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高尾歳時記 2024年4月20日

西山峠のニリンソウの大群落が開花のピークを迎えています。

西山峠のニリンソウの大群落

ニリンソウはその名のとおり、一株に二輪の花をつけます。花期をできるだけ長くして受粉の確率をあげるため、まず一輪目が開花し、そのあと遅れて二輪目が開花します。そして、二輪目が終わりを迎えると葉は急速に朽ちていき、一ヶ月もするとニリンソウは跡形もなく地上から消えてしまいます。

ニリンソウは二輪目の開花が終わるとほどなくして葉が朽ち始める。花がおわると急速に朽ちていき、これほどの群落が消えてなくなる。

現在ほとんどの株が二輪をつけていて、一部は一輪目が終わっており、葉が朽ち始めている株もありますので、ピークを過ぎ終息に向かいつつあるところです。

二輪が同時に開花しているピーク時には、空想の世界にいるような美しさです。
来年も楽しみです。

昨日4月19日は二十四節気の穀雨。桜の季節も終わり、春も終盤です。約二週間後、5月5日は二十四節気の立夏。夏の始まりです。

高尾では、ツボスミレ(ニョイスミレ)、アケボノスミレやコミヤマスミレなど、季節の最後のほうに咲くスミレが開花し、春が終わりに近づいていることを知らせています。

今日は気温があがり、午前11:00の高尾山山頂の気温は22℃。市街地は26℃と夏日となり、今年初めて春夏仕様のウェアを着用しました。ちょっと歩くだけで汗ばむような陽気で、一気に季節が進んだよう。高尾山は大変な混雑でした。

今日もお花の多いところを巡ってきました。

セリバヒエンソウ。人家近くや道端でたくさん見かけます。
峰の薬師参道から取りつきます。
イチリンソウが開花のピークでした。ニリンソウと姿形はよく似ていますが、ニリンソウと違って一株に一輪の花をつけます。さらに、花の大きさがニリンソウと比べて大きく、ニリンソウが概ね3cm程度である一方、イチリンソウは小さいものでもその二倍、大きいものは10cmを超えます。区別は比較的容易です。
タカオスミレ(ヒカゲスミレ)の花も終盤。タカオスミレは、1928年植物学者中井猛之進博士が高尾山で発見し、ヒカゲスミレの変種として発表。そののち、変種ではなくヒカゲスミレの一品種、すなわち同種の色違いであると再分類されたものです。 ヒカゲスミレは、その葉に鮮やかな緑色から茶褐色ないしは黒紫色までかかる色違いがあり、また、葉の両面とも濃い色のものや、表側だけ濃いものなど様々な個体が存在します。このうち、葉の両面ともに色の濃いものをタカオスミレと呼びます。高尾山で発見されたり、高尾山の名を冠した植物は様々ありますが、そのうちのひとつです。
こちらは葉全体が緑色のヒカゲスミレ。高尾では、ヒカゲスミレの葉の色のバリエーションのほどんど全てが観察できます。
マルバスミレ。高尾で咲くスミレのなかでは若干遅めに開花します。個体数は多く、日が当たらない薄暗いところであればあちこちで観察できます。
ツボスミレ(ニョイスミレ)。高尾に咲くスミレのなかでは、最後の方で開花します。
とても強いスミレで、人家近くから山中のあちこちで観察でき、場所によっては直径50cmをこえるクラスターを形成することがあります。
花が1cm程度ととても小さいので、多くのかたは咲いていても気づかないようです。
チゴユリ。個体数は多く、今ぐらいの時期から開花が始まり、山中のあちこちで観察できるようになります。
ホウチャクソウが開花間近でした。チゴユリとホウチャクソウは種として近似していて、交雑できます。両種の交雑種はホウチャクチゴユリと呼ばれ、高尾で発見された植物のひとつです。
ニガイチゴ。高尾ではよく見られるキイチゴの一種です。名前に反して実は甘いのだとか。食べたことありませんけど。
あっ!これは植物としては変わり種の、ギンリョウソウ。みずから栄養を作らず、根に宿る菌類を通じて栄養を得る腐生植物と呼ばれる植物の一種。光合成をしないので葉緑素は完全に失われていて、色の抜けたキノコのような不思議な姿をしていますが、これでも立派な花です。森の人気者です。
平凡社「日本の野生植物」から引きます(*1)。
「葉緑素を欠いて光合成能を失い、菌根菌から有機物を含めたほとんどの栄養分を得る従属栄養の多年草。腐生植物とか菌寄生性の植物ともいわれる。」
こう見えて、ツツジ科の植物です。
ヤマブキソウ。ヤマブキの花に似ている花をつけることがその名の由来ですが、両者は全く違う種です。1mから2m程度の高さの低木であるヤマブキと比して、こちらは地面近くから葉を茂らせて、大きな花をつけます。また、ヤマブキは花弁が5枚ですが、ヤマブキソウの花弁は4枚。区別は容易です。
ヤマブキソウ ケシ科ヤマブキソウ属 Hylomecon japonica
短い根茎がある多年草で、全体に柔らかく、鮮緑色。多細胞の縮れた毛がまばらにあり、橙黄色の汁液がある。葉は互生、羽状複葉。花は上部の葉の腋に1−2個つき、黄色でやや大型。萼片は2個。緑色で、開花直前に散り落ちる。(*2)
わあっ!大好きなフデリンドウが咲いていました。かわいいですね。
リンドウの仲間の多くは秋が花の季節ですが、フデリンドウは春に開花します。
つぼみがクルクルっと筆をねじったような形をしているのがその名の由来です。
ミヤマキケマン。日が直接当たらない薄暗いところで、川や沢沿いの湿気の多い環境を好みます。
ツルカノコソウ。こちらも日が直接当たらない薄暗いところで、川や沢沿いの湿気の多い環境を好み、ミヤマキケマンと同じようなところでよく見かけます。個体数は極めて多い。
ホタルカズラがピーク。昔はあちこちでみかけたという話を聞いたことがあるのですが、見つけるのは結構難しい。
今日はあちこちでジュウニヒトエをみかけました。個体数は比較的多い。日が燦々と降り注ぐ明るい斜面で時にクラスターを形成している個体を観察できます。
これはツクバキンモンソウ。場所を抑えているので見つけられていますが、高尾の個体数は少なく、徐々に減少傾向にありちょっと心配しています。
こちらはキランソウ。地面にロゼッタ状にベタっとはりついて、この時期紫色の花を咲かせます。
コバノタツナミ。高尾では比較的個体数は多いのですが、通常は梅雨前に咲く花です。ちょっとフライング。
南高尾山陵では数少ない眺望スポット、見晴から富士山方面。空は霞がかかって遠景はうっすらですが、かろうじて富士山見えています。
イカリソウが開花しています。イカリソウ咲き始めると、春も終わりに近づいているんだと実感します。
ニオイタチツボスミレ。スミレの中では比較的遅めに開花します。
あっ!アケボノスミレです。こちらもスミレの中では比較的遅めに開花します。
個体数は少なく、見つけるのは難しい。
クサボケ。日本の固有種ですが、園芸用に導入された北米では逸出して帰化しているとのこと。
(小仏)城山に到着。空の霞が強くなってきました。富士山もうっすら。
同じく(小仏)城山から、都心方面。こちらも空の霞が強く、遠景は限定的。
一丁平の桜は終わって、葉が青々としてきました。
みどり眩しい一丁平のモミジの若葉。
高尾山山頂に到着。富士山方面の遠景。空の霞で富士山はほとんど見えませんでした。
同じく高尾山山頂から、丹沢主脈方面。丹沢主脈の稜線もちょっとぼんやりしています。
ヘビイチゴ。この花も、夏が近づいていることを知らせてくれる花です。
コミヤマスミレが咲き出すと、スミレの季節ももう終盤です。

