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高尾山ノスタルジア No.5:琵琶滝(2/2)

『八王子名勝志』に、当時の琵琶滝の様子を描いた挿絵があります(資料①)。

(資料①)『八王子名勝志』から。「琵琶びわ瀑布たき」の挿絵。
左のページには琵琶滝が描かれ、その手前には不動堂。建物はしっかりしたものになっているが、現在も同じ位置にある。右のページには滝行に来た人たちの休憩所である「籠舎こもりや」が描かれ、焚き火で暖を取っている人物も見える。(注2)
(写真①)現在の琵琶滝。資料①の左ページ部分。『八王子名勝志』の挿絵と同じ位置に不動堂がある。冬なので水量は少ない。
不動堂の前から、琵琶滝を撮影。
(写真②)現在の、資料①の右ページ部分。かつて登山道が通り東屋が建っていたところは切り崩され、平地が整備されて水行道場の事務所が置かれている。現在も建物奥の登山道をあがると、本文中にある、いにしえに滝に通じていた道を辿ることができる。
事務所裏の登山道(琵琶滝道)をのぼると、病院道との分岐である石仏広場前に通じ、さらに病院道をくだる道が、『八王子名勝志』で説明されている道と考えられる。

向かって右奥の方から滝方向にくだる登山道が描かれていて、その途中に、登山道を覆うように東屋があります。屋根の下には腰掛けのようなものがありますので、通りがかりにここで休憩できたのでしょう。また、屋根の下に焚き火で暖をとっている人物も見えることから、滝行の準備などもここで行われたのでしょう。『八王子名勝志』は「籠舎こもりや 瀑布垢離たきこりするもの休息所きゅうそくしょなり」と説明しています。現在この場所は切り崩されて平地が整備され、水行道場の事務所が設置されています(写真②)。ここでは現在も滝行が行われ、一般の方の参加も可能です。

絵葉書の形式から大正7年(1918)から昭和7年(1932)の間に発行されたと推定される絵葉書に残る、琵琶滝の写真。キリリとハンサムな行者さん、かっこよくて、すてき。この当時の撮影技術や機材性能は想像の域を出ませんが、構図もフォーカスもシャッタースピードも深度もバッチリきまっていて、とてもいい写真です。(注1)

滝のすぐ横には不動堂が描かれています。茅葺き屋根の質素かつこぢんまりとした建物です。現在は小さいながらも屋根が銅板葺宝形造の、しっかりとしたお堂になっています(写真①)。

冬から春にかけて、本州は北から吹き込む湿った空気が中央部の山脈にあたり、日本海側で大雪を降らせる一方、太平洋側は乾いた空気が山から吹きおりてきて、カラッとした晴天の日が多くなります。雨が少ないことから、高尾山を流れる川やせせらぎの水量は少なく、琵琶滝も遠目にはほとんど一筋の糸のようになります。

戦時中(太平洋戦争中)に撮影されたと推定される琵琶滝の写真。木々の葉が豊かに茂っていることから、暑い時期と思われます。水量豊富です。資料①の挿絵に描かれているように、水量充分だと二段になることがわかります。(注1)

春以降は降雨量も増え、特に梅雨や台風の時期嵐が来て川は洪水し、琵琶滝の水量も豊かになります。『八王子名勝志』に、琵琶滝とその名の由来を解説する箇所があります(資料②と③)。以下抜粋します(表示できない字は現代文字に置き換え)。

(資料②)『八王子名勝志』から。「琵琶瀧」への道のりと梵字石の解説ならびに琵琶滝の解説文の冒頭部分。(注2)
(資料③)『八王子名勝志』から。琵琶滝の解説文の前ページ(資料②)からのつづき。(注2)

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それ琵琶瀑布びわのたき絶巖ぜつがんそふくだること二丈有余いうよそのはば大概おほむね四尺有余いうよ駭浪飛薄がいらうひはくして素雪そせつ玉をくだき。白虹はくこう日にえいして蒼樹さうじゅ隂鬱いんうつの間にみなぎり落ち。下流かりうあゐたたへきひき巨石きょせき嶄巖ざんがんかたわらめぐ瀑下たきのしたたたずみのぞむに千嵐せんらんあおぎ毛骨もうこつなつさむ百雷びゃくらいつづみうつ声音せいおんとききこしこうしそのあゆみ退しりぞけてしづか心耳しんにすましきけたちま驟々さうさうとして急雨きううごとあるひ切々せつせつとして私言ささめごとごと其声そのこゑ隱々いんいんとしてじつ神仙しんせんありてここ琵琶びわたんするにたりゆゑなづくと。」
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「駭浪飛薄」は成語として、漢文の素養があれば何のことかわかるのでしょうか。それとも、「駭浪」は「なみ みだれ」と訓読できること、そして「飛薄」は「飛白」、すなわちかすり模様のことか。意訳すると、「なみみだかすりの如し」のようなことでしょうか。「素雪」はわかりますが、「玉を碎き」はすなわち玉砕、滝のしぶきを雪塊が美しく砕け散るさまに描写したのでしょうか。「毛骨夏も寒く」とか言ってますけど、そんなわけないでしょ…などなど、格調高すぎて、一体何のことかさっぱりわかりませーんというようなところがありますが、とにかく、なんかすごそうです。はい。

高尾出身者としては、誇大広告の苦情がこやしないかとヒヤヒヤしますが。

『八王子名勝志』には、こんな解説もあります(資料②)。

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梵字石ぼんじせき
瀑布壺たきつぼの中にありて水中に入らざればみえず。つたえいふ弘法大師その石に梵字をしるし百日参籠さんろう加持かぢ有て末代まつだい凡夫ぼんぶの病苦をすくひ給ふ為なりとぞ
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弘法大師様が梵字を刻み、庶民を末代まで病気の苦難から救ってくれる、百日参籠のご利益りやくがあるありがたい石が滝壺に沈んでいるというのですが、今でもあるのでしょうか。通りがかるたびに、滝の方に目を凝らして探すのですが、わかりません。やっぱ、滝に打たれに行かないとダメですかね。うーむ。


(注1)
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参考資料:文化庁 著作物等の保護期間の延長に関するQ&A

(注2)
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