天才クリストファーノーラン傑作6作品「ダークナイト」「ダークナイトライジング」「インセプション」「インターステラー」「ダンケルク」「テネット」怒涛の連続映画レビュー&シネマエッセイ
先程、「オッペンハイマー」のレビューを投稿しましたが、
天才クリストファーノーラン監督の傑作6作品のレビューも。
「ダークナイト」
「ダークナイトライジング」
「インセプション」
「インターステラー」
「ダンケルク」
「テネット」
6作品の映画レビュー&シネマエッセイをお届けします。
映画「ダークナイト」
深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている
この作品を観ると、私はこの言葉をいつも思い出す。
「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている」
ニーチェの言葉だ。
ダークナイトという映画はクリストファー・ノーラン監督の完璧な作劇と映像世界と
演技を超えてもはや神がかり的なまでに、ある象徴的な存在となったヒース・レジャーのジョーカーが共存した
もう2度と作られることの無い領域に踏み込んだ傑作だ。
作劇としても冒頭のシークエンスから一気に巻き込まれ、ジョーカーの仕掛けたトラップにバットマン同様、私達もはまっていく構図だ。
バットマンの素顔か、市民の命か。
ハービーの命か、レイチェルの命か。
弁護士の命か、病院の爆破か。
市民の命か、囚人の命か。
次々と死の二択を迫られ、善悪の境界が見えなくなってくる揺らぎと不安が蔓延していく。
まさにジョーカーがこの映画を支配していると思う。
この映画を伝説にした最大の立役者のヒース・レジャーは作品公開を待たずして28歳という若さで突然この世を去ってしまった。
ご存知の方も多いかと思うが、薬の併用摂取による突然死だった。
不適切かもしれないが、私はニーチェの言葉を思い浮かべる。
“Beware that, when fighting monsters, you yourself do not become a monster… for when you gaze long into the abyss. The abyss gazes also into you.”
怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。
深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。
ニーチェ著『善悪の彼岸』146節から引用
ヒース・レジャーのジョーカーの役作りと死の因果を邪推してはいけないと思いつつ
彼が生前、ジョーカーを演じることを心配していたと語っていたことを聴くと胸が苦しくなる。
彼は数週間ホテルの部屋にこもりきって、深く深くジョーカーの役作りにのめり込んだ。
びっしりと書き込まれ、遺された日記にはスタンリー・キューブリックの怪作「時計じかけのオレンジ」のアレックスの写真が至る所に貼られていた。
数少ない彼のインタビューではこう語ったそうだ。
「約1ヶ月間ロンドンのホテルに閉じこもって座り続け、小さな日記をつけながらいろいろな声を演じてみた。とにかくあの独特の声と笑い方を追求することが重要だったんだ。それでついにあのサイコパスの領域にたどり着いたんだ、良心のかけらもないあのジョーカーのね。彼は絶対的な反社会主義者で、冷血で、大量殺人を犯す道化師だ。監督のクリスはすべて僕の思い通りにさせてくれた。すごく楽しかったよ、実際にジョーカーが何を言い、どんな行動をするかの境界線がないんだからね。彼を怖がらせるものは何もないんだ。全部冗談だけど、、」
その後、こちらの心の奥底を不安にさせるようなあのメイクも、自分で塗りたくって完成したらしいが