コミヤマスミレは自然公園法に基づく環境大臣指定植物(*3)で、採取ないし損壊することは明示的に犯罪です。自然公園法の罰則は六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金。本当に刑罰が科されるのは、常習的に繰り返し野草を盗掘するなどよっぽど悪質な場合でしょうけど、高尾山はその全域が国定公園に指定されていて、さまざまな規制があります。例えば、登山道脇などにロープが張られて立ち入らないよう促されているのをよく見かけますが、これも自然公園法に基づき、公園管理者である東京都が行政権限を執行しているものです。わかりやすくいうと、犯罪に対する未然の「警告」です。高尾山には長年かよっていますが、一度だけ、6号路で狼藉をはたらいていた輩が警察官に逮捕されしょっぴかれていくのを目撃したことがあります。

ロープやその他の規制設備や設置物には「明治の森高尾国定公園」と札がさがっていますが、公園管理者である東京都が行政権限で設置したことを意味します。他にも罰則を伴う規制がありますのでご注意を…とはいえ、登山道から外に足を踏み出さない、動植物に触らないなどごくあたりまえのルールを守っていれば大丈夫です。

かわいいお花を見つけたら写真を撮りたくなってしまう心情は(なにせ私自身がそうですので)理解できますが、花を撮影したいのであれば、距離をとって自然を壊さずに済むための十分な性能を持つ、きちんとした機材(カメラ)を準備しましょう。スマホでは届かない距離なのに、我慢できず登山道をはずれ、生息地を踏み荒らして接写を試みる人が、残念ながら高尾では絶えません。スマホはあくまでもスマホであり、カメラではありません。そういう用途のために作られていません。先人たちが残してくれた、今我々が享受する高尾のこの素晴らしく多様な植生と植物を引き続き後世に伝えるためにも、登山道の外に足を踏み出さないと撮れないのであれば、お願いですから撮影を諦めましょう。

高尾山ケーブルカー清滝駅。こちらもモミジの若葉が眩しい。
アメリカスミレサイシン。元々は園芸種として海外から導入されたものが、高尾山のふもとでは逸出して野生化しています。
こちらもアメリカスミレサイシンですが、プリケアナと呼ばれる品種。こちらも園芸種が逸出したものです。

(*1)
五百川裕・倉重祐二・高橋英樹,『日本の野生植物 4』, (平凡社、2016), P.225

(*2)
福原達人,『日本の野生植物 2』, (平凡社、2016), P.107

(*3)
参考資料


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