高尾山ノスタルジア No.5:琵琶滝(2/2)
『八王子名勝志』に、当時の琵琶滝の様子を描いた挿絵があります(資料①)。
向かって右奥の方から滝方向にくだる登山道が描かれていて、その途中に、登山道を覆うように東屋があります。屋根の下には腰掛けのようなものがありますので、通りがかりにここで休憩できたのでしょう。また、屋根の下に焚き火で暖をとっている人物も見えることから、滝行の準備などもここで行われたのでしょう。『八王子名勝志』は「籠舎 瀑布垢離する者の休息所なり」と説明しています。現在この場所は切り崩されて平地が整備され、水行道場の事務所が設置されています(写真②)。ここでは現在も滝行が行われ、一般の方の参加も可能です。
滝のすぐ横には不動堂が描かれています。茅葺き屋根の質素かつこぢんまりとした建物です。現在は小さいながらも屋根が銅板葺宝形造の、しっかりとしたお堂になっています(写真①)。
冬から春にかけて、本州は北から吹き込む湿った空気が中央部の山脈にあたり、日本海側で大雪を降らせる一方、太平洋側は乾いた空気が山から吹きおりてきて、カラッとした晴天の日が多くなります。雨が少ないことから、高尾山を流れる川やせせらぎの水量は少なく、琵琶滝も遠目にはほとんど一筋の糸のようになります。
春以降は降雨量も増え、特に梅雨や台風の時期嵐が来て川は洪水し、琵琶滝の水量も豊かになります。『八王子名勝志』に、琵琶滝とその名の由来を解説する箇所があります(資料②と③)。以下抜粋します(表示できない字は現代文字に置き換え)。
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夫琵琶瀑布ハ絶巖に傍て下ること二丈有余その幅大概四尺有余駭浪飛薄して素雪玉を碎き。白虹日に映して蒼樹隂鬱の間に漲落ち。下流ハ藍を湛え碧を扡て巨石嶄巖の側を縁り行く瀑下に彳て望むに千嵐仰て毛骨夏も寒く百雷鼓を打て声音時に聞ゆ而て其歩を退けて静に心耳を澄て聴バ忽ち驟々として急雨の如く或ハ切々として私言の如く其声隱々として實に神仙ありて茲に琵琶を弾するに似たり故に号くと。」
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「駭浪飛薄」は成語として、漢文の素養があれば何のことかわかるのでしょうか。それとも、「駭浪」は「浪 駭れ」と訓読できること、そして「飛薄」は「飛白」、すなわち絣模様のことか。意訳すると、「浪駭れ絣の如し」のようなことでしょうか。「素雪」はわかりますが、「玉を碎き」はすなわち玉砕、滝のしぶきを雪塊が美しく砕け散るさまに描写したのでしょうか。「毛骨夏も寒く」とか言ってますけど、そんなわけないでしょ…などなど、格調高すぎて、一体何のことかさっぱりわかりませーんというようなところがありますが、とにかく、なんかすごそうです。はい。
高尾出身者としては、誇大広告の苦情がこやしないかとヒヤヒヤしますが。
『八王子名勝志』には、こんな解説もあります(資料②)。
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梵字石
瀑布壺の中にありて水中に入らざればみえず。伝いふ弘法大師その石に梵字をしるし百日参籠加持有て末代凡夫の病苦を救ひ給ふ為なりとぞ
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弘法大師様が梵字を刻み、庶民を末代まで病気の苦難から救ってくれる、百日参籠のご利益があるありがたい石が滝壺に沈んでいるというのですが、今でもあるのでしょうか。通りがかるたびに、滝の方に目を凝らして探すのですが、わかりません。やっぱ、滝に打たれに行かないとダメですかね。うーむ。
(注1)
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