メイクアップテストの写真も日記に貼られそのページの裏にbye-byeと書き込まれていたそうだ。
薬の過剰摂取は意図せぬものなのか、意図的なものなのかそれはわからない。
ただ、限りなく死という深淵に引き寄せられていたのではないだろうか。
真実をどこまでも見出そうとするアーティストは、普段、人が敢えて見ようとしないその闇の先までも手を伸ばしてしまうことがあるのかもしれない。
あまりに愚直でピュアであるがために。
こちら側とあちら側を隔てるその境目は私たちが思っているより
きっと薄くて手を伸ばせば届いてしまうような
そんな地続きな危うさを内包している。
どんな人にも’生’に強く繋ぎ止めるアンカー⚓️が必要だ。そんなことを最近強く感じている。
ただこの映画を観る時はいつもそんな憶測を吹き飛ばすような強烈なインパクトで
ヒース・レジャーが演技を超えた完全なる存在として私たちの前に現れてくれる。
ヒース・レジャー。真なるアーティスト。
その哀しい宿命と奇跡の存在を
私はこれからも人生において
何度でも、何度でも、目撃したいと思っている。
映画「ダークナイト ライジング」
全てを失った孤高のダークナイト 究極の選択の果てに
ダークナイトとは比較してはいけない。
あの作品はヒースレジャーという異物であり奇跡の存在が
恐らく監督でさえ予期せぬ化学反応を起こした
二度と真似できない伝説なのだから。
それでも本作も堂々とした大円団の力作だと思う。ジョーカーの後釜としては荷が思いベインの肉弾もまた見応えがあり、トムハーディ全く本人とは思えない。
そしてアンハサウェイ扮するキャットウーマンの黒く艶やかなスーツに包まれた美ヒップや身のこなしの美しさに目を奪われ、ゲイリーオールドマンやマイケルケインといった大御所英国俳優が作品の重厚感を支えている。そして、マリオンコティヤールはどの作品でも美しい。でも彼女には「マリアンヌ」の麗しい色気をもっと期待してしまう。
そしてクリスチャンベールは最後まで彼の役者の色を封印したかのように責任を全うした。主役なのに損な役回りに見えてしまう3部作だった。プロ意識を貫いた。
クライマックスの彼の決断も劇場で観た時にそうなるだろうな、と驚きよりも納得感があった気がする。
彼の選択はダークナイトまでは終始後手で振り回されたものだった。
善悪が揺らぎ、闇の騎士の存在の意味を見失い、ジョーカーてベインに立て続けにボロ負けし、
もう彼は古井戸の底で震えていた少年の自分に向き合うしかなかった。ブルースとして力を取り戻すしかなかった。
そこからの彼の選択には孤高の寂しさと美しさと覚悟が纏っている。
最後の真相は意見が分かれるところだが私はロマンを信じたい。
「インセプション」
夢の夢の夢の果てに私たちは何を見たのか。
ターゲットの夢の中に入り込み、そこに現れる潜在意識からアイディアを盗む。このテーマだけでご飯何杯も行ける。
映像の驚きとワクワク感を高めててくれ、更にテーマが夢と潜在意識という大好物が詰まっている映画。
ディカプリオも、ジョゼフ・ゴードン・レヴィットもエレン・ペイジもトム・ハーディにマリオン・コティヤール(やはり美しい!)もマイケル・ケインも渡辺謙も皆、それぞれの存在感が抜群かつバランスよく飽きさせない。
それにしても夢の中の夢の中の夢、、、この感覚、私は昔よくあった。怖い夢を見てガバっと起きて「怖い夢を見た」と話しているそれもまた夢。2重3重の夢構造は多層的な潜在意識の不可思議さ。これを映画にしてくれるとは、、
そして、あのラストシーン。
私は希望を信じている。
それにしても次回作が毎回楽しみなクリストファー・ノーラン。映画を観ることと夢を見ることはとっても似ている。現実が消失し別世界に連れて行ってくれる感覚。
そんな感覚に没入させてくれるNo.1監督。これからどんな驚きを魅せてくれるか楽しみで仕方ない。
