谷川連峰馬蹄形縦走
《山行概要》
谷川岳インフォメーションセンター駐車場(06:00)⇨西黒尾根登山口(06:10)⇨肩ノ小屋(07:45)⇨谷川岳トマの耳(07:50)⇨谷川岳オキの耳(08:00)⇨茂倉山(08:45)⇨蓬ヒュッテ(10:00)⇨清水峠(10:50)⇨朝日岳(12:00)⇨笠ヶ岳(12:45)⇨白毛門(13:15)⇨谷川岳インフォメーションセンター駐車場(14:40)
総距離:27.3km
累積標高:2,828m / 2,828m
日付:2021年10月15日
数ある日本の山岳の中でも、谷川岳は最もその名を知られた山のひとつでしょう。
谷川岳を含む、上越国境に横たわるこの周辺の山脈は、越後国と上州間の往来を古来から阻んできました。両国往来のための道は三国峠と清水峠を越えるルートが開設されていたものの、谷川岳の脇を抜ける清水峠越えのルートは、急峻な地形に加えて豪雪地帯であることもあいまって、常に危険が伴う命懸けの難所でした。
ところがこの清水峠には信じがたい史実があります。なんと、この峻厳多難の地に、明治の時代、国が難工事の末国道を通したというのです。
以下、自称「プロ・オブローダー」、フリーライターの平沼義之氏が主催する「山さ行がねが」から引きます(注2)。
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清水峠は、群馬県と新潟県の県境(上越国境)上にあり、列島の中央分水界をなす、海抜1,448mの峠である。この道は国道291号に指定されているが、峠の前後あわせて約28kmが「自動車交通不能区間」となっており、俗に言う“酷道”のひとつである。これはおそらく、全国でも最長クラスの国道における自動車交通不能区間であるが、それでも群馬県側の大半は登山道になっていて、多少健脚であれば誰でも歩くことが可能である。そして、素晴らしい景観を誇る清水峠に立つことも出来る。
だが、新潟県側の大半の区間(約12km)は廃道になっていて、ここ何年、或いは何十年の間、誰一人として通り抜けた人がいない。
ただ、4年余りの工事を経て明治18年8月に、国道8号として馬車の通れる幅3間(5.4m)の峠道が開通したという記録。同年9月に峠で行われた開通式には、皇族の北白川宮能久親王をはじめ、内務鄕参議山縣有朋、司法鄕議定官山田顕義、元老院議官林友幸、土木局長三島通庸など、錚々たる顔ぶれが揃ったという記録。そして、開通翌月の大雨で道が決壊し、そのまま冬を迎えてますます崩れ、翌年以降も回復されぬまま遂に廃道となったという… 思わず「それ本当かよ」とツッコミたくなるような、伝説的廃道譚が語られ続けている。
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その驚きの史実の詳細は平沼氏の記録をご覧いただければと思いますが、この地に道を通すことは、関係者の歴史的悲願であったことがわかります。
幻の清水国道滅失からしばらく経ったのち、約9年の歳月をかけ、谷川岳の中腹を貫く鉄道用トンネル、清水トンネルが完成したのが昭和6年(1931)。そして戦後、現在JR上越線下りに使用されている新清水トンネルならびに上越新幹線用の大清水トンネルのほか、関越自動車道関越トンネルが開通し、この地は上越国境越えの交通の要衝となっています。
清水トンネルが開通した影響のひとつが、谷川岳登山者の急増です。鉄道が通じたことで特に都心からのアクセスが容易になり、休暇を取らなくても、土曜日夜発、日曜日帰宅の週末登山が可能になったこと、そして、谷川岳周辺の峰々は2,000mには届かないものの、高々としたアルペンムード満点のダイナミックな山容と、厳しい気候から森林限界が低く、無雪期には幾千幾万もの高山植物が可憐な花々を咲き誇ることもあって、屈指の人気の山になります。
同時に、谷川岳に隣接する大岩壁、一ノ倉沢が腕に覚えのあるロッククライマー憧れの地となり、地の利もあって挑戦者が殺到した結果、谷川岳は遭難死者数ダントツ世界一の山と知られることにもなるのですが…。
そんな谷川岳も、登山人口の減少や、クライミングに関しても条例等規制が強化されたことでかつての賑わいはなりをひそめ、現在は静かな山になりました。ロープウェイ周辺は、新緑や紅葉などの観光シーズンになると賑わいを見せることがありますが、山の奥に踏み込めば、そこは静謐な空間です。
数字の上では遭難死者数ダントツ世界一なことは事実ですが、それはそういう分野に近づかない限り、一般的には無縁のことです。
今回は、錦秋の谷川岳の魅力を存分に楽しむため、馬蹄形ルートを縦走します。
注1
《国土地理院コンテンツ利用規約に基づく表示》
https://maps.gsi.go.jp/help/termsofuse.html
出典:国土地理院ウェブサイト(地理院地図:電子国土Web)
GPSデータに基づく軌跡ならびに文字記号を描線。
注2
平沼義之「山さ行がねが」清水国道編