楽を使って行う


「音楽療法」にもいろいろある

カジュアルな音楽療法

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さて、最初に挙げた4つのエピソードですが、どれも自分の心と体の健康に音楽を役立てるために、私たちが普段からやっていることですよね。

これを「カジュアルな音楽療法」と呼びます。

私が週二回書いている『月・木曜朝のプレイリスト』は、この「カジュアルな音楽療法」の機会を増やしてもらうことを、主な目的にしています。


フォーマルな(正式な)音楽療法

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ただ、「カジュアルな音楽療法」では問題が解決しない場合もあります。

自力ではどうにもできない心の問題や、発達障害・知的障害、認知症、その他さまざまな病いや障害を抱える人、そして死を目の前にしている人などが直面する悩みは、もっと複雑かつ深刻です。

これを解決するためには、専門的な知識とスキルに裏打ちされた、音楽の戦略的な使用が不可欠。これが「フォーマルな音楽療法」です。


フォーマルな音楽療法とは

「フォーマルな音楽療法」は、以下の条件を満たしたものを指します。

音楽療法とは9

フォーマルな音楽療法の条件

1)専門の知識と技術を持つ音楽療法士が
2)特定の対象に向けて
3)目的を持って
4)計画的に系統立って
5)対象者ー音楽療法士の関わり合いの中で
6)音楽を使って
  行う



今日は、このうちの、条件1を見ていきましょう。


条件1:音楽療法士が行う

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「フォーマルな音楽療法」を担うのは、専門の知識と技術を持つ音楽療法士です。イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ドイツ、オーストリアなどでは、音楽療法士の教育は主に大学レベルのカリキュラムになります。アメリカでは、これをさらに修士レベルへ引き上げようという動きもあります(資格は国によって国家資格であったり、音楽療法協会の資格であったりします)。

カナダで音楽療法士になろうと思ったら、プロとして演奏活動をした経験がある(または演奏技術がプロレベルである)という前提の上で、最低でも大学レベルの音楽療法課程を修め、1000時間のインターンを終え、その上で資格試験にパスしなければなりません。

日本では、1)大学を中心とした資格試験受験認定校での教育か、2)日本音楽療法学会認定の講習会での専門教育+5年間の臨床経験、のどちらかを経て、資格試験に合格すれば、音楽療法士を名乗ることができます。

なぜ、専門教育や資格制度が必要なのか

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それは、対象となる方々の抱える問題が多岐に渡り、また深刻さの度合いが高いからです。

生理学、脳科学、神経科学、心理学の知識はもちろんのこと、音楽の戦略的な使用とそれを使いこなすだけの演奏技術、対人関係のスキルなど、さまざまな分野での最新の知識・技術があって初めて、音楽を「問題解決」のために使うことができるのです。

こうした幅広い知識とスキルなしでは、対象者をサポートするどころか、むしろその人の問題をこじらせてしまう可能性すらあります。

音楽療法のグレーゾーン

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「フォーマルな音楽療法」は音楽療法士が行うもの。では、音楽療法「的」な行為は、どうでしょうか。

例えば

・育てにくさを感じている親が、手遊び歌を使って子どもとのコミュニケーションスキルを育てる。
・知的障害者施設の指導員が、ギターを弾きながら利用者と一緒に歌う。
・老人ホームのスタッフが、入居者のリクエストに答えてピアノを弾く。
・緩和ケア病棟で看護師が、患者の苦痛を和らげるために、手を握りながらハミングする。

こういう状況は、現実にいくらでも起こり得ます。

特に最近は、医師や看護師、介護士、保育士、教師など、対人援助の専門家が対象者支援に音楽を使うことが増えてきています。そういう専門家のために、私も音楽療法士として「音楽を使ってよりよい支援を目指す」指導をする機会が多くなってきました。

こういう「音楽療法的活動」は、「カジュアルな音楽療法」と「フォーマルな音楽療法」との間のグレーゾーンにあります。

問題は、このグレーゾーンのどこから先が「フォーマルな音楽療法」で、どこからが「カジュアルな音楽療法」なのかということです。

専門性と職業倫理

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私は、少なくとも「フォーマルな音楽療法」とグレーゾーンの間には、はっきりとした境界線があると考えています(上図)。

その線引きは

・問題解決の、より高い可能性の提示
・音楽を使うことで起こる結果への責任

があるかどうかです。

音楽療法士には、この二つに対する覚悟があります。

例えば、医師の医療行為と、母親が子供にすりりんごを食べさせるのとを比べてみると、どちらの行為も子どもには大きな意味があることがわかります。異なるのは、医師が専門的知識を背景に「より有効な問題解決のやり方」を提示し、また、自らの医療行為に対して責任を負うということ。

それと同じことが、音楽療法士にも言えます。

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ただ、現実を見ると、音楽療法士が、こうした高い専門性と職業倫理に則って仕事をしているということに対する認知度は、極めて低い気がします。

「音楽による働きかけが人にポジティブな影響を及ぼすのなら、それを誰がやろうと構わないはず」「音楽の健康への使用を音楽療法士が独占するな」。よく言われます。否定はしません。

ただ、音楽療法のグレーゾーンには、対人援助の専門家のように一定の職業倫理に基づいて活動している人もいれば、そうでない人もいます。

例えば、専門性と職業倫理の伴わない「○○○セラピー」。こうした活動をする人の中には、苦しむ人にさらなる害を与えてもその責任をとらない人がいる、ということも、一応念頭に置いておいていただけたらと思います。

音楽療法士の矜持。

少なくとも私にとっては

目の前のこの人が
これ以上苦しまないですむよう
音楽の力を最大限に使いながら
その人と関わり合い
全力でサポートする

という心意気にあります。

音楽療法士の話だけで、こんなに長くなってしまいました。ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

来週は、『月・木曜朝のプレイリスト』をお休みして、この「音楽療法って何だろう」の続きを書いていきたいと思います。

ではみなさん、今日もよい一日を!


参考:
二俣泉『音楽療法士サバイバル・ブックー幸福な職業生活のための10章』(杏林書院)
宮本啓子・二俣泉編著『音楽療法を知るーその理論と技法ー』(杏林書院)
Wheeler, B. L. (2015). Music Therapy Handbook. New York: The Guilford Press.

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