高尾歳時記 2024年5月18日
今年も高尾でムサシノキスゲが咲きました。
ゼンテイカ(禅庭花)という花があります。ススキノキ科ワスレグサ属の多年草で、主に山地や亜高山に自生します。
ゼンテイカがこの植物の標準和名なのですが、あまり耳馴染みがないかも知れません。一般的には、別称であるニッコウキスゲのほうがよく知られているでしょう。
ニッコウキスゲの名は、栃木県日光市の戦場ヶ原で群生が観察されるのがその由来だと聞いたことがありますが、真偽は知りません。確かなのは、ゼンテイカ自体は本州中部以北の高地や高山帯に広く分布しているということです。福島県裏磐梯の雄国沼や尾瀬、先述の戦場ヶ原や信州霧ヶ峰車山高原などが群生地として著名ですが、北アルプスの稜線などの高山帯でも頻繁に見かけますし、奥多摩でも自生している姿の報告があります。要は、その生育域は日光に限られないということです。
高山のイメージが強いゼンテイカですが、それに酷似し、低地に特化順応した植物があります。ムサシノキスゲです。
標高の高いところに生育するゼンテイカと比して、環境順応の結果特異な性質を持っています。それは:
ゼンテイカより花被片が狭く、花筒が短かく、苞はより円みがあること。
葉はゼンテイカよりも細いこと。
花に芳香があること。
そして、花期が4月下旬から5月上旬と早いこと、などがあります(*1)。
多くの文献が、ムサシノキスゲをゼンテイカの変種とし、東京都府中市の固有種としています。しかるに、ムサシノキスゲを変種として扱わない(または、ゼンテイカとは別の種として扱う)学説もあり、確定していないと理解しています。
かつて東京郊外がまだ開発されていなかったころ、ムサシノキスゲは多摩丘陵を中心にあちこちで見られた、ごくありふれた野草だったとのこと。今は見る影もありませんが、東京郊外にはゼンテイカ(またはその変種)が普通に見られる自然環境が広がっていたという事実は一考に値します。こんにち、自生するものは世界唯一、東京都府中市の浅間山公園にしかないとされています。
でも実は、明治の森高尾国定公園内の某所でも、極めて稀少ながらその姿を観察することができます。今年も無事出会うことができました。
かつて身近だったものが、現在は絶滅の危機に瀕しているということは確かでしょう。これからも高尾でその姿が引き継がれていくことを切に願います。
本日日本列島は高気圧に覆われて、全国的に晴れの天気でした。気温も上がって、午前10時時点の高尾山山頂は23℃。八王子市街地は夏日になったようです。ですが、湿度は低く木陰に入ると風は涼しく、絶好の山行日和
でした」。
陽気に誘われてか、高尾山は大変な混雑でした。本格的に混む前に下山しましたが、清滝駅は家族連れ、海外からの観光客、若者一向など様々な人たちで溢れかえっていました。しばらくは早朝出発、混雑前に下山の計画にしないといけませんね。
今日もお花が多いところを巡ってきました。
*1
参考文献
東京都レッドデータブック