「インターステラー」
誰も知らない宇宙の果ての壮大なラブストーリー
宇宙空間。ワームホール。最果ての星。ブラックホール。その美しさと神秘さと恐ろしさを十二分に堪能できる映画。
でも貫かれているテーマは愛。
冒頭とクライマックスがぐるりと無限の輪のように結びつく感動。その背景には壮大な映像と音楽が広がっていてそんな奇跡の可能性を素直に受け止められた。
葛藤を抱えながらの父と娘の互いを想う気持ちに胸が突かれる。
子供たちを残し宇宙に飛び立つ一連のシーン。家を飛び出してくる娘、車で泣くマシュー・マコノヒー、打ち上げのカウントダウンから発射のシーンバックがしびれる、泣ける。
宇宙の果てで交わされる石板のようなロボットTARSとマコノヒーの孤独だがユーモラスな会話が面白い。
最近いい意味で変人役が多かったマシュー・マコノヒーのストレートな演技が新鮮。
アン・ハサウェイも何度かイラっとさせられるが芯の強い女性を好演。
宇宙空間で一番美しいと思ったのは、やっぱり土星。ピアノの旋律に乗って「ああ、美しい、、」となぜか涙が溢れた。
しかし水に包まれた星の重力の影響で1時間で7年経つ星ってなんて恐ろしい!地球では考えられない巨大波も怖かったが、それ以上にそのぶっとんだ時間観念が恐ろしい。
これが逆だったらドラゴンボールの「精神と時の部屋」と同じで修業できてしまう。まさに時の不可思議さを描き続けるノーランの真骨頂!
ゾクゾク来たのは母船に残っていた乗組員と再会し、何年経ったかが分かったシーン。
驚愕した、、、そして、その過ぎ去った月日に来たビデオメッセージをマコノヒーが観るシーン。
ここはもうなんていうんでしょうか、やりきれなさがたまりません!!
後半の展開も意外性につぐ意外性で全く読めない中、最後はこんなことはあるかどうかは分からないけれど
だれもわからない宇宙の成り立ちから考えてそんなことがあり得るかもしれないというロマンティシズムを限界突破のリアリティーを超えて
十二分に感じさせてくれたクリストファー・ノーランとジョナサン・ノーラン兄弟に感謝。
未知なる宇宙の神秘とロマンをここまで味あわせてくれる映画は他に無いだろう。
「ダンケルク」
今、生きているということの奇跡を体感する戦場体験映画。
あの日、仕事帰りに新宿で映画を観た。
嗚呼、これぞ贅沢の極み。
TOHOシネマズ新宿IMAX。
ゴジラに向かって歩く。
相変わらず、客引きの多い歌舞伎町。
よく言えば国際色豊かな、或いは無国籍感高い映画館。
前から5列目中央。
視界いっぱいにスクリーンが広がる。
余白の映画だと思う。
顔を動かして、隅々まで空間を感じる。
広がる空。
荒れる海。
どこまでも続く海岸。
突如始まる銃撃と爆撃がみぞおちに響く。
ビクンと身体が5回位、反応。
ポップコーンポロポロ落とす。
ストーリー追うのでは無く、
今、襲いかかるものに反応する。
今、今、今、を感じる。
一瞬先はわからない。命。
今はまだ生きている。
それだけが全て。
空では急旋回。敵に後ろを取られる恐怖。
壊れる計測器。落ちていく仲間。
渋すぎるトムハーディ。泣ける覚悟。
海では無防備な船内。
いたいけな若者。心折れた兵士。
試される勇気。自分ならどうする?
信念の船長マークライランス。
海岸が一番容赦ない。
溺れる。撃たれる。敵は見えない。
逃げ場ない。クリストファーノーランが用意した舞台にどっぷり浸かる。
とにかくここから抜け出したい。
国に帰りたい。家に帰りたい。
生き延びたい。ただそれだけ。
全ての英国兵を見送っても残るケネスブラナー。
観終わって劇場をでると猥雑な歌舞伎町の浮いた違和感。私は死線を潜り抜けて覚醒感。冴え渡る景色。眩しいネオン。擦れ違う人の輪郭、はっきり感じる。さっきの客引き、まだいた。うつろな表情。目が死んでいる。ダンケルク観てきたら?
