映画「湯を沸かすほどの熱い愛」がくれた大切な想いと奇跡の話。
今日、4年越しの念願叶って
妻とこの映画を観た。
4年前から私がどうしても見て欲しいと妻に言っていた。
この数十年で一番心揺さぶられ、一番涙が止まらなかった作品だ。
(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会
出典:映画.com
でも妻は相当頑固なので
自分のタイミングが来ないと一切振り向くことはない。
コロナウィルスのStay Homeの日々で一緒にいる時間が増えて
あの映画、、観てみない?
とさらりと言ってみた。
気が向いたらね。
4年間言われ続けてきた言葉だ。
でも今日、急に前触れもなく
なんか今日気分がいいから
観てみようかな、あの映画。
と、ぽそっと呟いた。
これを逃したらまた
次の4年後を待たなくてはならない 笑
そしてついに
私は妻と一緒にこの映画を
4年ぶりに観ることにした。
それから
時が止まったように
一言も交わさずに
2人でただ涙を流した。
妻は涙を拭うこともなく
微動だにせず映画を観ていた。
ピラミッドの場面では
2人で嗚咽してしまった。
終わってからしばらく経って
どうだった?
と聴くと
妻は泣き晴らした顔で
一言
良かったよ
と呟いた。
それ以上は聴かなかったけど
今日はなんだかとても幸せだ。
今回はあえて
当時劇場で観て涙が止まらず暫く席から立つことができなかった
あの時の感動と衝撃を受けた数日後に
想いのままに書いたレビューを
この後に掲載させて頂きます。
この映画には賛否があるのは知っています。
母の愛情の表現やその手段
泣かせ要素の多いストーリー
そして衝撃のラスト。
でも私にとってはそれを全てふまえても
彼女のとった愛の方法が間違っていたとしても
あの状況下における
洪水のように溢れた愛の大きさと
家族と向き合う覚悟に自身が問われた気がしたのです。
だから4年前から今も全くあの感動が色褪せることはありません。
そして
このレビューには一つ後日談があります。
この映画への溢れんばかりの想いが通じたのか
この映画を観た1年後
今から3年前に
私にとっては宝物のような
ちょっとした奇跡が起こりました。
私は当時ある地方のミニシアターの番組編成マネージャーをしていました。
地域に愛されていた想いのこもった素晴らしい映画館でした。
ただ劇場経営としては経済的な困難もあり、私も番組編成担当としての責任も感じて退職を申し出て映画業界から別の道に進むことを決断していました。
そして私のその映画館の最終出勤日に
リバイバル上映されたのが
「湯を沸かすほどの熱い愛」でした。
その映画をブッキングしたのは、私がこの映画を好きなことを知らぬ後任のマネージャーだったので
人生、不思議なことはあるものだと、つくづく思いました。
そして私は自身の仕事の最後の日に
中野量太監督に会って
直接ご挨拶と御礼を言うことができました。
そして舞台挨拶の後
この後のレビューを印刷した映画の感想を
不躾にも監督にお渡しさせて頂きました。
中野監督はその場で読んでくださって
そして
にっこりと柔らかい笑みで
ありがとうと言われました。
その後、監督と2人で写真を撮ったあの時。
それまで十数年にわたって
映画という夢を追いかけ続けて
大手映画会社のプロデューサーから
ミニシアターの番組編成マネージャーまで
映画業界でさまざまな仕事をした
最後の瞬間でした。
あれから3年が経ち
もし
もう一度映画の世界に戻ることがあるならば
私はこの「湯を沸かすほどの熱い愛」の感動とともに
リスタートするつもりです。
あの時の奇跡に感謝を込めて
映画「湯を沸かすほどの熱い愛」レビュー
涙を多く流した映画が、傑作だとは限らない。
ただ、この映画は紛れもなく傑作であり
私の人生でおそらく最も涙を流した映画となった。
決して不幸を嘆くお涙頂戴だとは思わない。
あまりにも強い愛
あまりにも強い生きる力に心が震え
何度も涙が溢れてしまう。
物語はシンプルだ。
末期がんで余命まもなく死にゆくお母ちゃん=宮沢りえが
残りの時間に家族に何をすることを決断したのか。
失踪した夫を連れ戻す。
銭湯を再開させる。
いじめに遭っている娘に立ち向かう勇気を伝える。
そして
より重い決断をもって、家族に向き合ってゆく。
とにかく宮沢りえ扮する双葉=お母ちゃんの存在が凄まじい。
長い彼女の役者人生を全て詰め込んだような圧倒的なエネルギーで迫ってくる。
決して綺麗ごとでも優しさだけでも済まされない
家族に対する厳しくも深い愛情に
「そこまで、あなたは、家族と向き合えますか?」
と痛烈に問われた気がした。
家出中の夫にオダギリジョー。
情けないながらも妻を想う気持ち。
何にも行動できない彼が絞り出す愛情表現が
これまたたまらなく胸を突く。
そして娘の安澄を演じた
杉咲花があまりに素晴らしい。
「私は最下層の人間だから・・お母ちゃんとは全然違うから・・」
陰湿ないじめを受けている彼女の痛みが苦しいほどに伝わってくるが
双葉の娘に対する容赦ない態度が様々な想いをこちらに呼び起こす。
何が正解かわからない。
ただ、本気でぶつかりあう母と娘の姿に心震え
そしてまた予想だにしない行動に出る安澄の
必死の勇気を絞りだすシーンには滂沱の涙が止まらなかった。
新人賞ではなく今年の全映画部門の助演女優賞に足る素晴らしい演技だと思う。
稀有な運命で双葉の元にやってくる鮎子役の伊東蒼も素晴らしい。
母の愛を求め、焦がれる彼女の姿はもう涙無くしては見られない。
彼女のシーンだけでコップ1杯分いったかもしれない 笑
中盤のロードムービー的展開の先にも驚きが待っているがそれは観て欲しい。
人と人との繋がりというよりも
人と人と真正面からぶつかり合った上で抱き締める愛の大きさ。
「ああ、こんなに心から人と向き合ってきただろうか、、、」
と胸が苦しくなった。
そして彼女が弱り果てていきながら命の灯火が仄かに輝く姿は
もはや演技を超えていて、涙と鳥肌が止まらなかった。
中野量太監督が今後
日本映画の王道を牽引する一人の監督となることは間違いないと思う。
自身で脚本を書きメジャー配給でもなく
その物語の強さで宮沢りえの出演を決め
彼女を含めた全役者から真実を感じさせる生の感情を引き摺り出した。
印象的なシーンを創り上げる映像センスも素晴らしい。
この物語をどうしても届けたいという熱く一貫したぶれない姿勢で
ここまでたどり着いた奇跡に感嘆の意を感じざるを得ない。
観終えて数日経っても、レビューが書けなかった。
どんなに言葉を弄しても、この映画に詰まった想いの熱さは表現できそうにない。
ただ、本当にこの映画は観て欲しい。
私は一人で観たが、できれば大切な人と。
そしていまだに心の底にじわじわと暖かく燃えている炎は決して消えそうにない。
愛を出し惜しみして
この世を去りたくはない。
しっかり生きねば
心底そう思った。