分析はせずままに、心臓の鼓動が覚えてる。
さあ、最寄駅に着いた。
家に帰ろう。
温かい布団が待っている。
贅沢の極み。
平和が続きますように。
映画「TENET テネット」
時間の概念を覆すクリストファー・ノーランからの最難関の挑戦状。
IMAXで打ちのめされた。
タイトルのTENET
右から読んでも 左から読んでも TENET
ここまで難解で、尚且つここまでエキサイティングな映画を見たことが無い。
冒頭からいきなり身ごと攫われる感じだ。
満席の観客のオペラハウスの怒涛の銃撃戦から圧巻。
ただこれは序の口でありクライマックスが何度でも訪れる。
中盤のカーチェイスの迫力もハラハラして自身の心臓の鼓動が聴こえた。
そして、ボ〇〇〇グ〇〇〇を実際に爆発させて撮影されたシーンは
いったいなんてことをこの監督はしだすのだろうと思った。。
この映画はSF映画でもありスパイ映画でもありタイムトラベル映画でもあり
名も無き男の巻き込まれ型サスペンスアクションとも言えるが
それらを全て融合させ、超越させているように思える。
もはやジャンル分け不可能なまさにジャンルは「クリストファー・ノーラン」。
主演の名も無き男はジョン・デイビッド・ワシントン。
元プロのアメリカンフットボールの選手。
父はあの名優デンゼル・ワシントン。
凄い演技力だ。彼が主役で本当に良かった。
重要なキープレイヤーになるロバート・パティンソンも「トワイライト」シリーズの記憶が濃かったが本当に素晴らしく
本作の彼には本当にぐっとさせられた。。
そして本作のヒロインとも言えようエリザベス・デビッキ。
「華麗なるギャッツビー」での抜群のスタイルと鋭い美しさが印象的だったが
この作品ではケネス・ブラナー扮する冷酷かつ凶暴な恐ろしい夫から
息子と自由を渇望する女性を知的かつ魅惑的に演じている。
この作品の中核のモチーフは”時間の逆行”
しかも順行と逆行が共存してしまう驚愕の世界。
クリストファー・ノーランが牽引してきたIMAXカメラと撮影技術、特撮技術がここまで進化したからこそ
この不可思議だがリアルな逆再生映像をスリリングに堪能できる。
長編デビュー作の「メメント」から
「インセプション」でも「インターステラー」でも
クリストファー・ノーランが常に語り続けてきたのは
時間の未知なる可能性の究極のカタチ。
「インターステラー」でも
「私は物理学者だ。怖いのは時間だ」という台詞があるが
時間とは果たして何なのか?
この作品ではエントロピーや時間反転対称性をモチーフに、有名な物理学者キップ・ゾーンが脚本を監修したらしいが
もう一度学生に戻って物理学と量子力学を勉強したい。。
だからネタバレ徹底考察は物理学を極めた人に譲りたい 笑
そしてこの映画は映像ギミックに寄り掛かった作品では決してなく
濃く熱い人間ドラマでもあり、友情や恋愛の香りにも満ちている。
クリストファー・ノーランはいったいどこまでいってしまうのだろう。
私たちを最もエキサイティングに未知の世界に連れて行ってくれる監督。
彼の映画では見たことのない世界のどこへでも行けて
驚愕の光景を観ることができて
いつも異次元に没入トリップしてしまう。
物理学と量子力学の可能性の果てを緻密に設計、脚本にして
それを完璧に映像化し私たちにとんでもない体験させてくれるのは
この世でたったひとりクリストファー・ノーランしかいない。
IMAXで圧倒されたまま、難解な時間のねじれに打ちのめされた今日。
もう一度観て更に深く感じたい。
時間の概念を覆して我々に突き付ける映画「TENET」。
果たしてあなたはクリストファー・ノーランからの最難関の挑戦状を
見事1回目で解明できるだろうか。
そして、「オッペンハイマー」渾身レビューはこちら